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超舌天才魔導少女と公式変態ストーカー剣士が、国の金でグルメをめぐる旅に出た。  作者: 河津田 眞紀@7/4消えサガ1巻発売!
第三章 ぐるめぐる探訪録〜オーエンズ領編〜

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15-3 潮騒のキヲク

※残酷描写注意 です。




 セオドアと名乗ったその男は……どうにも様子がおかしかった。

 笑みを浮かべ半月のように歪んだ目は焦点が合っていないし、足元はフラフラと覚束(おぼつか)ない。まるで、酔っ払っいのようなのだ。


 そんな男の登場に、ブルーノは眉間に皺を寄せ、



「お前さんが何様かは知らないが、ダメなものはダメだ。身分証を見せろ。然るべき処罰を受けてもらう」



 そう、淡々と告げた。

 イリオンの漁業組合の役員を務めていたブルーノには、密漁を取り締まる権限があった。

 これまで海賊紛いの連中とも何回かやり合ってきたが……このセオドアという男からは、そうした賊とは違うニオイを感じた。

 恐らく、それなりに身分のある者……どこぞの貴族が、娯楽として狩りを楽しんでいるといったところだろう。


 だが、身分があろうがなかろうが、犯罪は犯罪。等しく裁きを与える必要がある。

 ヘラヘラとした笑みを浮かべるセオドアを、ブルーノはもう一度睨み付け、



「聞こえんかったか? 許可なき者のイシャナ狩りは犯罪だ。見つかってしまった以上、大人しく身分を明かせ」



 ブルーノが投げかける横で、仲間の漁師たちが手に武器を持ち始める。海賊と鉢合わせた時のため、常に備えてあるのだ。

 武装する漁師たちを眺め、セオドアは(おど)けたように肩をすくめる。



「おー怖。揃いも揃って剣だの槍だの。これじゃ海賊と変わらねーじゃねぇか」

「先に剣を抜いたのはそっちだろ。これは正当防衛っす」



 と、若い漁師が槍を向けながら勇ましく言う。

 セオドアは、「ヒヒッ」と笑い、



「いやいや。これはお前らに向けて抜いたものじゃねぇよ。イシャナを狩るために使ってんだ」

「ハッ。船の上で剣振り回して魚が捕れるなら、俺たち漁師は誰も苦労しねーよ」



 若い漁師の挑発的な言葉に、他の漁師たちも笑う。

 それに、セオドアは……



「……それが、出来ちゃうんだよなぁ。ほら……こぉんな感じで」



 ニタァッ、と笑ったかと思うと。

 目の前の空を切るように、手にした長剣を振るった。すると……


 ──ブォンッ!


