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超舌天才魔導少女と公式変態ストーカー剣士が、国の金でグルメをめぐる旅に出た。  作者: 河津田 眞紀
番外編 デザート〜アルピエゴ領編〜

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クイズ☆恋人の気持ちを当てまショー!①

番外編 第二弾は、前回から数日後のお話です。

全三話。サブタイ通りのテンションでお届けします。

 



 ──アルピエゴ領は、アルアビス国内で二番目に小さな領地である。


 王都の二つ隣に位置し、南の海を臨むオーエンズ領。

 その北に、小ぢんまりと存在するのがアルピエゴ領だ。



 エリスとクレアはオーエンズ最南端の街・イリオンを出発してから、領内を縦断するように北上を続け……

 そうして、一週間かけてようやく辿り着いた。




 アルピエゴ領、最初の街。


 アルトゥールだ。







 街の門をくぐった瞬間、エリスの鼻を芳しい香りが掠めた。

 それは、街を飾る色鮮やかな花の香り。

 道行く人々から漂う香水の香り。

 そして……



「──チョコレートのにおい……♡」



 エリスは鼻をくんくんと鳴らしながら、うっとりと呟いた。




 ここ、アルピエゴ領はカカオの産地である。

 一年を通して気候と気温が安定している、カカオの育成に恵まれた土地。しかし一方で、森と農園ばかりに囲まれているため、観光客に人気とはとても言えなかった。


 そこで、数年前新たに就任した領主が取り組んだのが、"地産地消"改革。

 これまで出荷がメインだったカカオを、領内で加工・提供することを始めたのだ。


 このアルトゥールという街はオーエンズ領との境にあることから、観光客を招くため特に力を入れて再開発されたのだそう。

 とりわけ、ターゲットにしたのが……若い男女。

 カップルのデートに甘いものは欠かせない。そこに目をつけ、恋人たちの興味を引くような店やイベントを次々に展開しているのだ。




 ……という、エリスが仕入れた前情報の通り。

 街は、甘い香りのするおしゃれな店と、若いカップルで溢れていた。

 どこを見ても、腕を組んだり手を繋いだりしている男女が目につく。


 クレアはちらっとエリスを盗み見て。


 ……自分も、手を繋いでみようか。


 などと考えるが。



「見て見てっ、あそこ! あのお店のチョコレートドリンクがめちゃくちゃ美味しいんだって!! 早く行こ!!」



 そうしている間に、エリスの方がクレアの手を取った。

 目当ての店を指さし、目をキラキラさせながら手を引くエリスに。

 クレアは……思わず微笑んで。



「……わかりました。すぐに行きましょう」



 彼女と共に、走り出した。









「──んんんあまぁぁあいいぃっ♡♡」



 一口飲んだ瞬間、エリスは頬に手を当て悶えた。


 溶かしたチョコにミルクを混ぜ合わせた、飲むチョコレート。おまけにホイップクリームまで乗っているのだから、甘いもの好きにはたまらないドリンクである。


 そこは、チョコレート専門店だった。ショーケースには様々なチョコが並ぶ他、ケーキなどの生菓子も置いてある。

 店内のカフェスペースで食べることもできるようで、やはり多くのカップルで賑わっていた。


 ドリンクをエリスから一口もらい、クレアがその甘さに少し驚いていると、カウンターの向こうから店員の男性が声をかけてきた。



「明日こういうイベントがあるので、よかったらご参加下さい」



 そう言って、一枚のビラを手渡される。

 エリスは「イベント?」と呟きながら、クレアと共にそれを覗き込んだ。

 そこに記されていたのは……




<あなたは彼氏/彼女のことをどれくらい知っている?! 第三回・恋人クイズ大会!!>




「……こいびと……」

「……クイズ大会……?」



 テンション高めな文面にエリスとクレアが首を傾げると、店員の男性は微笑んで、



「カップルが、お互いの考えていることを当て合うクイズ大会ですよ。その優勝商品が、ウチの特製チョコレートケーキなんです」

「チョコレートケーキっ?!」

「えぇ。大会のための限定品ですよ。今試食をお配りしているのですが、召し上がりますか?」

「召し上がるっ♡」



 ピックに刺さった一口大のそれを差し出され、エリスは瞬時に飛び付く。

 そして、ぱくっと頬張った直後、



「んんんむぅぅうううっ♡♡」



 歓喜の声を上げ、悶絶した。

 そんな彼女の反応を見て、


 ……これは、出場決定だな。


 と、クレアは瞬時に悟る。

 案の定、エリスはクレアの肩をガッ! と掴むと、



「優勝するわよ!!」



 やはり、決定事項だった。

『出てもいい?』とか、『どういうクイズなの?』とか、そんな迷いは一切ない。目の前に美味しいものをぶら下げられたなら、脇目も振らずに突っ込んでいく。それが、エリスという人間なのだ。

