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風説探偵のお仕事  作者: 天の邪鬼
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風説ファイル4 『呪詛と因果応報』

太刀洗さんの事務所は明らかに廃ビルで、お高そうな長い黒塗りの車が前に止まっているとミスマッチで一周回って前衛的な芸術に見えてしまう

いつも暇な事務所に客人が来ているようらしい

しかもお金持ちの

知らない人がいると階段を登るのが億劫になる

それと同時に車の持ち主がボロ事務所にいるという光景を見たくもある

多分、面白い

事務所の前にスーツの強面の人が立っていた

目が合った

場の空気が凍る

数秒の沈黙が流れ、先にスーツの男が問いかけてきた


「なにか?」


「え?いや、そこの事務所の助手なんですけど……」


「それは失礼しました。どうぞ」


道を譲られた

通い慣れた事務所が少し新鮮味を得る

それはそうとスーツの人が怖いのでそそくさと事務所の扉をくぐる


「……誰ですの?」


事務所には初めてみる営業スマイル全開太刀洗さんと見るからにお嬢様という少女がいた

どこか有名なお嬢様学校のセーラー服、とかいうのは全然わからない

ですの口調なんて生で初めて聞いた

凄ーい珍しーい

ちょっと興奮する


「助手の古賀命日子です。お見知りおきを」


新人なんで役には立ちませんけどね

そんなこと表情にはおくびにも出さず太刀洗さんの後ろに立つ

なんかこういうの助手は何も言わず先生の後ろに立つものなんでしょ

ドラマで見た

興味が湧かなかったようでそれ以上私には触れてこず話を進める

出来る助手風装って無言で目を伏せておく


「先生が高名な風説探偵と見込んでお願い致しますわ」


話どこまで進んでるのかわからない

太刀洗さんって高名なのか

そもそも風説探偵って普通に検索しても出てこないんだけど、どのルートで知るんだろ

私みたいに『メリーさん』に教えてもらうのは特殊だと思う


「ご安心ください。風説探偵の名にかけて今日中に呪詛の元を叩いてみせましょう」


呪詛?

呪い系の話?

このお嬢様は呪われてるのかな

今日中に解決できるんだ

お嬢様は感情極まった表情で太刀洗さんの手を握り感涙の涙に(むせ)び泣いている

いや、泣いてないけど

それくらい呪詛に苦しめられていたらしい

まだ解決していないのだから手放しに喜ぶのはどうかと思うんだけどな

お嬢様は前払いで分厚い封筒を太刀洗さんに渡すとるんるんで帰っていった

分厚い封筒を貰った太刀洗さんのご機嫌も大変よろしいようだ

この人、三度の飯よりお金が好きらしい

外の車が出るのを見送った後、封筒の中身を確認している

わー、諭吉の束だ


「それでどういう依頼なんですか?」


私が来た頃には話は殆ど終えていたのでお嬢様が呪われているということしか分からなかった


「簡単な依頼よ。お嬢様を呪ってる誰かをしばく。或いは呪いの元を壊すだけ。支払いがいいから死んでも解決するわよー」


「どうやって見つけるんです?」


「呪詛なんて素人が使えば痕跡、どころか呪詛とその触媒が繋がったままで簡単に辿れる、らしいわ」


「らしい?」


まるで自分にはわからないことのように言う太刀洗さん

怪訝な声だった私に太刀洗さんはしれっと白状する


「実はおねーさん、荒事担当の『風説探偵』で調査とかはからっきしなのよね」


「……それでどうやって犯人見つけるんですか?」


よくそれですぐに解決してみせると安請け合いしたもんだ

私も素人だから痕跡とか言われてもさっぱりなのに


「問題ないわ。『風説探偵』には『風説探偵』のネットワークがあるのよ」


得意気に他力本願だとこの人


「もしもーし、小日向ちゃん?おねーさんおねーさん。詐欺じゃないわよ?至急調べて欲しいことがあるんだけど、報酬は弾むわよ?」


それから暫く太刀洗さんは小日向さんとやらと電話を交わしていた

その間、私はというと暇を持て余していたので普段やっているソシャゲのガチャを回して爆死していた

いつも通りだからダメージは少ないのだ

無料だからダメージはないといっても過言ではない

SNSで勝利報告さえ見なければな……!


