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みんなのために、誘拐を  作者: 潜水艦7号
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立場逆転

隆は光一を“乗せた”後、やや離れたコイン洗車場でボディの塗装を手早く洗い流していた。そして無地の状態にしてから、幹線道路を走り、2時間ほどで山の中腹にある隠れ家に着いた。そこは昔、森林管理用の事務所だったところだが、今は誰もいない、荒れ果てた処だった。

そして、手足を縛り、猿轡をしている光一を抱き上げて中に入った。

「・・さて、着いたぞ。ここは山ン中だからな、少々大声で話したところで、他人に聞かれる心配はねぇ。だから今から猿轡だけは外してやるが、それでもギャァギャァ騒ぐようなら、・・またそれを戻すことになるからな。わかったか?」

その問いかけに光一は恐る恐る頷いたので、隆は猿轡を外した。

「・・・おじさん、ボクを殺すの?」

人質の質問に隆はフフっと笑った。恐怖は人を縛ることについてはどんなに丈夫なロープより確かに機能する。

「・・それはお前と、お前の両親の出方しだいだな。」

隆の思わせぶりな言葉に光一は再度疑問を投げかけてきた。

「無事に取引が済めば、助けてくれるって事?」

「まぁな。あくまでも、俺の気の済むような取引が成立した場合は、という事だ。」

「・・じゃぁ基本的には殺さないんだ。・・でも変だよね。だったら何故、おじさんはボクに顔を隠さないの?そんなサングラスじゃ人相丸見えだよ?」

コイツ・・人質のクセに妙に冷静なヤツだな・・隆は怪訝な顔をした。

「後で、警察にしゃべるって話、か?ま、お前の両親には一応、警察には言うなと言ってあるが、まぁ多分それは無理だろうな。表立って動かないという程度のモンだろうよ。お前を解放してから、お前が俺の人相風体をしゃべるのも結構さ。俺はお前とは縁が無いし。俺の家もこの辺りじゃぁない。後になって人相から俺に辿り着く可能性は低いと見たから、堂々と顔を出しているのさ。」

「・・ボクだったら、絶対に隠すケドなぁ・・顔・・少しでも証拠を出したくないと思うだろうし・・」

光一は何か、少し不満げな顔をした。隆の言葉に“殺されるかも”という恐怖も多少和らいだのかもしれない。

「とこで、ボクっていくらなの?」

どうやら身代金のことらしい。ま、金持ちほどケチだと言うし、あまり高いと断られる可能性もあると気にするのも当然か、と隆は思った。

「ズバリ1億だ。」

 そういうと、隆は光一の顔の前に人指し指を突き出してみせた。すると、隆の思ってもみなかったリアクションが即座に返ってきた。

「安っ!何、それっ?!」

「・・・や、安っ・・てなんだよ。」

吐き捨てるかのような、光一の言葉に隆は思わずたじろいだ。

「安いから、安いってさ。あのさぁ・・ウチってさぁ・・結構カネ持ちだよ?知ってる?高槻の家って言えば元を正せば江戸時代から続くそれなりの財閥だよ?一応。その正式な13代目の跡取りの値段がたったの1億・・・金銭感覚が違うのかなぁ・・おじさん、おカネに縁の無い生活してるんだねぇ・・。」

何で人質に同情されなきゃ、ならないのか。ため息をつく光一を前に、隆は腹が立つやら恥ずかしいやらで、歯軋りをした。

「う、うるせぇな。カネに縁がねぇからこんな事してんじゃねぇか。・・じゃぁよう、一体いくらなら、テメェの気が済むってゆうんだよ。」

「どう低く見積もっても10億の線はゆずれないね。」

どう考えても人質のセリフとは思えない言葉に隆は腰が抜けそうになった。

「じゅ、10億ぅ!馬鹿やろうっ!何処の世界に自分の身代金を法外に吊り上げる人質がいやがるっ!それでもし、払えないって話になったらオジャンじゃねぇか。俺はカネが欲しいだけで、テメェなんぞの命なんぞ取る気はさらさらねぇんだ。第一、身代金1億はすでにテメェの両親に脅迫状で伝えてある。いまさら10倍になんか上げられるかい。」

フンと横を向く隆に光一は言った。

「上げる理由なんて後からどうにでもできるじゃん。例えば身代金受け渡しをワザと一回失敗して“警察に連絡しただろう、オトシマエとして身代金は10倍だ”とか・・」

「お前なぁ・・・。」

隆は呆れて、光一の顔をまじまじと見やった。

「・・犯人の手伝いしてどうするんだよ。ま、そりゃ殺す気はないケドさ。常識としてさぁ・・」

「いいじゃん。それでおじさんが現金を沢山受け取れれば。それに、本気で手伝ってあげてもいいよ。条件次第だけどね。」

うそぶく光一を見放したかのように、隆は腰を上げた。

「やれやれ、今日日のガキはよ・・全く、可愛げのねぇ・・。手伝いなんぞいらねぇよ。これはこれで1年もかけて計画を練ってきたんだ。ガキの浅知恵なんぞに頼らなくても十分だよ。」

「おじさん、宅急便のフリしてたよね?」

立ち去ろうとする隆に光一は話題を急に変えた。

「・・それがどうした。」

「声とか、普通に聞こえたからマスクもしてなかったよね?」

「あぁそうだ。」

うっとうしげに隆が答えると光一はうれしそうな顔になった。

「じゃ、ダメだね。喋った時にインターホンに唾液が付いた筈だから、万一、参考人として事情徴収でDNA鑑定されたら、確固たる証拠になるよ。」

「・・・う・・。」

「車は?ヘンに大きなワンボックスだったような気がしたけど?足、つかない?」

「ふん!テメェに説明する義理もねぇがな。まぁいい。あれはな、何処とは言えないが田舎の土建屋の駐車場にあったのを失敬してきたんだ。ナンバーは俺の手作りだ。簡単にゃ、足はつかねぇよ。」

「ふーん。一応、考えてんだ。」

「やかましい!ガキの指図なんぞいらねぇんだよ。」

「でも、さぁ・・警察って世間で思われているより、はるかに優秀だよ?特にこうゆう営利誘拐なんかの場合、最高のスタッフと最新の科学捜査でかかってくるからさ。思ってもみない処から捕まったりするよ。さっきの唾液の話とか・・そうだなぁ・・そうそう、脅迫状を出したんだよね?そこからも色々と出るかも。例えば・・・」


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