8 計画がうまく行きすぎて怖いくらいだ!(※シュヴァルツ視点)
葬儀の場で、帰りがけのデオン侯爵を捕まえて、マリアンヌと悲しみを分け合う機会を貰えないかと交渉した。
「……娘は、本当にリディア嬢を慕っておりました。確かに、殿下ならばその悲しみを分かってやれるのかもしれません。……殿下のお時間が許す時で構いません、どうか我が娘に会って話をしてやってください」
「もちろんです。私も……婚約者を喪った悲しみを、どうしていいか……、身近にマリアンヌ嬢という分かち合える相手がいたことは、……私の悲しみを慰めるという意味でも、とても……」
悲痛な顔で言葉を切る。ここで喜ばしいなんて言うようなヘマはしねぇ、あくまで主役は死んだリディアだ。その葬式で嬉しいなんて言葉を使っちまう程、俺の頭はお花畑じゃねぇんだな。
デオン侯爵は一礼して馬車に乗って帰って行った。
俺も兄上も葬儀の場に長く留まるものじゃねぇ。王族ってのはどこにいても気を遣われる、今日の主役は空っぽの棺のリディアだからな。さっさとこの堅苦しい喪服も脱ぎてぇしよ。
「我々も帰りましょう、兄上。ここには……リディアとの思い出が多すぎる」
「シュヴァルツ……。そうだな、帰ろう。どうかリディア嬢に、安らかな眠りを……」
安らかも何も驚いた顔で落ちてったぜ。あの時の顔ったら、はは、思い出すだけで笑えてくらぁ。途中から見えなくなったがきっとあほヅラ晒して死んだんだろうな! 口かっぴろげてよ!
馬車の中で口元を押さえて肩を震わせる。いや本当に、あの驚いたマヌケヅラでこの世を去って行ったリディアを思い出すと……っはぁ、笑いを堪えるのも一苦労だ。涙が出るぜ、まったくよぉ! 俺に殺されるだなんて微塵も思ってなかっただろうなぁ、俺の野心、俺の本音、そんなもんお綺麗なツラの下に隠しておきゃあ婚約者だって気付かねぇ。
見た目だけはいい女だったからな。優しくするのもまぁ楽しかったが……俺の立場で物を考えれば少しは疑ってもよかったはずだぜ。ま、俺は兄上の補佐をして国をよくしていきたい、なんて語ってたからな、リディアはいたく感激してたがよ。ははは!
その後、数日の間を空けてからデオン侯爵家に手紙を出した。マリアンヌと会いたいという手紙だ。こっそり会う予定だったが思わぬ繋がりがあってちょうどよかったぜ! リディア様々だな!
マリアンヌとはすんなり会う事ができた。話の内容が内容だけに、使用人も人払いして2人きり。マリアンヌは本気で悲しんで泣いてやがる。一体好きな男がフリーになったってのに何がそこまで悲しいんだかよ、興醒めだ。
が、宰相の後ろ盾は欲しい。せいぜい合わせてやらねぇとな。
「そう泣くものではないよ、マリアンヌ嬢。辛い気持ちは私も一緒だ……、だが、そう泣いてばかりいては、せっかくの君の美しい顔が台無しだ……」
「じゅ、ジュヴァルヅ殿下……ずみません、おはずかしいところを……」
誰だよジュヴァルヅって。笑かしにくるんじゃねぇよ、こっちはいつも必死に演技してんだからよ。
あーあーしっかしまぁ美女も台無しだなこりゃ。リディアは金髪に緑の目で胸もデカい美人だったが、マリアンヌは赤毛に紫の瞳のスレンダーな美人……はぁー、この女の父親の後ろ盾は欲しいが、家庭教師が亡くなったってだけで好きな男の前で鼻水垂らして泣く女とか醒めるぜ本当。
まぁいい、少しずつ懐柔していけば。時間はたっぷりあるしな。リディアの死から共に立ち直って、生涯添い遂げる! いい筋書きだ!
計画通り以上にコトがうまく進みすぎて、っはぁたまんねぇな! あと少し、コイツと結婚して俺が国王になるまで、精々演技を続けてやらぁ! 甘いマスクの優しい王子様のな!