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みんなのために、誘拐を  作者: 潜水艦7号
3/5

論理思考

高槻修三が家に着いたのは、次の日の朝だった。家には堂上と名乗った警部が独り陣取っていて、時折電話でやりとりをする他には居間のソファーでタバコの煙をくゆらせているだけだった。

「う、ううん!」

修三は堂上の前に立って咳払いをした。

「・・失礼だが・・教育上よくないので、ウチでは誰もタバコを吸わんのです。あまり吸われると匂いが部屋につきますので、出来れば庭でお願いしたいのですが。」

「あぁ、こりゃどうも。気のつきませんことで。」

堂上はタバコの火をもみ消した。

「ところで、・・肝心の捜査の方はどうなっているのですか?先ほどからずっとそのままのようにお見受けしますが。」

疑いの目を向ける修三に、堂上は“我関せず”といった姿勢だった。

「いや、ご心配なく。これでも捜査の方はかなり進んでいます。はい。ご心配でしょうから、今までの処をまとめてお話しましょうか?あぁ、例の犯人が用意をしろと言ってきた携帯だけは注意しておいてくださいね。何時連絡が入るかわかりませんから。・・で、ですね。まず、犯人ですが宅配業者を装ってきたものと見ています。何で判るかって?いや、別に連れ去れた目撃情報とかは無いです。いやね、住み込みの・・ハルさんでしたっけ、彼女が言うには門が、ですね。20cmばかり開いていたそうなんで。この寸法、結構重要でしてね。何故かというと子供を抱いて出るには狭すぎるんです。はい。特にこうゆう場合、犯人もあせってたでしょうしね。と、なると光一君は自分から門の外に出たと考えるのが自然です。20cmなら丁度その位です。・・しかし、無用心ですよね?何故でしょうか?一つは犯人か゛顔見知りだった可能性。こりゃ私はかなり低いと見ています。何故なら、顔みしりなら、もっと自然に車に乗せられるからです。理由はどうにでもなりますしね。その場合は几帳面な性格だという光一君はきっと、門をちゃんと閉めたと思うんですよ。ハルさんも、そこがヘンに思ったと言ってましたし。と、なると光一君は全くの他人に対して門を開け、自分から外に出たことになる。・・宅配の荷物か何かを装った、と考えるのが最も自然でないでしょうか?・・そう考えましてね、部下にその辺を当たらせてみましたら、不審な大型ワンボックスを見たという情報が2件あったんですよ。宅配業者のような装飾がしてあって・・何か動物の絵、タヌキだか、モグラだかの絵が描いてあったそうです。こんな住宅街に大型ワンボックスの宅配ってのも妙なんで、付近の業者を片っ端から当たらせましたが、該当するような業者はいませんでした。つまり、そいつが犯人の車だと、私は断定しています。」

「で、では、その派手な柄のワンボックスさえ、抑えれば・・。」

息を呑む修三を手で制するようにして堂上は続けた。

「まぁ、まぁ・・そう焦りませんで・・。まだ続きがあるんで・・。いくらなんでもタヌキの柄の大型ワンボックスなんぞ、目立ってしょうがない、でしょ?私は、犯行後に何処かで偽装をやり直しているのでは、と見ました。そこで・・この先の神社の隣にコイン洗車がありますよね?あそこの排水口をウチの鑑識に調べさせたら、案の定、水性塗料が検出されましたよ。つまり、タヌキだかモグラだかの柄はすでに洗い流されているという訳です。ですから怪しいのは無地の車なんです。・・目撃されたワンボックスは商用車に多いヤツでしてね。特に無地が一番多い。・・始末におえないですよ。犯人はそれなりに周到に計画を練ってると言えるでしょうね。」

まったく・・頼りになるか、ならないのか・・修三は心の中でため息を一つ、ついた。

「・・では、犯人は簡単にはシッポをつかませないと、こうゆう事ですかな?」

「いえ、・・私が言いたいのはその逆でして・・。」

「と、言うと?」

「・・つまりね、こうゆう、事前に準備をしっかりやるタイプの犯罪者には意外と自惚れ屋さんが多いんです。つまり、警察の力を見くびる、というのか・・“自分はここまでやったのだから、絶対に捕まらない”という変な自信を持っているもんなんです。ところが、そういうヤツに限って妙にひねり過ぎていたり、又はポカってヤツがあったりしましてね。意外と足がつきやすいんですよ。例えばさっき私は犯人は宅配業者を装ってきた、と言いましたよね?いいですか、インターホンの処に立ってみてください。そこの小窓から門が良く見えるでしょ?つまり小窓から覗けばわざわざインターホンで誰が来たかを確認する必要はないんです。・・通常はね。事実、ハルさんや奥さんはここしばらくインターホンを使ったことがないそうです。しかし、身長120cmの光一君ならどうでしょう?小窓から外は見えないんです。となるとインターホンを使って外に居た犯人とやりとりをした可能性は充分にあります。そういう訳でさっき、インターホンのマイク部分を調べてもらったんです。そうしたら、誰のものかは分かりませんが・・と言っても犯人のものと私は見ていますがね・・唾液らしいものが検出されたという報告がありました。これは容疑者が捕まった際にはDNA鑑定の決め手になると見ていいと思います。こうゆう、落とし穴って結構あるんですよ。」

 「そ、そんなことで犯人のつながりが・・・。」

 修三は少し驚いた。警察って意外とやるものだな・・こりゃぁ・・自分の企みも中止するしかないか・・いや、待て、いくらなんでも自分を疑うようなマネはすまい。仮にもこちらは被害者なのだし。なんとかして警察を出し抜いてやる。

 「その他には、何か判りましたか?」

 「えぇ、まぁ、色々と・・犯人像ですが、これはもうかなり絞れてます。 まず、日本人男性であること、それほど年配者ではないこと、また極端な大柄や小柄でないこと・・個人事業主又は過去にそうであった経験があるものの可能性が高いこと、ある程度の教養があること、インターネットに詳しいこと・・などです。」

 「ど、どうしてそんな詳しいことが?事件発生からまだ・・」

 修三は時計を見た。

 「20時間しか経ってない・・・」

 「はは、それが現代警察の力量ですな。まぁ、バラしてしまいますとね、まず、その指定されたアドレスですがね、それはフリーメールのアドレスです。ですから、本人確認なんてあって無きが如しなのですが、メールを管理する業者に登録した際のロク゛が残っていたんですよ。それを調べたら隣の県のマンガ喫茶から登録されていた事が判りました。・・半年前でしたがね。それから2ヶ月前にも同じ店からそのアドレスにメールの確認を入れていたことが判明しました。で、その時間に店にいた可能性のある従業員に聞いたんですが、特に目立つような人を見た覚えがないそうです。つまり、店の利用客層に合致した人物である可能性が高いのです。ですので、日本人男性で・・となった訳です。」

 「では、個人事業主、というのは?」

 「脅迫状は一般的な家庭用プリンターではなく、レーザープリンターが使用されていました。で、文字の特徴やトナーの配合を調査したところ某メーカーの業務用であることが判りました。これは割とすぐに判ったんです。しかもデジタル複合機のタイプだそうで、これが出た当時の購買層は主に個人事業主が多かったそうです。・・そんなに色々とOAを買えないからですかね。そうゆう事です。」

 「・・・す、凄いですね・・。」

 「ま、・・とりあえず犯人が何か言ってくるのを待ちましょう。・・48時間か・・長いよなぁ・・。」

 堂上は天井を見上げた。


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