 こうなったらクレアに拒否権などあるはずもない。もちろん答えは、



「はい。わかりました」



 ……もっとも、最初から拒否するつもりも彼にはないのだが。



「大会に参加されるなら、街役場で登録をする必要があります。この大通りをまっすぐ行ったところにあるので、ぜひ」



 店員の男性に言われると、エリスは再びクレアの手を取り、



「わかった! 賞品のチョコレートケーキ、とびきり美味しく作っておいてね!! 行こ、クレア!」



 と、足早に店を出て、街役場を目指し歩き始めた。







 街役場へと辿り着いた二人は、速やかにクイズ大会への参加登録を済ませた。

 それから、開催場所や集合時間についての説明を受けた後、あらためてクイズのルールを教えられる。



「……例えば、『赤いものといえば?』というお題が出されたとして。これに対して彼女さんが何と答えるのかを、彼氏さんが予想する。フリップに書いた二人の答えが一致していたらポイントゲット。ポイントが一番高かったカップルが優勝……というものだ。なんとなく、わかったかな?」



 ……と、クイズ大会運営係の中年男性が言う。

 エリスは「ふーん」と相づちを打って、



「第三回ってことは、もう既に二回やっているのよね? 今まではどんなお題が出たの?」

「今回の大会で出す内容と被る可能性があるから、残念ながら教えられないよ。けど、もちろんカップルにちなんだお題になるね」

「カップルにちなんだお題って言われても、全然ピンと来ないんだけど……」

「まぁまぁ、明日のお楽しみってことで。今のうちに二人であれこれ予想しておくといいよ」

「予想、ね……」



 エリスが小さく息を吐くと、横でクレアが(おもむ)ろに手を上げた。



「すみません、トイレをお借りしてもよろしいですか?」

「ああ。この通路の突き当たりを右だ」

「ありがとうございます」



 クレアは男性が指さした方へ足先を向けると……

 去り際に、エリスにだけ聞こえるように、



「時間稼ぎ、お願いします」



 そう、短く囁いた。

 それだけで、エリスには彼が何をするつもりなのかがわかった。

 だから、目の前の運営のおじさんに向かってニコッと微笑むと、



「そういえば、優勝賞品はすっごく美味しいものだって聞いたけど。何が出るの?」

「あぁ、よくぞ聞いてくれた。この街で一番人気のチョコラトリーが作る、甘〜いチョコレートケーキさ!」

「チョコレートケーキ?! 一番人気のお店の?! すごーいっ♡ 詳しく教えて♡」



 と、クレアに言われた通りおじさんとあれこれ世間話をして時間を稼ぐ。

 やがて、十分もしない内にクレアが「戻りました」と帰ってきたので、



「それじゃあ、おじちゃん。明日よろしくね♪」

「あぁ。優勝賞品もらえるように、頑張ってな」



 手を振り見送られ、二人は街役場を後にした。






 * * * *






「──で。何かわかった?」



 アルトゥールの街中で、今夜泊まる宿を確保し。

 部屋に入り、剣や防具、荷物を下ろしてから……

 エリスは、あらためてそう切り出した。

 それに、クレアは懐から一枚の紙を取り出す。



「明日出題されるお題は見つかりませんでしたが……前大会で出された内容のリストは手に入りました」



 そう言って、それを彼女に手渡した。

 少しでも優勝に近付くため、エリスに運営係の注意を引き付けてもらっている間、役場内を物色し入手したのだ。


 エリスはにんまり笑うと、クレアをつんっと突いて、



「さっすがクレア。頼りになるぅ♪」

「ありがとうございます。短時間で結構頑張りました。何かご褒美、もらえたりします?」

「ごっ、ご褒美……?」



 ニヤリと笑うクレアの要求に、エリスはたじろぐ。


 クレアとしては、あわよくばキス、そうでなければ「調子に乗るなっ」と叱られるのが関の山だろうと、そう思っていた。

 しかし……実際は、そのどちらでもなかった。


 エリスは、頬を赤らめながら暫し悩んだ末……

