ある村の風物詩の変
村や町には、その地に根差した「風物詩」というものがある。
東北の山間部にある村には、秋になると狐火を見るようになり、平野に何百ヘクタールも水田を持つ村には、初夏にホタルを見る。その地域の環境や特産で風物詩は異なり、余所のものから見れば大概それらは不思議に映るものである。かくいうこの村にも不思議な風物詩がある。
毎年、夏の始まり、ある一行が目の前の山を訪れるのだ。
村の目の前には、小川を挟んで大きな山があり、私たちはその山からの恩恵を受けて生活していた。ある一行というのは、編笠を被り、藍色の麻を着た、7から8人の男で組まれている。村からみるに、この一行は特に何をするというわけでもなく、山に入り数日経つと帰っていくのだ。皆彼らを不思議に思ってはいるものの、何十年と前から続いていることであり、特別関心を示さない。加えて、村長とは話をつけており、毎年彼らから他の地域の特産品を貰うものだから、悪い風には誰も見なかった。
ある年の夏の始まり。例年通り、彼らは山を訪れた。彼らが来て2、3日経った頃、農作業に勤しむ村の昼下がりに爆発の音が響いた。村人たちはすぐ煙の立つ山の中腹まで向かったが、男たちに足止めされた。「危ないから近づいてはいけません。」村人たちをなだめる一行の一人は「事情は後で説明する」、を繰り返すだけでこれ以上進ませてくれない。見れば、20人はいるであろう団体が秤や見たことのない竈などを持ち込んでいた。遠くで「もっとハッパ持ってこい」と怒声が聞こえ、まもなく爆発音が再び響いた。
村長と一行の長が一旦の話をつけ、この件を落ち着かせた。村長曰く、彼らは熊を退治するために火薬を使った、と。村人のほとんどが納得しなかった。毎年通っている彼らが、今更熊相手に爆発など起こすか。それに、彼らの持ち込んだ秤や竈に説明がつかないうえ、「ハッパ」という言葉を村人は知らなかった。
村長も村人たちを納得させられないのはわかっていた。しかし、村は弱い。一行に注意こそすれど、いうことを聞かせる力はない。毎年貰う特産品から、彼らが大きな町に住み、何かしらの莫大な富を有していることは察していた。彼らと表面上であっても、「山へ入ることを許している」という村の立場を保ちたかった。
あの一件から数か月経ったが一行は未だ去らず、人数を増やし一団へと変わった。その頃には、山は痩せ、恩恵を受けていた村も貧しくなっていた。爆発は週に5、6回聞こえ、火薬の嫌な臭いと煙を山中にたちこませている。そして、村の中で体のあちこちに痛みを感じる奇妙な病が流行り、何人かは若くして死に、何人かは四肢の一部が不自由になった。
村人たちは何度か抗議をするも、どれも空しく受け入れられなかった。山は彼らに占拠された。木々は切り倒され、山の斜面の一部が土色を見せた。山に動物の気配は失せ、川もいくらか濁って見える。
猫は異常行動を起こし、鳥は空から堕ち、魚は水面上で白い腹を見せる。
夏の始まりを告げる風物詩であった彼らを、今では毎日見る。