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風説探偵のお仕事  作者: 天の邪鬼
2/6

風説ファイル2 『メリーさん』

後日、事務所に足を運び太刀洗さんに幼馴染みが無事だったことを伝えた

よかったよかったと太刀洗さんは雑に喜んだ

用はそれで終わりか

じゃあ、帰れと目が私に訴えかけている気がした

いや、私が気がしたということは露骨に帰れと訴えかけているに違いない

考えすぎということはないだろう

その視線を無視して私は太刀洗さんの連絡先を聞いた

理由を尋ねられた私は


「勘なんですけど、また『風説』の依頼を持ち込むと思いまして」


それを聞くと太刀洗さんはしぶしぶといった様子で連絡先を交換してくれた


二日前のことだ


※ ※ ※


私は普段は学生を生業(なりわい)としていたりする

誰かが学校とはコンクリートで出来た監獄だといってたというが私は激しく同意する

出来れば勉強したくない怠け者には耳障りのいい話だ


「ねぇねぇ!古賀たん古賀たん聞いてる?話聞いてる?」


「え、うんうん。聞いてるよ。なんだっけ?」


「おっとおっと、聞いてなかったね!?仕方ないなぁ!もっ一回言ってあげるからよく聞いてね。隣のクラスの池上さんが亡くなったんだって。隣のクラスの池上さんが亡くなったんだって」


マシンガントークの友人、明坂(あけさか)真言(まこと)が不謹慎なことを嬉しそうに一回とかいって二回どうでもいいことを言っていた

こういう人間、私苦手


「心になくても悲しそうに言えないの?その池上さんのお友達が聞くとさぞ不愉快だと思うよ」


オブラートに包んだり、周囲の顔色を窺うことが出来ないからこの子は友達が出来ないのだ

眼帯とか痛いアイテムも相まって避けられる人間だと思うよ

眼帯カッコいいと思ってんのか

テンション高くて鬱陶しい


「うんうん。古賀たんも大概だからね?古賀たんも大概だからね?」


失礼な

私は心底どうでもいいと思っているだけだ

池上さんとか知らないし、興味もないし、だからといって嬉しそうに言い触らす趣味もない

臭いものには蓋をしろとはよくいったものだ


「で、だからなに?それだけなら自分の席に戻ってぼっち飯を味わうといいよ」


「辛辣!辛辣だよ古賀たん!私がいないと古賀たんも寂しくぼっち飯だよ!」


「おあいにく様。私は知人はそれなりにいます。どうぞお引き取りを」


「池上さんね。ただ、殺されただけじゃないんだって」


急に話戻したな

会話のキャッチボール成立してない

都合が悪くなったら話をすり替える人間は信用できないね

明坂の場合は都合が悪くなったというより自分の言いたいことを言いたいだけという見方もある

自分勝手な奴だ


「池上さんは頭が悪かったんだけど」


「おーおー、好き勝手言いなさる」


本人がいたら助走つけてドロップキックをお見舞いされているところだろう

池上さんとやらがどういう人間かは知らないが

死んだ人間のことを知る意味ないし


「前の中間で満点を取ったんだって」


「それは凄い」


小学生の頃と違って中学生からはテストの難易度が上がる

簡単なテストでもない限り、満点を取れるのは一部の天上人のみだろう

テスト勉強をする派ではないので中学生になって以降、満点を取ったことはない

皆が英語で満点を取る中、赤点ギリギリのラインにいるのが私だ


「そのとき、池上さん自慢してたんだって、自慢。『メリーさんに教えて貰ったんだ』って」


「メリーさん?あの?」


知る人ぞ知る都市伝説、あなたの後ろにいるとか電話してくる女の人

最後どうなるのか詳しいことまで知らないけれど、流れ的にメリーさんに殺されてしまうんだろうな


「そ、そ。多分、元ネタはそう。満点取った後、池上さん行方不明になったの」


「穏やかじゃないね」


「初めはカンニングがバレて引きこもったんじゃないかとか色々根も葉もない噂されてたんだけどね」


「どっかから死体が見つかったとか?」


「先に話のオチ言うのはいけないと思うんだよね。いけないと思うんだよね」


「見え見えな展開なのが悪い」


「それで、池上さんの携帯には差出人不明のメールがあったんだって」


「メール?電話じゃなくて?」


「メリーさんも現代に適応してるってことだよ」


「適応するならSNS使わない?」


メールとか電話と同じくらい使ってないんだけど、使う相手がいないとも言う

先日、太刀洗さんとメアドを交換したとき久々すぎて機能を忘れていたくらいだ

当然この揚げ足を明坂はスルーした


「聞いた話ではテンプレ通りメールで『メリーさん』が近づいてきてるのを知らせてたんだって。池上さんは馬鹿正直に自室に来るのを待たないで家の外に逃げ出したらしいんだけどね。どこに逃げても『メリーさん』はついて回ったんだって。で、結局、最後は捕まって。テストの答えを教えた代わりに殺されちゃったの。南無南無」


