西の森へと向かう道
騎士団の馬車は、さすがに通常の馬よりは駿足だが、それでもフィルツよりはどうしても遅くなってしまう。よって5日後の到着と聞かされている。
さて、無事に時間通り出発したので、後はフィルツに任せて朝食を摂る事にした。宿で用意して貰った弁当とモモピーチジュースをアイテムボックスから取り出してみんなに配った。
「おおっ! さすが彩りも美しく、綺麗に盛り付けてあるな。」
多分、普段は弁当なんてやってないんだろうけど、さすがに一流料理人は弁当にも手を抜かないようだ。
乾燥させた植物のツルで編まれた容れ物を開けると、薄切りのパンに赤いトマリー、燻製肉、色とりどりの野菜などを挟んだ物に、卵で作った酸味の強いソースで味付けした物を色のバランスも良く並べてあった。パンもしっとり柔らかいので、シャキシャキ野菜との対照的な食感が楽しめる様になっている。
食後は馬車の中を少し片付けて、馬車の幌を修復する為の布を使って簡易な1人用の幌を作り始めた。
というのも、今までの移動は俺達だけだったので、好きな時に馬車を止めて休憩する事が出来たが、今回は騎士団の人達と同時に一斉休憩となる。野宿なので目隠しが必要になる場合もあるだろう・・・お風呂の時などに。
排水も新たに転送石の送信側の石をセット出来る様にして、受信側の石を人気のない場所に投げ入れておく。これでお風呂事情等は解決した。
「前に居る隊長さんの馬車で作戦会議をして来るよ。」
俺は休憩の時に隊長の馬車に乗り込み、しばらく作戦の打ち合わせを行った。それから自分の馬車に戻って、こちらの作戦を決める事にした。
「西の森の魔女の戦力としては、ゴブリンが60体、オークが30体、体長が30メートルの巨大な魔獣が1体いるらしいよ。魔女自身は火の上位精霊を使う様で、かなりの火力を備える上に物理攻撃も効かないから、今のシルフィールの矢ではダメージを与えられないだろうな。」
「隊長さん達が言ってたのは「今回の魔女は100%まで融合出来る精霊使いで、更に上位精霊との組み合わせだったから、召喚されたばかりで精霊使いとの戦いを訓練していなかった勇者様は全く歯が立たなかった」という事なのよね?」
「うん。精霊への融合と言うのは『精霊化』という力を使って契約精霊の居る異空間に近づく事なんだけど、相手が『酒を強奪しただけの盗賊』だと思って油断してたんだろう。だから勇者様に『上位精霊使いが武器に精霊化の力を纏わせる事で、異空に居る上位精霊使いにも融合率に応じたダメージを与えられる』っていう事を教えて無かったんだろうね。」
「まあ、それをやるにはシルフィールみたいに融合率が高くても訓練が必要だから。今回シルフィールは茂みからゴブリンやオークを狙い撃ちにして、気付かれたら逃げる事。ティアは上空にいてシルフィールに情報を与える役目だ。」
「アスクさんには勝算はあるの?」
「まあ、俺は前世で上位の2精霊と契約してたから上位の精霊使いとも戦った事があるし、魔王の魔剣には異空間切断の剣もあるから大丈夫だろうと思うんだよね・・・まあ、今の俺が魔女に攻撃を当てられるかは分からないけどね。」
「絶対に死なないでね?」
シルフィールが心配する通り、今回の敵は間違いなくこの世界に来てから最強の敵となるだろう。みんなを残して死ぬ訳にも行かないから、気を引き締めてこの戦いに望まなければならない。
さて、フィーラは・・・一応ステータスを確認するか・・・。
フィーラのステータスを確認すると職業は『魔法使い』だった。だが持っている魔法は初級の火魔法のみ。他は家事スキルがあるのみである。
「フィーラは今回・・・アレン君と一緒に隠れてろ。」
「うう・・・お役に立てず、申し訳ありません。」
フィーラは最初、俺に付いてくると言ったので邪魔だときっぱり断った。今後に向けて、少しづつ戦闘訓練などもさせておくべきかも知れない。
それにしても、転生後は大人しく生きるという目標はどこに行ってしまったのか。
その後の昼食からは食事が配給されるので、騎士団の人達と同じ食事が支給される。とは言え、通る道は普通の街道なので、先発部隊が先々で保存食じゃない、きちんとした食事を用意してくれた。肉は多いが美味しく頂けた。
* * *
出発してから4日目の夜を迎えた。予定では明日の10時頃には西の森で魔女と対決する予定である。
硫黄の匂いをさせながら森に入ると敵に感づかれるかも知れないので、今夜は入浴無しで早めに寝ようと思っている。さすがに騎士の方々も昨日までと違って少し殺気立っている様な気がする。
と言う事で、夕食を済ませ、早々に馬車の中に入り雑魚寝で寝る。端から、俺、ティア、シルフィール、フィーラの順になっている。シルフィールとフィーラの間に挟まれたりしたら絶対に落ち着いて寝られないだろうから、ここがベストポジションなのだ。
騎士の方々と一緒だから魔獣も襲ってこないので、今日も安心して眠れそうだ。
よろしければ、ブックマークと評価をお願いします。