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超舌天才魔導少女と公式変態ストーカー剣士が、国の金でグルメをめぐる旅に出た。  作者: 河津田 眞紀
第一章 リンナエウスへの道程

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2-1 任務の準備は万全に

 



「──で。どう思った? さっきの話」



 食堂を出て、しばらく廊下を歩いた後。

 エリスは、隣を歩くクレアにそう切り出した。

 念願の日替わり定食をきっちり食べ終え、空腹が満たされたところでようやく先ほどの会議室での話に思考が向いたらしい。


 クレアは周囲に人がいないことを確認してから、返答をする。



「力を保持したまま、武器を持ち帰るという話ですか?」

「そう。魔法研としてはそのまま調べたいって言うのはわかるけど……前回の件で、『精霊にも感情がある』ってちゃんと報告したのに。それでも武器に閉じ込めたまま持ち帰らせようとするなんて、やっぱ単なる物質としか思われていないのかしら」

「どうでしょうね。我々が見た『封魔伝説』の真相についての報告も、実際どう思われているのかわかりません。あまりに非現実的すぎて信用されていないのか、それとも……」



 ……と、クレアはもう一つの可能性について考える。

 それは……国の上層部が、元々『封魔伝説』に隠された歴史の闇を知っていたのではないか? ということ。

 エリスもクレアの言わんとしていることを理解し、一つ頷いて、



「うん、その可能性はある。何もかも知っていて、あたしたちに"禁呪の武器"を集めさせようとしているのかもしれない。だとしたら絶対ロクなことにならないから、やっぱその場で無力化すべきね」

「えぇ。"水瓶男(ヴァッサーマン)"……もとい、"精霊の王"ともそのように約束してしまいましたからね。武器に封じられた全ての精霊を解放する、と」

「それも含めて報告したんだけどね……なーんかひっかかるわ。あの銀髪ツンツン男が隊長さんにした質問も気になるし」

「銀髪ツンツン男……って、レナードさんのことですか?」

「あぁ、そんな名前だったっけ? あの嫌味なヤツ」



 と、何食わぬ顔で言うエリス。興味のない人間の顔と名前を覚えようとしないのはいつものことである。

 だからクレアは、特にツッコむことはせず、



「『既に他の武器を所有しているのでは』、という話ですよね。あれは私も気になりました。なので今回、同行することになってよかったです。レナードさんも上層部に不信感を抱いていて、何か情報を持っているようでしたから。任務の最中に少しずつ聞き出しましょう」



 ……というクレアの言葉に。

 エリスは足を止め、その場に立ち尽くす。



「……エリス?」



 クレアも立ち止まり、どうしたのかと彼女の方を振り返る。

 エリスは、スカートの裾をきゅっと握り……唇を尖らせて、



「……ほんとによかったって、思ってる?」

「……え?」

「あたしは…………クレアと二人が、よかったけど」



 ……などと、拗ねたように呟くものだから。


 クレアは、ツカツカツカと歩み寄り。

 ガバッ! とエリスを抱きしめた。


 そして、



「ンなもん……私だって二人きりがよかったに決まっているじゃないですか!!!!」



 廊下中に響き渡らんばかりの声で、叫ぶ。



「また二人でゆっくりグルメ旅ができるよう、リンナエウスまでの旅のしおりまで作ったのに、まさかレナードさんが同行するだなんて……しかも貴女を『お子さま』などと侮辱して。先輩と言えども許せません。エリスは●●●●も●●●も●●●●●●●も経験済みの、立派な大人の女性なのに!!」