 空気が振動するような鈍い音と共に、(やいば)の形をした風が生まれた。

 それはもの凄い速度で若い漁師目がけて飛んでゆき……



「…………え?」



 声を漏らした時には、もう。

 ……その腹から、真っ赤な鮮血が噴き出していた。


 何が起こったのか理解できず、ブルーノたちは目を見開く。

 若い漁師は膝から崩れ落ち、その場に倒れ込んだ。



「お……おい! しっかりしろ!!」



 ブルーノが駆け寄り、身体を抱き起こすが……既に意識はなかった。



「何だ、今のは……」

「魔法か……?!」



 武器を握りしめる漁師たちに、緊張が走る。

 セオドアは高笑いすると、



「魔法なんて甘っちょろいモンじゃねぇよ。これは、かの有名な伝説の武器……『風別(かぜわか)(つるぎ)』だ」

「……『風別ツ劔』?」



 それは、この国に住まう者なら知らぬ者はいない、『封魔伝説』に登場する賢者の武器の名だ。

 しかし、あくまでも"お伽話"。そんな代物が、現実に存在するわけがない。

 ブルーノたちが困惑していると、セオドアはもう一度剣を振りかざし、



「信じられねぇって言うなら見せてやるよ。この劔の力を……!!」



 その剣を、思いっきり振り下ろした。直後。

 剣身から、先ほどよりもさらに大きな"風の刃"が生まれ……ブルーノたちの漁船の向こうへと飛んでいった。

 直後。

 まるで巨大なナイフを入れたかのように海水が真っ二つに割れ、水しぶきが上がり……海底の珊瑚礁まで剥き出しになった。



『なっ……!?』



 "海を裂く"という伝説そのままの力を目の当たりにし、ブルーノたちは戦慄する。

 先ほど吹いた妙な突風の正体はコレだったのか……

 と、息を飲む漁師たちの反応を、セオドアは満足げに見下ろし、



「さぁ、次はお前たちの番だ……」



 そう言って、劔を構えようとするが、



「セオドア様! 領民に手を出すのは流石にまずいです!!」

「どうか一度、その剣を置いて!!」



 黒いスーツ姿の男二人が現れ、セオドアを取り押さえた。身なりと口ぶりから察するに、使用人か何かだろうか。

 だが、セオドアは二人を振り払い、



「だから、俺様に指図するなっての」

「しかし、もしも殺人など犯したら、さすがのセオドア様も法の裁きを免れません!」

「だぁから」



 ──ブゥンッ!


 セオドアは、躊躇することなく劔を振るい……



「……俺自身がこの世界の"法"になれば、そんなの問題ないだろ…?」



 低く囁きながら、"風の刃"で使用人二人を斬り捨てた。

 その光景に……セオドアの異常性に、漁師たちは後退りをする。



「なんで今まで気付かなかったんだろう。この劔の力をヒトに使えば、簡単に世界を手に入れられるじゃん。だって……ヒトなんかこんなに簡単に、壊せちゃうんだから」



 劔を担ぎながら再びこちらを見下ろすセオドアの目が、不気味に光る。


 こいつ、完全に……狂っている……


 どんどん冷たくなる若い漁師の身体を抱えながら、ブルーノが汗を垂らすと。

 漁師の一人が、セオドアに向けてクロスボウの矢を放った。それはセオドアの右肩に見事に命中。貫かれた痛みに、「ぐあっ!」と声が上がる。



「てんめ……俺様の身体によくも傷をつけてくれたな……!!」



 セオドアは激昂し、矢が刺さっていることなどお構いなしに劔を構える。

 そしてそれを勢い良く横薙ぎに振り……巨大な"風の刃"を放った!

 若い漁師を抱えていたブルーノは、咄嗟に床へ伏せるが……



『うわぁぁああああっ!!』



 武器を持ち、立った状態だった漁師たちは、その攻撃をモロに喰らってしまった。

 そして……

 全員、身体を斬り裂かれ、血を噴き出しながら、倒れ込んだ。

 操舵室の窓も屋根も、その猛烈な風圧により吹き飛ばされ、破片がパラパラと海に落ちて行く。



「お……おまえら!!」



 倒れた仲間と破壊された漁船を瞳に映し、ブルーノは混乱と怒りに震える。


 一体、何が起こっている? これは現実か? どうしてこんなことに……

 ……許せない。こいつは……儂が止めなければ。


 高笑いするセオドアを()め付け、ブルーノが槍を手に立ち上がった……その時!



 ──ドォンン……!!



 という音と共に、セオドアの乗る船が大きく揺れた。

 それによりセオドアはバランスを崩して倒れ……その手から、劔を離した。

 落下した劔は、そのままブルーノのいる漁船の甲板にトスッ、と刺さる。


 今の揺れは……



「……シュプーフ……!!」



 ブルーノは、海を見下ろし叫ぶ。

 シュプーフが、セオドアの船に体当たりをしていたのだ。



「くっ……この、クソ魚が! ぶっ殺してやる!!」



 セオドアは怒りを滲ませると、船を飛び降りブルーノの漁船へと降り立つ。

 そして再び、劔を手に取ろうと駆けるので……



「させるか!!」



 ブルーノは槍を持ち、突進する。


 あの子は……シュプーフは、儂らの家族だ。

 せめてあの子だけでも、護り抜かなければ……!!


 必死の思いで、ブルーノはセオドアへと向かうが……

 あと一歩のところで、セオドアの方が速かった。奴は劔を引き抜くと、突進してきたブルーノ目掛けてそれを振り上げ……

 すぐ目の前で、"風の刃"を放った!


 だめだ。避けられない…!!


