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超舌天才魔導少女と公式変態ストーカー剣士が、国の金でグルメをめぐる旅に出た。  作者: 河津田 眞紀@第一回Nola原作大賞早期受賞×2作
第二章 ぐるめぐる探訪録〜エステルア領編〜

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5-4 ツカベック山の衝動




 * * * *




 そうして、しばらく山中を探し回ったのち。

 チェロは、エリスの大声を聞き付け、洞穴の中に彼女の姿を見つけたのだった。



 頭に被っていたフードを外すと、美しい金髪がさらりと現れ、その風貌が明らかになる。

 やはり、間違いなくチェロその人だ。


 よもやここまで追いかけてくるとは……と、クレアは驚き半分・呆れ半分な気持ちで彼女を見上げる。


 で。エリスは、というと。



「………ちぇ……チェロぉおっ! 会いたかったぁあっ!!」



 言いながら、がばぁっ! と、チェロに抱きついた。



「えっ、えっ♡ やだ、エリス……私だって、どれだけ会いたいと思っていたことか……♡」



 突然のことに戸惑いながらも、チェロはデレデレした表情で抱き締め返す。

 そして、クレアの方をキッと睨み付けると、



「エリス、この男に何かされたのね? 一刻も早く抹殺して、一緒に王都へ帰りましょう!」

「うんうん、そうなのそうなの。とりあえずチェロ、雨で濡れちゃってるから、コレ脱いだら?」

「え? あぁ、うん……ありがとう」



 チェロの真剣な表情をエリスは軽い口調で受け流し、彼女がローブを脱ぐのを手伝う。

 その下に、いつもの白衣が見えると、



「ああ、ほら。白衣まで雨が染みちゃってる。それも脱いで脱いで」

「そ、そう? そこまで濡れているように思えないけど……」



 戸惑うチェロを無視して、白衣を……内側にぶら下げられた精霊封じの小瓶ごと、するする脱がしてゆく。

 この時点で、クレアにはもう、エリスの狙いがわかっていた。



「他には? このヘンとかに、何か隠したりしていない?」



 今度はチェロのシャツの中や胸の谷間に無遠慮に手を突っ込み、まさぐり始めるエリス。



「ひゃっ♡ ちょ、ちょっとエリス♡ そういうことは、この男を葬ってからゆっくりと……♡」



 くすぐったそうに身を捩りながらも、どこか嬉しそうなチェロである。

 と、その胸の谷間から、エリスは精霊封じの小瓶よりもさらに小さな瓶を一つ、見つけ出す。

 それは……



「ん、なぁに? コレ」

「あっ! それは、その……蜜よ、花の蜜!! とっても稀少なものだから、返して…?」



 チェロは、あからさまに目を泳がせながらエリスに手を差し出す。



 ──それは、蜜は蜜でも、ただ甘いだけの代物ではなく……

 "ヘブンスリリー"という名の、強力な媚薬だ。

 チェロの、最大にして最終の、秘密兵器。



 そこにいるクレアとかいう男を抹殺した後は……

 エリスと二人でこれを口にし、めくるめく官能トリップの世界へ……



「ふーん。花の蜜、ね……」



 エリスは小瓶の中でとろりと揺れるソレを眺めてから。



「………ちょうどよかった。デザートもほしいところだったの」



 ニヤリ、と笑ったかと思うと。

 それを自身の胸元にしまい、目にも留まらぬ速さで両手を振るい、魔法陣を描く!



「ヘラ! キューレ! 交われ(フュージア)!!」



 呼び出された水と冷気の精霊は、エリスに命じられるがままに交じり合いながらチェロめがけて飛んでゆき……



「そ……そんなぁ〜〜っ!」



 涙目になる彼女を、無慈悲に直撃!

 瞬間、パキパキッ!と音を立てて凍りつくチェロの身体。

 まるで透明なクリスタルに閉じ込められたかのように、彼女は氷の中で動かなくなった。

 エリスはぱんばんっ、と手を叩くと、



「さ。これでフロルの瓶が手に入った。さっそくお魚を焼くわよ。クレア、()()どかして」



 と、氷漬けになったチェロを顎で指しながら、淡々と言う。

 そんなことだろうと予想していたクレアは、言われるがままにチェロ入りの氷を押し、洞穴の奥に移動させながら、



「前から思っていたのですが……エリスはこの方に対して、あまりにも冷たくありませんか?貴女に好意を抱いて、わざわざこんなところまで追いかけてきたというのに」



 なんて、冷たい氷の感触に、思わず同情の念を抱いてしまう。

 しかしエリスは肩を竦めて、



「だって、学院(アカデミー)にいた頃、しょっちゅうあたしのジャマしてきたんだもん。こっちは一日も早く卒業したくて精霊研究に駆けずり回っていたのに、どこへでもついてきてベタベタベタベタ……もう『先生』って呼ぶのもやめたわ」



