13-3 タイトルの回収を始めます
"精霊の種類と所在を、認識できる生徒がいる。"
この噂は、瞬く間に学院内へと広まった。
元々"成績優秀な変わり者のボッチ"として有名だったエリシアが、チートとも言える能力の持ち主だったのだから、生徒たちの話題はこの件で持ちきりだった。
それだけではない。彼女の噂は学院のみに留まらず、クレアの職場であるアルアビス軍本部をも騒がせた。
そもそも魔法学院は、将来的に戦力となる魔導士、あるいは優秀な魔法研究者を養成するための機関である。
精霊を認識できる人材など、軍も研究所も喉から手が出るほど欲しいに決まっている。
彼女の才能を活かせば、近隣諸国から更に一歩進んだ魔法技術を得ることができるかもしれない。
卒業後、エリシアが軍部か研究所へ加わってくれれば安泰だと、国のお偉方は今から盛り上がっているようだった。
学院が、国の上層部が、彼女の持つ才能に色めき立っている中。
当のエリシアはと言えば、注目の的になっていることなど全く気にする様子もなく、相変わらず勉学に精を出し、今まで以上にあちこち歩き回っては宙を舐めていた。
チェロのアドバイス通り、新種の精霊を探しているのだろうか。なるべく早くここを卒業したいと考えていたようだが……その真意は未だ不明である。
彼女は一体、何を考えているのだろう。
と、クレアは心配そうにエリシアを見つめる。
ただでさえ学院内で孤立していたのに、最近では"妬み"ではなく"畏怖"の念から遠ざけられているような雰囲気なのだ。
まったく、エリシアの能力を理事長に告げ口したチェロが恨めしい。おかげで一気に噂が広まってしまったではないか。
もっともこんな特異体質、学院側の人間として放っておけるはずがないと言えばそうなのだが……
嗚呼、周りから噂されることにストレスを感じて、エリシアがやつれてしまわないか心配だ。
彼女の健康状態に留意しつつ、しっかりと見守っていかなければ……
……などと考えながら。
クレアは今日もエリシアの部屋に忍び込み、寝ている彼女のスリーサイズを採寸しているわけだが。
ちなみにエリシアの身体(主にバスト)は、やつれるどころか順調に成長していた。
それは大変に喜ばしいことではあるが……
「……………………」
一ヶ月、二ヶ月……と月日が流れ、エリシア(のバスト)が成長するのを確認する度に、クレアはどこか寂しさを感じていた。
今はこうして定期的に、秘密の身体測定……もとい見守り活動をすることができているが……
もし彼女がアカデミーを卒業し、軍部あるいは魔法研究所で働くことになったら。
精霊認知能力を持つが故、忙しく働かされることは必至だろうし、もしかすると専用の研究室なんかが設けられるかもしれない。
そうなると……こんな風に頻繁に、彼女の姿を見ることすらできなくなってしまうだろう。
何よりも。
……軍部の女子寮も魔法研究所の女子寮も、こことは比べ物にならないくらいにセキュリティが高いのだ。
クレアを以ってしても、侵入は困難である。
……もう、エリシアちゃんの成長を追えなくなるなんて。
そんなの、辛すぎる。
エリシアが今、何を目的に動いているのかはわからない。
しかし、なるべく早く卒業したいと考えていることだけは、間違いないようだ。
それを止める方法も、権利も、当然ながらクレアにはない。
エリシアが、学院を卒業する時。
それは同時に、クレアの見守り任務が終わりを告げる時なのかもしれない。
それも仕方のないこと。
半年前なら、そう思っていただろう。
しかし、今は……
「…………………」
クレアは、熟睡しているエリシアの顔をそっと覗き込む。
世界中でただ一人、自分だけが知っているであろう、無防備な寝顔。
……この寝顔を見続けるためなら、なんだって。
それこそ、国の意向に背くような行為だって。
今の自分ならきっと、できてしまう。
……なんて。
国に忠義を尽くすことこそ全てだった自分が、随分変わってしまったな、と。
彼はどこか、他人事のように考えて。
「………全部、貴女のせいですよ」
ぽつりと呟いてから。
エリシアの部屋を後にした。
───だが、しかし。
クレアが恐れていたその時は、予想よりもずっと早くに訪れてしまった。
二年生が終わると同時に、エリシアの卒業が決まったのだ。
通常であれば五年間通うアカデミーを、三年飛び級しての卒業。
学院始まって以来の、超異例の事態である。
そのきっかけとなったのは、エリシアがまとめた一冊のレポートであった。
この一年、エリシアは自身の味覚をフル稼動させ、懸命に精霊を研究し……
そしてついに、発見したのだ。
これまで認識されていなかった、新種の精霊。
それも、二種類も。
一つは、暖気を司る精霊。
彼女はこれを『ウォルフ』と名付けた。
もう一つは、冷気を司る精霊。
こちらは『キューレ』と名付けられた。
既に実用化されている炎の精霊・フロルや、水の精霊・ヘラとは、似て非なる存在。
これらを用いて他の精霊と組み合わせれば、今までになかった魔法を展開できる。
例えば、冷気の精霊・キューレと水の精霊・ヘラを融合させれば氷を生み出すことができ……
新種のウォルフとキューレを混ぜ合わせれば、強烈な風を発生させることができる……といったこともエリシアは突き止めていた。
さらに、チェロから教わった知識を用いて、ウォルフとキューレを呼び出すための魔法陣も開発済みだ。
それも、必要最低限の動作で発動する、かなり効率的に組まれた魔法陣である。
……といった内容のレポートを受け取り、魔法学院の理事長は戦慄した。
新種の精霊を発見するだけでも稀有なことなのに、入学して二年足らずの生徒が、それを実用化させるところまで完成させたのだ。
もうこれ以上、ここで教えられることはない。
理事長はそう判断し……異例の早期卒業を決断した、というわけだ。