 ブルーノがすべてを諦めた……その時。



 ──ドォオン……!!



 今度は、こちらの漁船にシュプーフが体当たりをしてきた。

 そのお陰でブルーノは倒れ込み、"風の刃"の軌道がズレたことで直撃を免れた。

 そして……



 ──ドスッ……!!



 転んだ弾みで、同じく態勢を崩しよろめいたセオドアの腹に……

 ブルーノの槍が、深々と突き刺さった。



「……あ………あ…………」



 セオドアが、一歩、二歩と後退しながら、腹に刺さった槍を見下ろす。

 そのまま、こぼれ落ちるように、力なく劔を手放した。

 劔は、未だ揺れる漁船の動きに揺さぶられ……

 トプンッと、海に落ちてしまう。



「あぁ、劔が……『風別ツ劔』が……!!」



 セオドアが、腹から血を流しながらも劔に手を伸ばす。

 すると、沈みゆくその劔の元へ、シュプーフが泳いでゆき……




 ──ばくんっ!!




 ……と。

 劔を、飲み込んでしまった。



「なっ……シュプーフ!!」

「そんな……劔……俺の劔……!」



 セオドアの顔が絶望に染まる。

 しかしシュプーフは、一度だけ「キュウ」鳴くと……

 ……深い海の底へと、潜って行ってしまった。



「あぁ、クソ……クソォッ……!!」



 セオドアは、苦悶の表情を浮かべながらしばらくのたうち回った後に……動かなくなった。

 ゆらゆら揺れる漁船の上。意識があるのは、ブルーノただ一人となった。


 ……シュプーフに、救われた。

 船に体当たりをして、あの危険な劔を飲み込んで……儂を、助けてくれた。

 しかし、飲み込んだ劔が喉や内臓に刺されば……


 間違いなく、死に至るだろう。



「シュプーフ……シュプーフ……!!」



 海に向かって叫んでみるが、「キュウ」という返事はない。

 ブルーノはギリッと奥歯を軋ませ……

 それから、操舵室へと駆け込んだ。

 屋根は吹き飛んだが舵は残っており、幸い操縦には問題がなさそうだった。


 まだ、仲間たちを救えるかもしれない。

 早く街へ戻って、治療を……!!


 ブルーノは、後ろ髪を引かれる思いで、シュプーフが消えた波間を一瞥してから。

 全速力で、港へと漁船を走らせた。





 * * * *





 結果的に言えば。


 生き残ったのは、ブルーノとセオドアだけだった。

 仲間たちは皆、『風別ツ劔』による攻撃が致命傷となり、命を落としたのだ。


 その後、セオドアの素性が明らかになった。

 奴の名は、セオドア・ブラウ・サジタリウス。

 このオーエンズ領の……領主の、息子だった。


 次男という次期領主にはなり得ない身分に生まれたことを憂い、イシャナ狩りで鬱憤を晴らしていたのだという。

 それに用いられたのが……サジタリウス家に代々伝わる秘められた家宝・『風別ツ劔』。

 サジタリウス家はこの伝説の劔を所有していたことで、(いにしえ)の時代より権力を保持していたのだそうだ。


 イシャナ狩りに興じていたことも、それに『風別ツ劔』を用いていたことも、現領主であるセオドアの父は知っていた。

 知った上で、黙認していたのだ。

 次子として生まれてしまったばかりに、闇を抱えることになった我が子への可愛さと、罪悪感が為に……


 そして、あろうことかサジタリウス家は、この件を隠蔽しようと徹底的な根回しを始めた。

『領主の息子が起こした殺人事件』ではなく、『海賊と漁師による不運な衝突』として、事件を闇に葬ったのだ。

 当然、ブルーノはそれを許さなかった。しかし、いくら真実を訴えようとも、伝説の劔による事件など誰も信じてはくれず……仲間を失ったことで心神喪失しているのだろうと、憐れみの目を向けられるのみだった。



 そうして、数週間が経った(のち)

