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超舌天才魔導少女と公式変態ストーカー剣士が、国の金でグルメをめぐる旅に出た。  作者: 河津田 眞紀
第一章 猫と仲間と新たな任務

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7 水の心を交わした者は




 ――会議室を出た後、クレアとエリスは、ガルャーナと共に廊下を歩いた。

 上層部との会合を終え、これからオゼルトンへ帰るというので、彼を見送ることにしたのだ。




「まさか領主サマが会議に乱入してくるなんてね。びっくりしたけど、助かったわ」



 軽い口調でエリスが言う。

 それに、ガルャーナは得意げな顔をして、



「やはり運命は僕に味方したな。こうして会えたのは、僕が君に相応しい男だと神が認めたからに違いない」

「はは。相変わらずガルャーナさんは冗談がお上手ですね。私に敗北したことを忘れたように振る舞うとは」



 と、殺気立った笑みを浮かべながら、エリスを隠すように割って入るクレア。

 しかしガルャーナは、嫌な顔をするどころか微笑んで、



「もちろん、君に負けたことを忘れたわけではないぞ、クレアルド。僕はただ、エリシアの友人に相応しい男になろうとしているだけだ」

「申し訳ありませんが、うちのエリスに異性の友人はいりません。おととい来やがってください」

「おとといに来いとは、クレアルドの方こそ冗談がうまいな。なら、僕と君が親友になるのはどうだろう? それならば、エリシアにとって僕は『恋人の親友』という近からずも遠くない立ち位置になれる」

「お断りします。『彼氏の親友』なんて、そんな……そんなの……寝取られ率一位の間柄でしょうが! あなたに譲るくらいなら私がそのポジションにつきますよ! エリスの彼氏も私! 寝取るのも私! エリスを取り巻く関係性は、すべて私一人でまかないます!!」

「何ワケわかんないこと言ってんの?!」



 軍の庁舎内であることを忘れたクレアの叫びに、エリスがツッコむ。

 それでもガルャーナは、済ました顔でクレアを見つめるのみ。相変わらず手応えのない性格である。

 クレアは咳払いをし、話題を変えることにする。



「んんっ……それで、そちらの会合はどうだったのですか? 察するに、"魔符式冷蔵技術"実用化に向けた話し合いだったのでしょう?」

「その通り。手紙にも書いたが、新たな冷蔵技術の認可が下りた。これから大量生産に動き出そうというところだが……それに伴い、改正したい協定があったため、こちらに出向いた次第だ」

「もしかして……オゼルトンの孤児に関する協定?」



 エリスの問いかけに、ガルャーナが頷く。



 ――三十年前。オゼルトンは独立した一つの国だった。

 しかし、とある感染症が広がり、人口は激減。その特効薬を開発したのが、隣国であるアルアビスだった。


 アルアビスは薬を無償で提供する条件として、併合を持ちかけた。オゼルトンはそれを承諾し、以来アルアビスの中の一つの領として存在しているのだが……

 併合の際、『オゼルトンの孤児はアルアビス軍の人的資源として送還する』という協定を結んだのだ。


 当時のオゼルトンには、感染症により増加した孤児を養育する余裕がなかった。

 飢え死にさせるよりは良いと考え、当時の領主――ガルャーナの父がその取り決めに承諾をした。

 

 だが……王都へ送られた孤児たちの多くは、非道な扱いを受けることとなった。

 アクサナもその一人だ。名門貴族の養子となり、虐待とも呼べる訓練に晒されていた。

 三ヶ月前の『地烈ノ大槌』を巡る一件でそのような現状を知ったガルャーナは、協定撤廃に向けて動き出すことを誓ったのだった。




「あぁ。これから冷蔵用の『神手魔符(カンピシャシ)』を大量生産することになる。製造から流通に至るまで、多くの人員を確保しなければならない。そのため、これまで軍に送り出していた孤児たちを働き手としてオゼルトンに留めたいと、国に申し出たのだ」

