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ダリストンへ到着

 シルフィールと一緒に山を下り始めた。女神の加護があるとはいえ、どのレベルの攻撃まで跳ね返してくれるのかも分からないので、移動の間中ずっと索敵スキルを使用して魔獣を回避していた。


「索敵って本当に便利ですね。全然魔獣が出てこないですよ。」


「いや~、君こそ来る時大丈夫だったの?」


「来る時は矢を沢山持ってましたし、運良く魔獣とは出会わなかったんですよ。」


 麓まで下りると、魔獣の気配は無くなり、安心して歩けるようになった。暫く歩くと、丁度乗り合い馬車が通りかかったので乗せて貰った。そのまま数時間、町に到着したのは夕方だった。


 ダリストンの町は余り大きくないようだが、近隣に魔獣が頻繁に出るようなので、しっかりとした壁が町を囲んでいる。入口には老人の門番が椅子に座って寛いでいる。シルフィールが近づいて行き、親しげに話しかけた。


「トムさん、ただいまっ!」


「おお、シルフィール! 無事に帰ってきたな。それでセブリ草は手に入ったのか?」


「はい。孤児院の子供達の分は十分作れそうです。」


「それは良かった。ところで、そっちの人は誰だい?」


「旅人のアスクさんです。山でオオキバイノシシから助けて貰って、ここまで一緒に来ました。」


「おおそうか・・・シルフィールを助けてくれて有り難うな。」


 門番の爺さんが、俺を見て笑顔で微笑む。


「さあ急いどるんじゃろ、早く孤児院に行ってやりなさい。」


 門番がシルフィールの知り合いだったお陰で、すんなりと町に入れた。


 ダリストンの町の中は、小さいけれど賑やかで、そこら中に蛙を象った石などが飾ってある。何でも数百年前の勇者の仲間の蛙がこの町の出身らしく、大切に祀られているらしい。


 通りには猫の耳が付いた人や、牙や角のある人も普通に歩いている。この世界も沢山の種族が共存しているようだ。


「アスクさん。ここが私のお薦めの宿「金の蛙亭」です。」


 金の蛙亭は、入口に巨大な金の蛙の像が設置してある。蛙の像のお腹を撫でてから冒険に行くと無事に帰って来られるという有名な縁起物らしい。俺も一応撫でておく。


「この宿は私の友達の家なんですが、ウッサというウサギの肉料理が美味しいので評判の宿なんですよ。」


「ウッサというのは食べた事がないので、すごく楽しみだな。」


 宿の中へ入ると、シルフィールは受付の女性と短めに会話をし、


「アスクさん。私は孤児院へ行くので今日は帰ります。また明日の朝に来ますね。」


 そう言って孤児院へと急いで帰って行った。


 彼女を見送ると、受付に居た金の蛙亭の看板娘で熊人族のクラウレがすごく元気に応対してくれた。


「1泊食事が2食付きで銀貨1枚だよっ。シルフィールの紹介だから、サービスでサウナカードと蜂蜜酒1杯を付けとくねっ!」


 やはり温泉は無い様だが、サウナがあるとの事なので結構良い宿のようだ。


「じゃあ、取り敢えず3日分お願いするよ。」


 と言って銀貨3枚をクラウレに渡す。


「え~っと、部屋は2階の一番奥の部屋だねっ。これが部屋の鍵で、この食事カードを持って食堂に行くと、引き替えに食事を出して貰えるからねっ。ごゆっくり!」


 彼女は非常に早口で説明をし、忙しそうに去って行った。


「そう言えば腹が減ったな。先に夕飯を食べるか。」


 宿の奥にある食堂へ歩いて行くと、中からは賑やかな男達の声が響いている。客はいかにも冒険者っぽい厳つい男達がほとんどで、楽しそうに酒を浴びるように飲んでいる。


 奥に進むと厨房で忙しそうに調理している熊・・・じゃない屈強な熊人族の中年男が見えたので、食事カードと蜂蜜酒カードを渡して空いている席に着くと、少ししてから熊男自らドスドスと歩いてやって来た。


「宿泊客の今夜の飯はウッサ肉のシチューだぞ。足りなければ言ってくれや!ワハハハ」


 と笑いながら豪快に切り分けた肉が大量に入ったシチューと蜂蜜酒をドカンと置いて立ち去った。


「これを全部食べろとは無茶を言う・・・せっかく生き返ったのに、また死んでしまうわ。」


 巨大なウッサ肉のシチューの前に、まず蜂蜜酒で喉を潤す。


「うーん、疲れた体に蜂蜜の甘さが浸みるなあ・・・。」


 すごく飲みやすい酒なので、つい飲み過ぎてしまいそうだ。ちなみにこの世界でも16歳が成人年齢だそうで、勿論結婚も出来るらしい。


「さてウッサ肉のシチューを食べてみますか・・・。」


 これ絶対お玉だろ?っていう位のでかい木のスプーンで十分フーフーしてからシチューを食べてみる。


「うっまーーーい。」


 こちらの世界の食事は初めて食べたが、すごく美味しい。骨ごと肉を長時間コトコト煮込んである様で、肉はホロホロと崩れ落ちる柔らかさである。


 美味しく食べているとクラウレがやって来た。


「ウチの料理はどう?美味しいでしょう?」


「ああ、本当に美味しいよ。ちょっと量が多いけどね。」


「まあウチではそれでも普通サイズだからねっ・・・。それでさぁ、君はシルフィールとどんな関係なの?」


「いや、山でイノシシに襲われてた彼女を俺が助けて、そのまま一緒にこの町までやってきた・・・という感じで。」


「うんうん、それで二人はそのまま恋に落ちて愛し合ったのね?」


「へっ? いやいや、今日知り合ったばかりだってば。」


「君の一目惚れだったのかな? シルフィールはめっちゃ美人だもんね。」


 話が噛み合わないので、どう説明すれば理解してもらえるかを考えていると、


「クラウレ!!お前ェ、いい加減仕事に戻らねえか!!!!」


 父親である厨房の熊男に怒られたクラウレは「は~~い」と渋々受付に戻って行く。しかし急に立ち止まると振り返り、


「えへへ・・・からかってごめんね。」


 と笑いながら足早に受付へと戻っていった。


 それからシチューの3分の2迄は非常に美味しく食べられたのだが、最後は必死で胃袋に流し込んだ。次回は是非少なめにしてもらおうと思う。


 何とかシチューを食べ終わり、部屋に入ってみた。そんなに広くはないが、きちんと掃除の行き届いた部屋だ。とは言え何もする事が無いので、ベッドに寝転がって天井を見つめた。


 正直なところ、お金はすでに一生遊んで暮らせるだけの額があるので、働かなくても生きていけるのだが、それでは何のために転生までしてここにいるのか分からない。だからこの先、この世界の人々と仕事や生活を通して触れ合い、人生を楽しむ。前世で出来なかった事をしようと思う。


 そして、この世界のどこかに転生しているはずの仲間達を探す旅に出る。取り敢えず、それをこれからの目標にしよう。



 さて、せっかくサービスでサウナカードを貰ったので行ってくるか。だが、先程のむさい冒険者達が裸で座っているサウナを思うと気が重い・・・。


 父さんが作った広々とした温泉が懐かしいけど、この世界に温泉なんてあるのだろうか。


 この夜は運良く空いていたサウナから出て気分良く部屋に戻ると、すぐに深い眠りに落ちた・・・。

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