「さぁ、出掛けるわよ」


「え、もうですか」


「本当にずぶの素人だったみたいでね。一発で見つかったわ」


太刀洗さんの車に乗って目的地を目指す

ちなみに私は車に明るくないので車種がわからない

別に困らないからいいよね


※ ※ ※


「ここが呪詛の出所ね」


「普通の一軒家に見えるんですけど」


なんというか普通に普通の家についた

もっとこう

踏みいるだけで呪われそうな臨場感のある場所を想像していたので肩透かしを食らった気分だ


「そうね」


太刀洗さんは迷うことなく家の敷地に踏み込み、剥き出しの刀でドアノブを破壊して家へ侵入した


「……。なにしてるんですか!」


ダイナミック不法侵入に思わず目を見開いた

ヤのつく自由業もびっくりな大胆さだ

インターホン鳴らす様子すらなかったぞ


「大丈夫大丈夫。事後処理は『風説課』がやってくれるから」


「なんですそれ。そういう問題ですか?」


「『風説』を利用して人を呪い殺そうって奴に情けはいらないでしょ」


家の中へ消えた太刀洗さんを追う

他人の家なので物珍しく感じるが内装も普通の家だ


「誰だよお前ッ!」


太刀洗さんは住人とエンカウントしたらしい

至極全うな疑問をぶつけられていた


「鳳凰院のお嬢様からの依頼で呪詛をどうにかしようってだけよ」


悪びれることなく男に刃を向けていた

一発で通報する絵面だ


「……呪詛ってなんだよ。警察呼ぶぞ!」


人を呪い殺そうとしている人間が警察に頼ろうというのは絵面以上にとても滑稽に映る

警察という言葉を聞いても太刀洗さんは動じる様子もなく脅迫する


「別にいいんだけど、警察が駆けつけるのと君の首と胴が泣き別れるのどっちが早いかしらね?」


「な、なんだよ!俺ばっかりこんな目に……!」


「おねーさん、自分が世界で一番不幸だぁなんて酔ってる気持ち悪い人嫌い」


激しく同意する

不幸なんてほざいて他人を呪う余裕のある人間が不幸だと思わないし、不自由なく生きてるだけで文句なしに幸せだと私は思うんだけど


「死にたくなかったら口答えしてないでキリキリ答えてね?」


この人もしかして人殺しの経験あったりするのかな


「なんなんだよアンタ達……」


達……?

私も不審者に含まれてる?

遺憾である


「君こそ、風説は自然現象みたいなもの。それを人が都合よく利用するなんて、神様にでもなったつもり?」


太刀洗さんから発せられる圧が強くなった気がした

男はたじろいて後ずさる

そんなことより私が興味あるのは動機だ

ミステリーというほどのない陳腐な事件でも訳を知らなければ締まりが悪い

という訳で横から口を挟ませてもらう


「なんでお嬢様を呪ったりしたんですか?」


「は?そ、それは金持ちで気に食わなかったから、……適当に」


オコな太刀洗さんをスルーして割り込んできた私のおかげで恐怖から正気になったか声の音量低めに答える

理由は最低

お嬢様は運がなかったと


「富裕層への妬みですか?標的は適当に選んだ感じですか?なるほど」


「文句、あ、あんのか」


「いえ、私としては心底どうでもいいです。知りたいことはそれだけだったんで後はこっちの怖い人にお任せします」


横で太刀洗さんは素振りをしていた


「ねぇ、君。初犯じゃないでしょ?」


「え?」


「本当に呪いたい人は無事呪い殺せたから、嬉しくなって次の標的を求めた。違う?本当は別に鳳凰院のお嬢様なんてどうでもいいんでしょ?」


「……」


男は視線を落とすだけで何も答えない

沈黙はなによりも雄弁に答えを現していた

初犯ではないのか


「人を自由に呪えるようになって、万能になったと錯覚して。どう落とし前をつける気?」


「……」


「縁もなく手軽に人を呪える『風説』も少し気になるけど、君を始末すればいいだけよね?」


男は何も答えず、だんまり

太刀洗さんはついに物騒なこと言いながら男に刃先を向ける

太刀洗さんの様子を覗う

おおっと完全に目が据わってらっしゃる

これはリアルバイオレンスを生でお目にかかれるのではー?

こんな太刀洗さんみたことない

私ではとてもとても止められそうにない

ぐっばい名も知らぬ男性

来世では虫かな

私、輪廻転生とか信じてないけど


「『風説サイト』を使ったんだ!今、見せるから!な!な!許してくれよー!実際に死んだのは俺の親だけだぜ!」


本気で身の危険を感じた男は自室のPCを弄る

さらっと親殺しを告白していたが、身内なら殺しても犯罪にならないとでも思っているのだろうか

太刀洗さんも私も無言なので男がキーボードを叩く音だけが響く

男の慌てていた様子が困惑に変わるのにそう時間はかからなかった


「あれ?ない!『風説サイト』がどこにも!」


「……おねーさん、難しいこと考えるの苦手なんだよね。なにか出てくるまでタコ殴りいっとく?」


「は?意味わかんねぇ!なんでそ……こッ?」


ついに逆ギレしようとしていた男は脈絡なく血の塊を吐いた

PCが血で汚れる

突然なショッキングな現象に勿体無いと見当違いの感想が浮かぶ


「なんだ、これ……」


呆然と言うと男は全身を青い炎に包まれた

そしてあっという間もなく灰も残らず燃え尽された

情けない遺言もあったものだ


「チッ!軽々しく風説に手を出すからだ愚か者!」


「どういうことですか」


なんで呪詛を使っていた当人が焼死するのか

困惑していたところから男が想定していない事態が起きたように見える


「中々、ショッキングなもの見たのに落ち着いてるね古賀ちゃん」


「そういうのいいですから」


「多分だけど呪詛を仕掛けた本人が見つかると呪詛が返ってくるタイプの風説だったんだと思う」


「なんでそれをこの人が知らないんですか?」


「あるかどうかは分からないけど『風説サイト』とかいうのに意図せず呪詛が返ってくることを書いてなかったんでしょうね」


それを知らずに嬉しそうに使ってた間抜けは燃え死んだという訳か

自業自得なので一切可哀想とは思わない


「…………」


「どうしたんです?」


「ひっかかるのよ。呪詛が返ってきた彼はすぐに燃えた。呪われた鳳凰院のお嬢様はどうして生きてたのかしらね?」


「さぁ?」


どういう呪いだったのかも当人が死んだ以上分からない

真実は闇の中

太刀洗さんはPC、その上にある男が吐き出した血まみれのナニカを刀で突き抜いた

ついでにPCもお亡くなりになりましたとさ

「人を呪わば穴二つ。失敗した呪詛は己に返ってくるんですよ?」



事故死なんてよく聞く『話』じゃないですか

その『人』は事故で焼け死ぬ前に強く願ったんですよ

こんな苦しいの一人ではとても耐えられないと

誰かに側にいて欲しかったんですかね?

この『風説』は一緒に燃えてくれる人を求めているんですよ

そんなことに意味はないし、元となった『人』は何も報われることなんてないでしょうけど


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