「それで……どうだった?」

「生産が軌道に乗り、領としての収益と必要な人員の数が具体的になったら、協定撤廃の方向で動くと言ってくれた。既に軍へ送られた孤児たちも、希望があればオゼルトンに戻れるよう計らってくれるそうだ」

「わぁ、よかったじゃない! どんどん良い方向に変わっているわね」

「それもこれも君たちのお陰だ。そして、実用化に向け尽力してくれたチェルロッタのお陰……オゼルトンの民は皆、彼女に感謝している。今度、エリシアの雪像の隣に彼女の雪像を建てようとの声が上がっている程だ」

「ならちょうど良い。あたしの雪像は取り壊して、チェロのを建ててあげてちょうだい。でっかくて立派なやつをね」

「何を言うのですか、エリス。あの雪像は私が魂を込めて作った最高傑作……破壊されようものなら、私の魂まで壊れてしまいます」

「あたしは自分の雪像が勝手に祀られてる恥ずかしさに日々魂を壊され続けているんだけど?」

「はは、相変わらず君たちは元気だな。チェルロッタの方はどうだ? 王都に帰ってしばらく経つが、元気にしているか?」



 そう尋ねられ、クレアとエリスはドキッとする。

 何故なら……まさに今、オゼルトンを救ったその英雄を、王子の部屋を物色する犯罪行為に駆り出している最中だから。


 しかし、そんなことを馬鹿正直に告げるわけにはいかないため、エリスは引き攣った笑みを浮かべながら答える。



「げ、元気元気。昨日も会いに行ったんだけど、部屋がワインの空き瓶だらけだったわ。相変わらず飲んだくれているみたい」

「そうか。酒が飲めるのは元気な証拠だ。またオゼルトンの酒を送ると伝えておいてくれ」

「わ、わかったわ」



 そう答えたところで、三人は庁舎の表玄関から外に出た。

 目の前には豪奢な馬車が停車し、ガルャーナの護衛たちが彼を待っていた。



「では、僕はオゼルトンへ戻る。見送りをさせてすまなかったな」

「ううん、あたしたちも一度家に帰って準備するつもりだったから。ついでよ、ついで」

「そうか。ジブレールはオゼルトンほど寒くはないが、山からの風が冷たい地域だ。防寒はしっかりして向かうといい」



 そして、ガルャーナは馬車の段差に足をかけ、上り始める……

 が、途中で何かを思いついたように足を止め、



「……そうだ。君たちに、この言葉を伝えておこう」



 言いながら、クレアたちの方を振り返り……




「――"水の心"を交わした男女は、深い(えにし)で結ばれる」




 ……そう、本の一節を読み上げるように言った。



「オゼルトンに伝わる古い俗諺(ぞくげん)だ。仮に"虚水(きょすい)鏡界(きょうかい)"に囚われたとしても……深い縁を持つ君たちなら、幻想に惑わされることなく、為すべきことを為すだろう」



 そんな予言めいた言葉を残し、柔和に笑うと、



「では、またな。次に会う時には、今回の旅の成功譚をぜひ聞かせてくれ」



 その言葉を最後に、馬車へと乗り込み……

 クレアとエリスの前から、去って行った。



 遠ざかる馬車を見届け、クレアがぽつりと呟く。



「……できれば私は、もう会いたくないですけどね」

「まぁまぁ、彼のお陰で命拾いしたんだから。今日のところは感謝しておきましょ」

「……それもそうですね」



 さて、とクレアは思考を切り替える。


 午前から開始した会議だったが、今は昼過ぎ。

 事が順調に運んでいれば、レナードがクレアたちの家に報告に来てくれるはずだ。


 彼らの無事を祈りながら、クレアはエリスを見下ろし、



「では……一度家に戻りましょう。ガルャーナさんの言う通り、防寒の用意をしっかりしなければなりませんからね」



 完璧な微笑を浮かべ、そう言った。



 

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