 ぐーっと背伸びをして、手を上に伸ばすと。




「……よ、よくがんばりました」




 自分よりずっと背の高いクレアの頭を。

 優しく、なでなでした。


 その予想外の"ご褒美"に、クレアは……



「………あ゛り゛が ど ゔ ご ざ い゛ま゛す っ っ!!」



 エリス以上に赤くした顔を、バッ! と両手で覆った。

 その反応に、エリスはびくっ! と驚く。



「ちょ、なんであんたが照れてんのよ!?」

「だって……大の男に"いい子いい子"って……何この可愛いご褒美……しぬ……」

「しょ、しょうがないじゃない! 他に思いつかなかったんだから!!」

「はぁ、やば……なでなでハマりそ……そうやってエリスはすぐ俺の新しい扉開く……もういっそ赤ちゃんになりたい…… 」

「キモイことばっか言ってないで、さっさとこれ見て対策練るわよ! 何としても優勝して、チョコレートケーキを手に入れるんだから!!」



 そう言って、エリスが部屋備え付けのテーブルに着くので、クレアも向かいに座った。



「ふふん……これさえあれば、事前に答えを打ち合わせできるもんね」

「えぇ。同じ問題は出なくとも、傾向を掴み予想することはできます」

「どれどれ。前回はどんなお題が出されたのかしら……」



 二人はリストを覗き込み、前大会で出されたクイズのお題を上から順番に目で追う。

 そこには、こんなことが書かれていた。




★彼氏/彼女の きゅんとする仕草は?

★彼氏/彼女の身体で 一番好きなパーツは?

★彼氏/彼女に言われて 一番嬉しかった言葉は?

★彼氏/彼女との 初キスの味は?

★彼氏/彼女との子どもは 何人欲しい?

★彼氏/彼女の……




「………………」



 ……と、そこまで読んで。


 エリスは、ガタッと椅子から立ち上がった。

 そして出窓の方へスタスタと向かい、バンッ!と窓を開け放ち……


 すぅ……っ、と息を吸うと。




「ムリーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」




 辺り一帯に響き渡るような大声で、叫んだ、

 近くの街路樹から、小鳥たちがバサバサッ!と飛び立つ。



「はぁ?! 何この恥ずかしいクイズ! こんなん人前で答えるとか、正気の沙汰じゃないわ! 絶対無理なんだけど!!」



 エリスは真っ赤な顔して振り返り、リストを指さしながら文句を言う。

 それにクレアは肩をすくめ、



「しかし、これが『恋人クイズ』なのですから。ちゃんと答えなければ……お目当てのケーキは食べられませんよ?」



 なんてことを言うので。

 エリスの背中を、冷たいものが伝う。



「クレア……あんたもしかして、こういう内容だって知ってて協力したの?!」

「まさか。このリストを手に入れるまでは、私も詳細は知りませんでしたよ。まぁ……ある程度予想はつきましたが」



 恨めしそうに睨みつけるエリスの視線を、涼しい顔で受け流すクレア。


 エリスは、この時初めて悟った。

 自分が……とんでもなく恥ずかしいクイズ大会に、自ら参加表明してしまったことを。


 クレアは口の端を吊り上げ、妖しげに笑うと、



「ここまできたら、やらないわけにはいかないでしょう? 限定モノのチョコレートケーキのためにも、きちんと胸の内を晒し合いましょう。お互いがお互いを……どう想っているのか」



 したり顔で、そう言った。



次回。恋愛異種格闘技戦、開幕。

甘いお題でボッコボコに殴り合います。お楽しみに。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 甘い。ほんと甘くて面白くて可愛い。何だこの完璧な生き物は… 今まで恥ずかしがって拒否してたのに不器用ながら頑張って考えて結果よしよしするとか心臓もたんて…クレアが珍しくガチ照れするのもわ…
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