「だぁあああっ!! ナニを大声で言ってんのよバカっ!!!」



 とんでもない伏せ字ワードを連発するクレアの腕の中で、エリスは顔を真っ赤にして暴れる。

 が、クレアはさらにキツく抱きしめ、彼女の耳元で、



「だから……今後二度と誰にも邪魔されないよう、彼を"利用"しませんか?」



 そう、妖しく囁く。



「り、利用……?」

「えぇ。どうやらレナードさんは、私だけが"禁呪の呪い"に耐性を持つのか否か確かめたいようなので、そこを逆手に取ります」

「……どうやって?」

「簡単です。一度"禁呪の武器"に触れてもらい、彼を狂戦士化させるのです。そうすれば、やはりこの任務が務まるのは私しかいないという何よりの証明になります」

「でも……万が一、あのツンツン男が呪いを跳ね除けちゃったら?」

「そこはなんとでも操作できます。貴女の協力さえあれば」

「あたしの……?」



 と、エリスは聞き返すが……

 すぐに、その意味を理解する。


 『風別ツ劔』を解放した時、エリスは一度、呪いに飲み込まれそうになった。

 それを、クレアが手を繋ぎ介入することで、跳ね除けた。

 もし、レナードと同じやり方を試すとなったら……

 演じれば良いのだ。呪いに飲まれ、悶え苦しむ様を。


 エリスは、口元をニヤリと歪めて、



「んふふ……あたし、そういうの得意♡」

「存じ上げております。そして、そんなところも好きです」

「今回はちょっと残念だけど……次回以降また二人でグルメ旅を楽しめるよう、土台作りをするとしましょうか」

「はい。それに今回は、道中のグルメよりも領主の屋敷に潜入してからがメインとなる予定です。それももう、ご承知の上だとは思いますが」

「うんっ♡ だって、パペルニア領のリンナエウスと言えば……ハチミツの名産地だもんっ♡」



 ぱぁあっ。

 と、エリスの目にハートが浮かぶ。



「王家や貴族御用達(ごようたし)の"花の産地"として有名なリンナエウス……その副産業として盛んなのが、養蜂♡ 中でも最も希少で高級なハチミツは『琥珀の雫(アンブル・ラムル)』と呼ばれ、ほのかに花の香りが漂う至極の逸品なんだとか……♡ だけど、領主を始め限られた名家にしか出回らないから"幻のハチミツ"と言われている……領主の家に使用人として潜り込むなら、これを口にする機会があるかもってことよね?」

「もちろん。そこまで織り込み済みで、今回の潜入捜査を企画・提案いたしました」

「はぁああんっ♡ さっすがクレア♡ しゅき♡」

「ありがとうございます」



 ……などと一頻り抱き合った後、二人はようやく身体を離し、



「……でも、最後に隊長さんが言ってた『準備』ってなんなの? あたしは特に『念入りに』って言われたけど……」



 そう尋ねるエリスに、クレアはにこりと笑って、



「ふふ……その手筈も全て整えております。今からお連れしますので、詳しくはそちらで……」



 と、意味ありげに言ってから。

 彼女の手を引いて、歩き出した。





 * * * *





 ──翌朝。


 "中央(セントラル)"の正門前に、一台の馬車が停まっていた。

 その横に佇む男──レナードだ。腰に剣を差し、身軽な旅装に身を包み、通りを静かに見据えている。

 リンナエウスの街へ向かうべく、クレアたちを待っているところだ。


 やがて、通りの向こうからクレアが歩いてきた。同じく腰に剣を差し、軽量型の防具を身に付けている。



「おはようございます、レナードさん。お待たせして申し訳ありません」



 クレアが爽やかに挨拶をするが、レナードはそれには答えず、



「あの女はどうした」



 そう、短く尋ねた。

 すると、



「…………ここにいますケド」



 ……という、ムスッとした声と共に。

 クレアの後ろから、ひょこっと顔を覗かせたのは……



 髪の短い"少年"だった。

 明るい茶髪に、太めの眉毛。

 小柄な体型に、クレア同様軽めの防具を身に付けている。



 そんな人物の登場に、レナードは表情を変えないまま、一言。



「…………誰だ」

「あたしよ、あたしっ。昨日の今日で顔忘れたの?」



 と、その口から、いかにも女の子な声が飛び出したので……

 レナードは、ようやくそれがエリスであることを理解した。



「……何故、そのような格好をしている。ガサツな中身に合わせて少年として生きることに決めたのか?」

「うっさいわね! あたしだって好きでこんなカッコしてるんじゃないわよ!!」

「なら……クレアルド。貴様の趣味か?」



 淡々とした口調でそう聞かれ、クレアは困ったように微笑みながら、



「そうであればよかったのですが……今回ばかりは、必要に迫られてのことです。向かう道すがら、説明いたしましょう」



 そう言って、馬車の扉を開けた。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 大魔王クレア様!! 彼女と2人きりの任務にするために先輩を一度狂戦士にしちゃう発想、もはや人のものではないですね。 というかこの2人、国から見れば 「国や魔法の成り立ちに関わるトップシーク…
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