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超舌天才魔導少女と公式変態ストーカー剣士が、国の金でグルメをめぐる旅に出た。




 ──翌日。



 散々飲み明かした一同は、遅めの朝食を摂ると、イリオンの馬車乗り場へと向かった。

 王都へ向かう馬車の前で、ブルーノは四人と向かい合い、



「……短い間じゃったが、賑やかで楽しかったぞ」



 そう、名残惜しそうに言った。

 エリスは、にこっと笑って、



「こちらこそ、美味しいお魚料理たくさん振る舞ってくれてありがとうね。また食べに来るわ」

「私も、もっとお酒に強くなったらリベンジさせてください!」

「王都に帰ったら、おすすめのワイン送らせてもらうわね」



 シルフィーとチェロも、続けて餞別の言葉を贈る。

 最後に、クレアが爽やかに微笑んで、



「今度来た時は、漁船の操縦方法を教えてください。エリスにいつでも捕れたての魚を食べさせられるよう、習得したいので」

「……本当に、あんちゃんはブレないの」



 そう、ブルーノは苦笑してから。



「……お嬢ちゃん」



 と、あらたまった様子で、エリスに目を向ける。



「……儂から、最後にもう一つだけ、頼みがある」

「頼み?」

「ああ。恐らくシュプーフは、そう長くは生きられない。普通の倍以上の早さで成長してしまったんじゃ。(つるぎ)も抜け、"ただのイシャナ"に戻った今、間もなく寿命を迎えるだろう。だが……きっと死ぬ間際には、儂のところへ顔を出してくれると思うんじゃ。そしたら……シュプーフが死んだら、儂はあいつを、食おうと思っとる」

『え……?』



 その言葉に、エリス以外の三人が声を上げる。

 ブルーノは、静かに目を伏せ、



「あれは、儂が釣った魚じゃ。釣ったからには、責任を持って腹に納めにゃならん。そして、その時は……お嬢ちゃん。お前さんにも、付き合ってもらいたい」

「……あたしに?」

「そう。このイリオンで捕れる、最後のイシャナの味を……シュプーフが生きたその証を、味わってもらいたいんじゃ。何せ……」



 ニカッ、と。

 ブルーノは、白い口髭をつり上げて、



「お嬢ちゃんなら絶対、『美味い美味い』って食ってくれるからな。あいつもせっかくなら、美味しく食べてもらいたいだろうよ」



 笑いながら、そう言うので。

 エリスは、胸がきゅっと切なくなる。

 しかしすぐに、ぱっと明るく笑って。



「……わかったわ。大事に大事に、食べさせてもらう。そして……その味を、絶対に忘れない」

「ありがとう。もちろん、あんちゃんたちも来てくれ。時期が来たら、手紙を寄越すから」



 クレアも、チェロもシルフィーも、少しの切なさを抱きながら、頷いた。





 そして。

 エリスたちは、馬車へと乗り込む。



「道中、気をつけてな」

「おじいさんも、身体に気を付けてね」



 最期は、短い挨拶だけを交わし。

 四人は、王都に向けて出発した──






「──さて、久しぶりに王都に帰るわけだけど。二人はこれからどうするの?」



 手を振るブルーノの姿がすっかり見えなくなった頃。

 エリスが、向かいに座るチェロとシルフィーに尋ねる。



「そうねぇ、私はエリス追いかけるために無理矢理長期休暇取ってきちゃったから、またしばらくは魔法学院(アカデミー)の講義に専念かしらね。落ち着いたら、新しい精霊研究を始めるわ」

「私は、治安調査の仕事を続けるつもりです。みなさんの力を借りまくりではありましたが、初めて仕事をやり切ったので……少し、自信がつきました。また新しい任務を受けて、それを全うしようと思います」

「そっか。帰ったら帰ったで、二人とも忙しくなりそうだね」

「そう言うエリスはどうするの? "禁呪の武器"のこともあるし……あなたこそ忙しくなるんじゃない?」



 チェロに質問を返され、エリスは一度口を閉ざす。

 それから、「うーん」と唸り声を上げて、



「正直、まだ物足りないのよね」



 ……なんて、前後の脈略を完全に無視したセリフを発するので。



『………何が?』



 と、チェロとシルフィーが声をハモらせて聞き返す。

 しかしエリスはそれに答えず、



「クレア。国に提出予定の報告書、見して」

「はい。こちらです」



 促されるまま、クレアは今回の件についてまとめた報告書を彼女に見せる。



「ふんふん。よく書けてるわね。じゃあコレ。提出よろしく」



 ぐいっと、チェロとシルフィーに報告書を押し付けると。

 馬車の扉をバンッ! と開けて。



 クレアの手を引き、走行中の馬車から飛び降りた!




