温泉の町フラッカでのんびり過ごす5
一晩寝ると、俺の体調も復活していた。
「アスク~、朝になったよ!」
ティアは俺が目覚めた事に気付いて布団の中に入ってくる。
「朝ご飯を食べたら、ガイドブックに載っている観光お薦めコースのモンポタ湖に出掛けようか。」
今日の予定としては、モンポタ湖という温水の湖で「温泉亀」に乗って遊覧。その後昼食として、湖に隣接されている釣り堀で「金色アネゴ」という淡水魚を釣って、その場で焼いて食べる予定だ。
「わ~い。おさかなっ!」
遊びに出掛ける事が嬉しいのか、ティアもテンションが高くなっている。すぐにでも出掛けたそうなティアを優しく諭し、取り敢えず朝食を食べに行った。
「申し訳ありません。いつも朝食にお出ししている宿の名物「メークリの卵で作ったオムレツとプディーン」ですが、ここ数日卵が入手出来なくなっておりまして、普通のコケッ鳥の卵で作った物をご提供させて頂いております。」
楽しみにしていたメークリという鳥の卵が、本日は入荷されていない事を告げられる。
「あ~、それは残念ですね。まあ仕方が無いので、それでお願いします。」
出て来た朝食メニューは、コトコト長時間煮込んだ野菜たっぷりのスープ、サラダ、パン、豚挽肉の腸詰め、コケッ鳥のオムレツ等、中々のボリュームだった。
「う~ん。オムレツは普通だな~、メークリの卵が無いのが本当に残念だな。」
「ガイドブックには「特に食後に出てくる「プディーン」は、卵の濃厚な味わいと滑らかな舌触りで、最高の甘い幸せが口の中いっぱいに広がります。」って書いてあるね。うう・・・これは食べてみたかったわ。」
シルフィールも残念そうにしている。コケッ鳥の卵で作ったプディーンは、それなりの味だった。
朝食を終え、モンポタ湖へと出発した。フィルツは休んでるので、乗り合い馬車に乗っての移動となる。モンポタ湖は温泉がメインのこの町では唯一と言ってもいいくらいの娯楽ポイントとなる。
10時過ぎ頃に到着したので早速「温泉亀」遊覧に向かった。亀から落ちると濡れるので、レンタルの水着を着用した(せっかくなので新品を購入)。水着を着たシルフィールを見ると、本当にスタイルが良いんだなと感心してしまう。
乗り場に着くと、温泉亀の背中に1人づつ乗って遊覧に出掛けた。
「うわ~、亀さん泳ぐの早いね~。」
ティアは早速大はしゃぎしている。
「水もほんのり温かくて、足を付けると気持ちいいよ。」
シルフィールも足をバシャバシャしながら大はしゃぎしている。取り敢えず楽しんで貰えたのなら良かった。しばらく湖の遊覧を楽しんだ。
その後、シルフィールはもう一つの遊びである、特急温泉亀綱引きコースに挑戦。泳ぐのが3倍速い亀に手綱を付け、「水浮葉」と呼ばれる葉っぱを足に巻き付けると10分程水面に立つ事が出来るので、亀に引っ張って貰うのだそう。
「うわ~。すっごく速いよ~!! きゃあ~~~~っ。」
この遊びはティアが嫌がったので、俺と一緒に見学する事にした。シルフィールが水上を引っ張られる姿を見つめていると、シルフィールの胸があまりに激しく揺れるので、胸の水着が取れてしまわないかと心配になり食い入るようにずっと見つめていた。決して下心はないのだ・・・。
結局水着は取れなかったので安心し、皆で岩滑りをしながら露天風呂に水着で入ったりした。
後は釣り堀で昼食用に「金色アネゴ」を皆で釣り、炭火で焼いて貰ってその場で食べた。白身で淡泊だが、柔らかくてきめ細やかな身質は、上品な味で非常に美味しい。ティアは相変わらず頭からボリボリと丸ごと食べている。内臓は取ってあるから釣り針は無いだろうけど、釣った魚は一応気を付けようね・・・。
宿に戻る時間になったので、再び乗り合い馬車に乗って宿へと向かう。空いていたので馬車の御者さんと話していると、その人は俺達の宿泊している「ツヤツヤ美人の宿」の近くでメークリ鳥を飼育している人だった。
「最近、夜になると猿の魔獣「ロッポロ」が出没するようになりましてな。そいつらがメークリの飼育小屋に侵入しては、卵を食べちまうんでさあ。凶暴なあいつらが結構な数で来るので追い払えないし、そろそろ冒険者に依頼しに行かねばなりませんなぁ。」
とため息をついた。
今から冒険者に依頼するなんて、俺達は明後日には首都に向かって出発するのに、卵が食べられないじゃないか。俺とシルフィールは顔を見合わせると、
「今夜ロッポロを退治すれば、明日はメークリの卵料理が食べられるんでしょうか?」
俺とシルフィールは、清々しい程の欲望にまみれていた。
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