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12-2 わずかに残っていた理性を引きちぎります




「…………………」



 閉じられた瞼。

 それを縁取る、長い睫毛。

 さらりと横に流れる、艶やかな髪。

 無防備に半開きになった、柔らかそうな唇。


 彼女の顔をこんなに近くで、じっくりと眺めるのは初めてだが……

 彼女を構成する一つ一つが、どれを取ってもこの世のものとは思えない程に尊く感じられて。


 とても愛おしく、感じられて。



 ……『愛おしい』……?



 そう自問した途端、クレアの心臓が、再び強く脈を打ち始める。



 彼女のことを、ずっと見ていたい。守りたい。幸せになってもらいたい。

 この寝顔を見ていると、そんな風に思わされる。

 なのに、何故だろう。それと同じくらいに。

 ……奪いたい。どこかへ連れ去って、自分だけのものにしてしまいたい。

 そんな恐ろしい感情も、確かに存在していて。


 だからこれはきっと、『愛しさ』なんかじゃない。

 『愛』なんかじゃない。

 そんな綺麗なものではなく、もっと汚れた、黒く醜い別の『なにか』だ。

 親もなく、人から愛されたことも、愛したこともない自分が『愛』だなんて……

 そんな美しい感情、抱けるはずがないのだから。


 その証拠に、



「…………………」



 彼は今、彼女の胸元……

 パジャマの一つ目のボタンが外れ、露わになっている深い胸の谷間に……

 視線が、釘付けになっていた。



 ちょ、ちょっと待って。

 …………え? なにこのえげつない谷間。

 この娘こんなにポテンシャル高かったの? 着痩せするタイプ?

 まじかよ……可愛くて頭も良い上に、隠れ巨乳て……チートにも程があるだろ。神は彼女に何物(なんぶつ)与える気だよ。



 こんなものを見てしまったからには、もう『守りたい』とか『愛しい』とか、そういった純粋な感情は何処かへと吹き飛ぶ。


 『触りたい』。


 ただそれだけが、彼の心を支配していた。



「………………………」

 


 ──すっ、と。

 彼は、自身の右手の人さし指を立てると。

 その柔らかそうな胸の谷間に、そっと……

 それを差し込もうと近付け…………


 ……ようとした、刹那!!




 ──パクンッ!!




 その指が。

 エリシアの口に、飲み込まれていた。



「…………!!」



 突然のことに、声にならない悲鳴をあげるクレア。

 まさか……バレた?!

 そう思い、心臓が一瞬にして冷たくなるが、



「……んふふ…♡ いちごろけーき……おいひ…♡」



 瞼を閉じたままクレアの指を甘噛みし、エリシアがそんなことを呟く。

 ……どうやら彼の指に残っていたショートケーキの香りに誘われ、寝ぼけて口に咥えたようだ。


 バレてはいないことがわかり、ほっと胸を撫で下ろすクレアだったが。

 ……しかし。



「………………っ」



 安心した途端、彼女の口内に取り込まれた指の感覚が、ありありと感じられてくる。


 柔らかな唇が、舌が、ちゅぱちゅぱとしゃぶるように吸い付き……

 かと思えば、ねっとりと、絡みつくように纏わりついてきて……

 くちゅくちゅと艶かしい音を立て、指をトロトロに蹂躙していく。


 エリシアのあの、ピンク色の舌が。

 今、自分の指を舐め回している。

 そのことを、目で、耳で、そして指の感触ではっきりと認識したクレアは……




 ────ぷっつん。




 自分の中の理性が、完全に切れる音を聞いた。


 ちゅぽんっ、と彼女が口から指を離すや否や……

 クレアはエリシアの身体を、仰向けに押し倒した。


 そして掛け布団を剥ぎ取ると、パジャマ姿の彼女の上に四つん這いになり……



 懐から取り出した巻尺(メジャー)を、その無防備な身体に当て始めた!



 バスト七八! ウエスト五二! ヒップ七六!!

 足のサイズは二二.五! 指輪のサイズは七号!!



 その手際の良さは、エリシアが目を覚ます暇もない程だった。


 続いてクレアは、勉強机の横にあるタンスへ近づくと、一番上の引き出しを素早く開ける。

 ふむ。下着は白とピンクが多めか。しかもちゃんと上下揃ったデザインを着用するタイプ、と。ブラジャーのサイズは……Dか。


 さらに、彼女の枕に付いていた一本の髪の毛を指で摘むと、腰に付けたポーチの中にしまい。

 先ほどチェロから拝借した精霊封印用の空の小瓶を取り出して、この部屋の空気を取り込むように何度か振ってから、封をした。



 ……これが、このクレアという男にとって、もっとも欲望に忠実な行動なのであった。

 彼女の全てが知りたい。彼女の全てを把握していたい。そのために、あらゆる数値と資料を手に入れておきたい。


 ある意味、"職業病"である。隠密のプロであるが故の、哀しき(さが)


 相手はジェフリーの娘だぞ! と叫ぶ理性的な自分はもういない。

 何故なら……「恩師の娘にこんなことをしている」という背徳感すらも、彼をより興奮させているのだから。



 クレアはずっと、自分がだんだんとおかしくなっていっているのだと思っていた。

 しかし今、はっきりとわかった。


 この変態性は、自分が元々持っていたモノ。

 こっちが、"本性"だったのだと。



「…………………」



 クレアは、布団を剥がされてもなお眠り続けるエリシアの上に、再び跨り。

 覆いかぶさるようにして、鼻先を彼女の首筋にそっと近づけた。

 白くて華奢で、まだ何者にも触れられていない綺麗な首筋。

 その甘い香りを、胸いっぱいに吸い込む。



 ……彼女に好かれなくてもいい。愛されなくてもいい。

 ただ自分が、この世で誰よりも彼女のことを知っている存在でありたい。

 そのために、これからも。



「………どうか、見守らせてくださいね」



 そう、囁くように呟いて。

 すやすやと眠る彼女に、布団をかけ直してやると。

 彼は音もなく、その部屋を後にした──




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[一言] や、ヤバいやつだ……
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