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空虚な模倣




 "愛"の真似事をしてみた。


 喜びそうな言葉を並べ。

 それらしい笑顔を浮かべ。

 切実そうな声で囁き。

 優しく、時に強引に、唇や肌を重ねた。


 しかし……




 ――パァンッ!!




 左の頬に走る痛み。

 鼓膜がビリビリと震える。


 デートに訪れた公園にて。

 彼女は、俺にビンタをかますと、



「あんたって本当にわかってない……もう別れましょ。さようなら」



 そう言って背を向け、俺の前から立ち去った。


 嗚呼、まただ。

 これで四人目。

 今回は二ヶ月続いたから、上手くいっていると思ったんだけど……



(前回の反省は生かしたはずなのに……何が足りないんだろう?)



 俺の周りには、女性との関係を上手に保っている先輩がたくさんいる。

 彼らの所作を研究し、完璧に真似したつもりだったのに……


 ……まぁ、所詮は虚構の真似事。

 どんなに見栄えが良くても、中身が空なら、卵や木の実だって価値はない。

 きっと、そういうところを見透かされているのだろう。



(他は完璧に真似できるのに……なんで恋愛だけ上手くいかないのかなぁ)



 こんなに苦労しているのは恋愛だけだ。

 真面目で熱心な新人の顔も。

 明るく元気な青年の顔も。

 可愛がられる後輩の顔も。

 全部、相手と状況に合わせて、完璧に演じられた。


 だから、『女性が夢中になる男の顔』も会得できると思ったのだけれど……



(……やっぱり、"正解"を知らないから、無理なのかな)



 ……と、俺は少し離れたところに目を遣る。


 夕暮れ時の公園。母親と手を繋ぎながら、嬉しそうに家路につく小さな男の子がいる。

 その笑顔は……俺が浮かべる"偽りの笑み"と違い、心からの喜びと愛情に溢れていて。


 それを見つめながら、俺は思い出す。

 両親に向けられた、落胆の眼差し。

 そして……捨てられた痛みを。



「……………………」



 ……でも、その痛みがどんな感情だったのか、忘れてしまった。

 時間の経過と共に薄れたのか?

 それとも……


 あの日、覆われた目の向こうで行われた"秘密の実験"によって、すべて奪われてしまったのか。




 ヒリヒリと走る頬の痛みを意識から消しながら、俺は歩き出す。

 そして、帰り着いた家の扉に鍵を差し込む。


 無機質でつまらない、一人暮らしの部屋。

 中身のない俺にはぴったりの住み処だ。



 しかし……

 開け放った扉の先は、"(から)"ではなく。


 まるで、俺の帰りを待っていたかのように、その人はいた。




「え…………なんで…………」



 思わず掠れる、俺の声。

 その人は、呆れたような目で俺を見つめながら、





「――いつまでここにいるつもりですか?

 さぁ…………元の世界へ帰りましょう」





 そう言って――


 俺の腹に、剣を突き刺した。



 

ということで。第四部、スタートです。

だいぶ間が空いてしまいましたが、第三部までの内容をおさらいしつつ進んでまいりますので、忘れていても大丈夫です。

毎日更新します。よかったらスタンプや評価等でリアクションください。元気出ます。

よろしくお願いします。

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