 ため息まじりにそう答えた。


 ふむ、確かにそうだったと、クレアは納得する。

 魔法で食べ物を生み出すことはできないと確信した途端、エリスはそれまで師と仰いでいたチェロをばっさりと斬り捨てたわけだが……

 それ以降のチェロの行動は、完全にストーカーのそれだったのだ。クレアが言える立場ではないが。


 氷漬けになったチェロを洞穴の奥の方へ追いやると、エリスは黙々と地面に転がる枝や葉を集め、魚を焼く準備を始めた。

 チェロから奪い取った精霊(フロル)入りの瓶を開ける。すると「ボウッ」と音を立て、集めた枝葉にオレンジ色の炎が灯った。

 洞穴内が一気に明るなったことで、外が如何に暗くなっていたのかが如実にわかる。チェロの出没には驚いたが、ありがたいタイミングであった。



「無事に火が点きましたね」

「クレア、お魚捌ける?」

「えぇ。やりましょうか?」

「お願い」



 エリスが料理下手だということは百も承知だ。クレアは静かに頷いた。

 懐からフォールディングナイフを取り出し、バケツの中の魚を掴むと、クレアは一匹ずつ丁寧に内臓を除いていく。これも、ジェフリーに教わった(わざ)の一つだ。



「おお、すごい。クレアってなにかと器用だよね」

「これくらい、慣れれば誰だってできますよ。エリスもやってみますか?」

「いや、いい。これまで何度挑戦しても、料理だけはできなかったんだもん。力加減とか火加減とか、なんかよくわかんなくなっちゃうのよね」

「前もおっしゃっていましたが、未だに信じられません。先ほどの釣りも飲み込みが早かったですし、料理だってできそうなものですが」

「親戚のおばさん曰く、『食材に対する愛が強すぎて暴走してる』って。自分でもそう思う」

「………なるほど」



 クレアの中で長年抱いていた疑問が今、ようやく解消した気がした。


 やがて全ての魚を処理し終えると、クレアは落ちていた枝を手頃なサイズに裂き、それに串刺しにしてゆく。

 あとは焚き火の傍に突き立て、焼き上がるのを待つばかりだ。



「んーっ、テンション上がるーっ♡ 早く焼けないかなっ♡」

「楽しみですね。味付けできないのが少し残念ですが………」

「んっふっふ。あたしを誰だと思ってんの? こんなこともあろうかと……じゃーんっ! 塩! 常に携帯してまーすっ☆」



 そう言って、ドヤ顔で塩入りの小瓶を掲げるエリス。

 クレアは思わず手を叩き、「さすがです」と彼女を讃える………が、すぐに「はっ」となって、



「では、すぐに塩を振りましょう。川魚は水分が多いですから、本当は焼く前に振らないと」

「えっ、そうなの?! あーん! ヘンにもったいぶるんじゃなかった!」



 二人は「あちあち」と言いながら、慌てて魚の串を焚き火から回収する。

 そして入念に塩を振ってから、再び火にかける。まだほとんど火が通っていなかったので、このタイミングならしっかりと味が付きそうだ。


 額の汗を拭い、「ふぅ……」と息をつくエリスとクレア。

 そのまま二人は、互いの顔を見合わせ、くすくすと笑い出した。

 空腹のあまり、ただ魚を焼くというだけのことに必死になっていることが、なんだかおかしくて。



「……お魚、美味しく焼けるといいわね」

「エリスが釣ったのですから、美味いに決まっています」

「なにそれ。調理したのはあんたでしょ」



 そう言って笑いながら。

 二人は、赤く揺らめく炎を眺め、魚が焼き上がるのを待った──







 ────というやり取りを。


 氷の中、何故か意識を保ったままのチェロが、じっと見つめていたりするのだが。



「(くっ……なによなによ、イチャイチャしちゃって……! こんなん見せつけられるなんて、たまったモンじゃないわ……っ!!)」



 カチンコチンで身体が動かないため、胸の内で歯軋りをする。

 悔しいことに、二人の関係性は想像以上に良好そうなのだ。

 そうなると、心配になってくるのが……先ほどエリスに奪われた、"ベブンスリリー"である。



「(まずいわ……この状況で、エリスとこの男があの薬を口にしてしまったら……)」



 間違いなく、"間違い"が起きてしまう。



 あの媚薬の効果は、身をもって実証済みだ。

 少しでも口にしようものなら、燃えるような欲望に身体が支配され、小一時間は抑えが利かなくなる。

 チェロが自分で試した時は、一人きりだったからよかったものの……

 誰かと一緒にいるような状況だったなら、確実に欲望をぶつけていたことだろう。


 それが今、エリスたちの置かれた状況はどうだ。


 雨に閉ざされた洞穴に、男と女が二人きり。

 濡れたアーマーを脱ぎ捨て、どちらも薄着になっている。

 闇夜に包まれた山の中、邪魔する者は誰もいない。



 ………こんなん、ヤるに決まってんじゃん。




「(どうしよう……そんなこと、絶対許せない………!!)」



 凍り付いた身体とは裏腹に、チェロの心は今まさに川魚を焼く炎のように、メラメラと燃え盛るが……

 悲しいかな、その内なる熱で氷が溶かされることはなかった。




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