西の森の魔女との戦い3
「うおおおおっ!」「どりゃああっ」
俺は、魔女に対して聖剣を振るい続けるが、まるで実体では無いかの様にダメージを与える事が出来ない。
「お前、上位の精霊使いとの戦い方を習わなかったのか? 確かスレイグラード王国にも何人か上位の精霊使いが居ると聞いているが。」
俺に向かってあきれたように言い放ち、魔女は面倒くさそうに立っている。下手をすれば、このまま地面に寝転がってしまいそうな感じすらある。
「そいつらは聖地とやらに派遣されてるとかで、一度も会った事なんかねえよ。くそっ、聖剣なのに何で斬れないんだよっ!」
「魔王や魔獣になら、そのままでもダメージを与えられるかも知れないがな。その有様では、聖剣も只の棒だな。」
「・・・だったら俺の最強の技を、お前にプレゼントしてやるぜ。」
俺は聖剣から4本の牙の様な雷を発生させ、魔女に狙いを定める。4発の雷撃が四方から敵を攻撃すると同時に、雷を纏った聖剣による突きで相手を貫くという集中力のいる大技である。
「雷皇獅子穿孔牙っ!!」
最早洞窟の中だという事すら関係なくなり、俺の最強の攻撃を放つべく、魔女めがけて聖剣を構えた直後、
「おい、私の部屋をこれ以上壊すのは止めて欲しいものだな。」
声がした瞬間、魔女の全身から炎が立ち上り、一部が黒い炎へと変わると同時に鋭く長く伸びて、俺の右肩を貫いた。
「ぐああああっ?」
激しい痛みで倒れ込む俺。
「はっはっはっ、どうだ? かつて『黒炎の魔女』と呼ばれた私の黒き炎の味は?」
魔女はそう言うと満足げに笑い、床で苦しむ俺を残して出口へと歩いて行く。
「このまま炎で丸焼きにしてやっても良いが、お前はまだヒヨッコのようだから、椅子の件はこれで許してやろう。」
そう言い残して、魔女は裸足のまま外に出て行った。
「ま・・・待て。」
俺は激しい痛みで動かない体を引き摺りながら、魔女を追って外に出る。
外ではまだ乱戦状態が続いていた。騎士団に引けを取らずに戦う魔獣達は驚く程の戦闘能力と防御力の高い魔防具を装備しているようだ。更に回復の魔道具を使用して回っているゴブリンまで居るお陰か、不思議と死者が誰一人出ていないように見える。
その中心では、騎士団の隊長と副隊長が2人掛かりで魔女の部下の女と戦っている。部下の女は腕から触手の様な物を生やしており、それで防御や攻撃を行っている。
「隊長・・・この女の体、硬すぎますよ。見た目は普通の皮膚なのに、一体どうなってるんですかね?」
「さあ分からんな。この触手みたいな奴での攻撃を見た感じ、魔獣の類だとは思うがな。一つ言えるのは、こいつらからは何故か殺気を感じないって事だな。」
「それは同意ですね。何考えてんだ、こいつら。」
すると少しの間、戦況を見ていた魔女が口を開く。
「シャーリィ! 10分の1まで許すから、さっさと終わらせろ。」
「あっ、ご主人さまっ。お目覚めですか? 了解です。」
そう言うと、シャーリィと呼ばれる部下の女はその場で立ち止まり、
「皆さんっ。少しだけ大きくなりますので、離れて欲しいです!」
すると魔獣達は、示し合わせた様にその場から一瞬で退避する。
「んんんーっ。10分の1くらいですっ!」
女はみるみる内に異様な姿の魔獣に変身し、体長も30メートル近くまで巨大化する。突然目の前に現れた巨大な魔獣を見て、騎士団の隊員達は一斉に動きを止める。
「やーーーっです!」
魔獣の長い髭のような物を隊員達に向かって次々と叩きつけた。
「ぐああああっ!!!」「うおおおおおっ!」
騎士達の体は次々に麻痺状態になり、全員が倒れ込んだ。
「うおおおおお! シャーリィさん万歳!!」
離れていた魔獣達は一斉に歓喜の声を上げた。
「ようやく静かになったな。この連中はすぐに森の外に捨てて来なさい。それと大工係の者は、私の椅子と床に開いた穴を大至急修理するように。」
魔女の言葉を聞き終わると同時に、シャーリィ以下魔獣達は声を揃えて、
「了解しました。ご主人様っ!!」
と、西の森の魔女への忠誠を込めた言葉を声高らかに発した。
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