『ぇ……えぇええええぇぇぇ?!』



 咄嗟に受け身を取ったクレアに抱きかかえられながら。

 エリスは、徐々に遠ざかる車輪の音と、二人の困惑の叫び声を聞いた。



「………どういうつもりですか?」



 突然馬車から引きずり降ろされたクレアは、心臓をばくばくさせながら彼女に尋ねる。

 エリスは彼の腕の中から立ち上がると、手をぱんぱんっ、と払って、



「だって、まだまだ食べ足りないんだもん。このまま大人しく帰るだなんてもったいないわ」



 それから、ニンマリと悪い笑みを浮かべて、



王都(いえ)に帰るまでが任務、でしょ? だったら、もう少しだけ……国のお金で美味しいもの、食べていかない?」



 なんてことを言ってのけるので。

 クレアは、あきれたように笑う。



「まったく、貴女という人は……わかりました。どこまでも、お供いたしますよ。だって、私は……」




 貴女の恋人で、番犬で……

 いや、その前に。


 どうしようもないくらいに、貴女に夢中な。






「……貴女の、ストーカーですから」




















「──あたし、アルピエゴって領に行ってみたいの。ド田舎なんだけど、近ごろ若者で賑わってるんだって。今流行りの新しいグルメに出会えるかも♡」

「アルピエゴですか。ここから結構かかりますが……大丈夫ですか?」

「だいじょぶだいじょぶ。クレアもせっかくだから、何か食べたいものないの?」

「……まぁ、あると言えば、あります」

「おぉっ、珍しい」

「ずっと食べたくて、楽しみにとっておいたのですが……そろそろ我慢の限界なので、王都に着くまでには食べてしまおうかなと」

「へー、いいじゃん。食べちゃいなよ」

「……言いましたね?」

「え、どーいうイミ……? って、何その妖しい笑みは! 怖いんだけど! なになに?! 食べたいものってなんなの?!」

「ふふ……その内わかりますよ。いやぁ、楽しみだなぁ」

「だから何が?! もーっ、怖いから早く教えなさいよーっ!!」

「そんなことよりエリス。今日のお昼ご飯は何を召し上がるご予定ですか?」

「はっ! 決めてなかった! うーん、お魚の次はやっぱお肉かなぁ? でもパン系も食べたい気がするし、そうなると……うぅーん……」

「まぁ、歩きながらゆっくり考えましょう。急ぐ旅でもないのですから」

「それもそうね。さぁて、今日は何を食べようかなーっ♪」





 ー第一部 完ー


 

これにて完結です。

お読みいただき、ありがとうございました。

みなさまからの感想やレビュー、評価やブクマやPVのひとつひとつが、書き進める力になっていました。最後までお楽しみいただけていることを願うばかりです。


……で。

お気付きかもしれませんが、こいつらようやく本当の意味でタイトル通りに旅に出たんですよ。

つまり……まだまだ、旅は続きます。


ということで。この後、甘さに全振りした番外編が続きます。そちらもどうぞお楽しみください。

また、今後の参考のためにページ下部からこの作品の評価(★印)をしていただけると大変ありがたいです……!


それでは、長くなりましたが。

本作に出会ってくださったすべてのみなさまに、お礼を申し上げます。

本当に、ありがとうございました!!

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― 新着の感想 ―
[一言] いや、ここからが本編だ!
[良い点] 終わり方まで全て凄く好きでした! [一言] 番外編、楽しみに待ってます!
[良い点] あぁ、ついに完結してしまったのか…。 約半年に渡って更新を追い続けてきて、[完結]の文字を目にした時に浮かんだのはその言葉でした。 そして、番外編有りとの後書きに大歓喜! これからもエリス…
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