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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

幸せな結末

作者: 字
掲載日:2022/07/06

 悪役令嬢物や転生物をいくつか書いてみたのですが、途中で詰まったので逆側からの視点で書いてみた。

 私は何も知らない子どもだった。

 スラムと隣接するような下町で、母と共に生きていた。母は元はお貴族様に仕えるメイドだったらしいが、母はその時の事を忌わしく思っているらしく、思い出を語ることもなかった。

 私が13歳になった時に、突然王家から使いが来て私は王の落とし胤だと言われ、有無を言わさず王城へと連れて行かれた。母とは、母の恋人に私が襲われてなんとか逃げて、縋りついた母に泥棒猫と詰られてからあまり顔を合わせなくなっていた。

 仕事を見つけて家を出なければと思っていた時だったので、ある意味よかったのかもしれない。

 そこまでの人生も底辺だったけれど、そこからは更に地獄の日々だった。

 私は貴族の人たちが、幼い頃から当たり前に学んでいる事毎を何も知らない。失敗すれば鞭で手を打たれ、「わからないなら聞きなさい!」と怒られるのだが、私は「自分がわかっていない」事すらわかれないのだ。平民と貴族では食事の取り方すら違うなんて、どうして平民にわかるというのだろう。あいさつが違う、入浴の仕方が違う、朝の支度も違う。そもそも常識も違う。

 何もかもわからない私に、王家は早々に諦めた。そもそも王家が私に目をつけたのは、政略結婚に丁度良かったからだ。

 しかも相手は目上の国ではなく俗国の一つであり、最近大きな功績をあげたために、褒美として姫を賜るのだとか。王家には他に姫がいたが、彼女は美しく聡明で、ちゃんとした他の大国との繋がりに使えるため、私が選ばれたらしい。

 磨けば見られなくもないと着飾らされて、私は教育もろくに受けぬまま、俗国に連れて行かれた。


 私が輿入れする相手の王子様はとても美しい人だった。そして紹介をされてもきちんと挨拶もできない私に優しく笑いかけてくれた。

 私が王族だったとわかったあの日以来、初めて私に優しく接してくれた王子様に、私は逆上せ上がった。

 知らなかったのだ。貴族の…王族の、完璧な愛想笑いを、私は判断することなど出来なかったのだ。


 だが、すぐに私は現実を知ることになった。

 連れて行かれた夜会でうまく挨拶もできず、向けられる貴族たちの白い目。目も合わせてくれない王妃と、常に憎々しげな国王。

 私は歓迎されていない。当たり前だ。

 せめて学びたいと思っても、文盲の私には本を読むこともできず、教師をつけていただけないかとお願いしても「大国の姫君に教育などと、大それた事はできません」と断られる。

 更に、ある時私はメイドたちの噂話を聞いてしまった。

「殿下もお可哀想に」「相思相愛の◯○様との結婚も秒読みでしたのに」「よりにもよってあんな、みっともないゴミ姫と」「完璧な御令嬢だった◯○様との落差も酷いものですわ」

 曰く、美しい銀糸の髪にターコイズグリーンの瞳(私はターコイズを見た事はないのでどんな色かわからない)。月の光を集めたような美しい立ち姿に、学者さえも唸らせる聡明な頭脳。殿下を陰日向に支え、出しゃばることのない控えめな令嬢。

 なるほど、美しく優しい王子様には、同じように完璧なお姫様がいなくては、確かに物語は成り立たないもの。

 でも、では、私はどうすれば良いのだろう。好きで嫁いで来た訳ではない。私の一存で結婚を止めることだって出来ない。

 私はただ、流されるまま無為に日々を過ごしていたが、ある日突然罪人のように、兵士によって無理矢理に部屋から出された。

 王族の前に引き摺り出された私に、彼らは無慈悲に言った。

「お前の国で反乱が起きた。王族は全て処刑されたらしい。お前はもう政略結婚のコマですらない。国に返しても良いが、このままどこへなりと逃げても良いぞ」

 帰れば間違いなく、私も処刑されるのだろう。逃げる道も示唆してくれるのは、慈悲なのだろうか。

 処刑されるか野垂れ死ぬかの違いしかなさそうなものだが。

 同じ死ぬのなら誰かの手を煩わせるのも酷だろう。私は野垂れ死ぬ方を選んだ。

 王宮から追い出されるために渡り廊下を歩いている時、花の咲き乱れる中庭が見えた。

 王子様が、女性と戯れている。遠目で目の色は見えないが、美しい銀糸が風に舞う。

 王子様が笑った。

 愚かなことに、私はその時初めて、私に向けられていた彼の優しい笑顔が儀礼的なものなのだと知った。




 目隠しをされ王宮から出され、馬車で遠くまで運ばれて、出されたのは森の中だった。

 馬車に共に乗ってきた兵士が、私の手に小さな袋を握らせる。

「お守りだ。元気で」

 知っている相手だっただろうかと顔を見れば、この国に来てからつけられていた護衛の人だった。

「ありがとう」

「いや…ではな」

 馬車が急いで走り去る。なんとなく予感があった。


 森の中に1人佇むと、すぐに魔物が現れた。何体も、何体も。

 もらったお守りを少し離れた草むらに投げれば、魔物たちはそちらに鼻を向ける。

 お守り…魔物寄せの、香り袋。


 私は笑う。ああ、なんて素晴らしい。

 きっとこれが、正しい事なのだ。


 悪い国の悪い姫はこうして魔物に殺され、正しい国の正しい王子と美しい御令嬢は幸せに暮らしました。めでたしめでたし。


 そうだ、きっとこれが、最高に幸せな結末なのだ。






◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

本当は、この後助けられて幸せになる〜とかにしようと思ったのですが、主旨に反するかと思いやめました。


でも後味悪いの嫌だって人のために、以下で本当の意味で幸せな結末。








 魔物が私に飛び掛からんとした時、魔物たちの間から白い獣が現れた。神々しく輝く美しい毛並み。薄く青を履いたようなプラチナの輝きだ。

 魔物たちはあっさりとその獣に道を譲る。獣が魔物たちにとって上位種なのは間違い無いだろう。

 獣は私の前にふわりと優美に座ると、重々しく口を開いた。

「娘。俺を抱き上げる事を許す」

 彼(声でオスだとわかった)は前脚を上げ、私に抱っこをせがんだ。

 長く、きらやかな毛並み持つ、美しい白猫が。



 私が紛れ込んだのは、モフモフ天国な森でした。


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