明坂は飲み終えたいちご牛乳の紙パックを畳みに掛かる


「つまり『メリーさん』を使った人は死んじゃうってお話な訳ね」


「へー」


死ぬほどどうでもいい話に時間を費やしてしまった

この時間にソシャゲの周回をした方が有意義だったように感じる

無駄遣いするのは嫌いじゃないけど、得した気分になるとちょっと癪なので損した風でいよう


「古賀たんも気を付けてね?」


「なにを?」


「『メリーさん』だよ。『メリーさん』。使っちゃダメだからね?」


「なんで?」


「大切なお友達だからだよ。大切な」


明坂が笑って席を立つ

なんか寒気がした

私が知ってるのと少し違うような気がするんだけどどうなんだろう

『メリーさん』、ね


※ ※ ※


心当たりあったりして……

幼馴染みを助けるため片っ端から検索していたとき、『メリーさん』というサイトを見たような記憶がうっすらとあるようなないような……

そもそも風説探偵なんてもの普通に検索しても出てこないのだ

それがどうしてあっさり辿り着けたのか不思議なものだ

いつの間にか不味いものに触れていたのかものしれない

嫌な予感ほどよく当たる

太刀洗さんに相談してみるのがいいかもしれない

……相談料の5万をどうするか


携帯からデフォルトの着信音が鳴った


噂をすればなんとやら

普段からサイレントマナーモードにしている筈に携帯に差出人不明のメールが届いていた

着信音なんて数年ぶりに聞いた

差出人は不明なので『メリーさん』からと決まったわけではない

故障かなにかで着信音が鳴っただけかもしれない

例え、本当に『メリーさん』からだとして見なければ取り返しがつかなくなる類だと思い恐る恐るメールを開く

久々に読むメールにはこう書かれていた


『あたしメリーさん。今学校の前にいるの』


正直、聞いていても本当に届いたら困惑する

いたずらメールにしか見えない

『風説』とかよく分からないし、明坂の手の込んだいたずらであるという方が納得が行く

でも、もし

もし本当に『メリーさん』だとすれば?

私は殺されてしまう?

まだ実感が湧かないが太刀洗さんに相談しようとメールを打つ


『夜分遅くに失礼します。急にですが、相談があるのでそちらにお伺いします』


こんなものでいいだろう

送信ボタンを押す

すぐに支度の準備をしよう

『メリーさん』が部屋の前に来てしまう前に

下手すれば死んでしまうかもしれないというのに非日常な出来事に少し高揚を覚える

年頃の子供なのだから仕方ない


『あたしメリーさん。今交差点にいるの』


どこの交差点かわからないがのんびりしている時間はなさそうだ

逸る気持ちを抑えて、私服に着替える

パジャマで出掛ける気はない


※ ※ ※


『あたしメリーさん。今あなたの家の前にいるの』


このメールが届いたとき私はすでに太刀洗さんの事務所を目指し、静まり返った街を歩いていた

『メリーさん』の移動速度がわからないので急いだ方がいいのか分からない

だからといって走って無駄に体力を消耗するのも賢くない気がする

単純に汗をかきたくないというのもある


『あたしメリーさん。今信号の前にいるの』


私が移動いていることに気付いたのは部屋に向かわず『メリーさん』も追跡を開始したようだ

どこの信号かはわからない

メリーさんからどこにいるのか要領の得ないメールを三件受け取ったあたりで廃ビルにしか見えない事務所の前に着いていた


『あたしメリーさん。その先はダメよ』


いきなりの変化球に足が止まる

真夏だというのに背筋には冷たい汗が伝う

この先に進んではいけないと本能が警鐘を鳴らす

風を切る音が聞こえると同時に鉄の臭いが鼻腔を(くすぐ)