 セオドアが死んだとの一報が入った。

 あの時、腹に槍が刺さったことで生死の境を彷徨っていると聞いていたが……最後は気が狂って自害したらしい。

 奴の死について、サジタリウス家から責められることはなかったが、真実については口を噤むようにと念押しされた。



 仲間を失い、シュプーフを失い、憎悪をぶつける相手すら失い。

 茫然自失となったブルーノは、久しぶりに海辺へと足を運んだ。

 今回のことがあって、海に近付くことすら怖くなっていたが……ふと何かに呼ばれるように、「行ってみよう」と思い立ったのだ。


 港から眺める、いつもと変わらない海。

 あの時、一体どうすれば良かったのか。

 何が正解だったのか。

 どこから、間違ったのか。

 考えれば考える程、わからなくなって。


 どうして自分だけが生き残ってしまったのか……これからどうやって生きてゆけばいいのか、わからなくなってしまって。


 その答えが見つかるはずもないのに、ブルーノは。

 寄せては返す青い波を、ただ静かに眺めていた。





 ………その時。




「…………キュウゥ」




 潮風に乗って。

 あの、甘えるような声が、聞こえた気がした。


 ブルーノは慌てて堤防から身を乗り出し、海を見回す。

 きっと、空耳だ。愚かな願望が生み出した、幻聴だ。

 そう思っているのに、ブルーノはどうしてもその影を探さずにはいられなかった。


 そして。


 ブルーノが見つめる、その先に。

 ……遠くの沖合いの波間に、ひょこっと現れたまぁるい頭を見つけた。


 あの傷。あの瞳。

 間違いない。あれは……




「……シュプーフ……!!」




 瞬間、ブルーノは海に飛び込んでいた。

 服が水を吸い、重くなるのも気にせず、ひたすらに泳いで。

 するとシュプーフの方も、ブルーノの元へ近付いてきて……

 ブルーノを自身の鼻先に乗せるようにして、身を寄せ合った。



「シュプーフ! お前……生きていたんだな!! あんな劔を飲み込んだのに……………って」



 再会の喜びを噛みしめたブルーノは、ふとある変化に気がつく。



「お前……少し見ない間に、デカくなったか?」



 そう。間近で眺めるシュプーフの身体は、数週間前に比べ一回り以上大きくなっていたのだ。

 確かに、イシャナという魚は成長すれば二十メートル以上にもなる。このくらいの成長スピードでも、おかしくはないのかもしれないが……



「……とにかく、シュプーフ。口の中を見せてみろ。劔はもう吐き出したのか? 傷は残っていないか?」



 ブルーノが口先をさすりながら言うと、シュプーフは大人しく口をパカッと開ける。

 すると……



「こっ、これは……!」



 シュプーフの、赤黒い喉の奥に。

 ……劔が、深々と突き刺さったままだった。


 しかし、そこから出血しているわけでもなく、また炎症を起こしている様子もない。

 まるで最初からそこに刺さっていたかのように自然と、シュプーフの柔らかな粘膜に馴染んでいるのだ。


 まさか、まだ体内に劔が残っているとは思わなかったが……シュプーフの成長具合を見るに、しっかりとエサは食べられているようだ。

 これは、たまたま刺さり所がよかったのか……? いや、いずれにせよこのままではまずい。シュプーフの身体に影響を与えないわけがないし、何よりサジタリウス家が取り戻しに来るかもしれない。

 そうなったら……今度こそ、シュプーフまで失うことになる。


 ブルーノは、グッと拳を握りしめると、



「……シュプーフ、ここだと誰かに見つかる可能性がある。儂の"秘密の隠れ家"へ行こう。そこで、劔を抜いてやるからな」



 そう、優しく言い聞かせると。

 シュプーフのヒレに捕まって、『秘密の隠れ家』を目指した──




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[良い点] 潮騒のキヲク1~3読みました。 1でエリスは「んむ~」とか「ふふん」としか言ってねぇ! でも、それを完璧に訳すクレア。 もうこの二人、結婚しちゃえよと思いました。 2~3の回想&説明回…
[良い点] まさか戦闘シーンがくるとは。 ほんとにハラハラする戦闘ばかりで面白いです! なんで壊そうとしてるのかは解けてませんね。 更新待ってます! [一言] ↓申し訳ありませんでした。 カタカナを適…
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