着信音が廃ビルに木霊する


『惜しイ』


メールに書かれた三文字が足を止めたのが正解だと伝える

『メリーさん』は先回りし待ち構えていたのだ

(きびす)を返してその場を離れた

紙一重の場所に『死』が近づいていた事実に呼吸が荒れる

汗など気にしている余裕はないらしい

走りながら携帯に目を落とす

着信音はなかったが新着のメールがあった

差出人は最近追加した太刀洗さんだ


『夜分遅くに事務所にいるわけないでしょ』


失念していた

よく考えれば当たり前だ

職場で日を跨ぐわけがなかった


『今、メリーさんに追いかけられてます。どうすればいいですか?』


走りながら返信した

足を止めるとメリーさんの凶刃が(かす)めていきそうで、気が落ち着かない


『大体、把握した。柱羽公園で待ってる』


流石、風説探偵頼りになる

昔遊んだことのある公園だ

名前を見るまで忘れていたけれど、場所は分かっている

少し遠いが走れば、そう時間はかからない


メリーさんからのメールはない

見えないナニカは追いかけてきているのだろうか


※ ※ ※


自身の体力のなさを呪った

普段運動していない人間がいきなり走るととても脇腹が痛くなる

体育の持久走で知っていたはずなのに……

私って本当バカ……

結構余裕あるな

脳が酸素を求めている

余裕ないわ


着信音


最後のメールが届いた音だ

操作をしていないのにメールは一人手に開かれる


『あたしメリーさん。今あなたの後ろにいるノ』


無慈悲に死神の到着を知らせていた

それは普通の存在ではなかった

事務所の前とは違い、はっきりそこにいた

黒いセーラー服を着ていることは理解できる

けれど着ている者の正体が認識できない

顔がラグというか、霞がかっているのか兎に角理解することが出来ない

分かるのは漠然とした感覚だが黒いセーラー服を着た少女であるということ、その手に持つ鉈で私を殺そうとしていることだけだ


「アナタ、怖がらないのネ」


以外と澄んだ声が耳朶を打つ

怖がる余裕がないのだとか軽口を返してやりたい

足が震えて動かない

来世があれば運動部に入ろうと決意した

異形の少女は手に持った鉈を振り下ろそうと高々と赤黒く輝くそれを振り上げる

一閃


「この手の『風説』を斬れるのはターゲットを害するために存在を現すときが確実で絶対なのよね」


異形の少女が振り下ろすより早く、背後を取っていた太刀洗さんが日本刀を振り下ろしていた


「……」


異形の少女に反応はなく、ただ虚空を映した目は霧のように消えていった

たった一振りで

呆気なく、一瞬で問答無用に事件は解決した


「いつから」


いつから私の後ろにいたんですかと言いたかったがまだ呼吸が整っておらずえずく


「あたしおねーさん。今あなたの前にいるのってね」


答えになってなくないですか

なんにせよ池上さんとは違って自分は助かったらしい

地面にへたり込む

足腰が言うことを聞かない

運動なんてするものではないね、うん

あっさりしすぎてよくわからなかったが、アレは確かに『死』をもたらす存在だった、気がする


「風説って一体なんなんですか……?」


「風説探偵と言ってもおねーさんは荒事専門でね。詳しいことや、難しいことは他の専門家に当たって」


「専門家なのに知らないんですか……」


「君だって、台風がどうして起きるのか、空がどうして青いのかなんて分かっていないだろ?それでも生きていくのに支障はないだろう?そういうことだよ」


「そういうものですか」


納得しかけたけれど、専門家として駄目じゃないだろうか


「『風説自体に悪意はない』というのが持論でね。風説は言ってみれば、自然災害だよ。そこには善悪なんてものは存在しない。『風説』は『風説』の特性のまま、あるだけなんだ。不覚考えてしょうがない」


太刀洗さんはしゃがみ込んで私に目線を合わせる

長い黒髪が地面に付きそうだ


「そんなことよりお金になる話をしようじゃないか。今回の風説のことだけど」


「……お金取るんです、よね?」


「勿論!」


笑った顔、凄く素敵ですね

男女問わずモテそう


「お金、持ち合わせ、ないです」


前の五万も借金として幼馴染みに借りている状態だ

親の財布から抜いてもいいが、命に係わる


「じゃ、助手なろっか」


「は?」


「助手」


「マジですか」


正気ですか

ずぶずぶの素人を助手にするとか酔狂にも程がある

思考が回ってないので失言のオンパレードしそうだ

なにが失言かもわからないけど


「いいじゃない減るものじゃないし、おねーさんは腹括ったんだ。勝手で悪いけど君も運がなかったんだ覚悟決めな」


目が据わってる

これは逃げたら『メリーさん』と同じく日本刀の錆かな……

知る人ぞ知る『メリーさん』

これは派生したものの一つにすぎません

『都市伝説』や『噂話』、『怪談』

いくつもの姿を持ちますからね

今回、太刀洗流渦が斬ったのは末端の末端

『メリーさん』の一つの側面にすぎません

この先、また誰かが着信音に怯えることがあるかも



どうでもいい情報ですが古賀命日子の周りにはヤンデレが二人いる

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