1日だけの恋人
「ごめん、好きな人ができて…」
それは昨日のこと。
駄目元で学校一のモテ男に告白したのだ。
するとそのモテ男はいいよと言ってくれた。
ありえないと思いながらも嬉しかった。
嬉しくて嬉しくて次の日の朝は跳ねるほど喜んでいた。
友達に言おうかななんて思ったけど自慢話だと思われたら嫌だから黙っていた。
いつもは暗いねなんて言われる私も輝いていたような気がする。
しかし、放課後、帰る約束をしていたモテ男は私に「ごめん、好きな人ができちゃった☆」と言われたのだ。
初めて付き合った人との付き合った日にちはなんと1日と数時間だったのだ。
殴り倒したい気持ちもあったがそんなことをやれば嫌われると思い、「うん、わかった」なんて言ってしまった。
めんどくさい女にも思われたくないし、暴力女にも思われたくない。
モテ男にこんな別れ方をされても私はモテ男のことが好きだったのだ。
校門の前でモテ男と別れ、1人長い道を歩いていく。
心が痛くて泣いたって、イケメンが現れて私を慰めてくれるなんて少女漫画的展開は決して無いだろうと思いながら家に帰ったのだ。
家につくとすぐに自分の部屋に入り泣きながら恨み言を言った。
「呪ってやる…いや、呪われろ」
何て言いながらボスボスと枕に頭をぶつけていたのだ。
姉にうるさいと怒られるまでそんなことをしていた。
泣いた後はなぜかとてもすっきりしていてモテ男への恋心もゴミ箱に捨てた気分になった。
というよりか、「他の女の子一目惚れしちった☆今まで本気の恋とかしてなかったけどあの子のことが本気で好きになっちった☆」なんていうクソ野郎など好きになった方がおかしいような気がする。
1日でフラれた人間の気持ちも考えろ‼︎と言いたいところだ。
いつか見返してやるなんていう気持ちでベットをピョンピョンしていたら姉に蹴られた。
〈**〉
次の日の朝、学校に行かなければという使命感でルンルンと学校の準備をしていた。
そういえば、モテ男(笑)が好きになった人って隣の学校の子っていうけど誰なんだろう?
まあ、美少女なんでしょうね‼︎
あ、それならば、私も可愛くなれば見返せるかな?
そう思い、重たそうな前髪を上げる。
一応、姉は学校一の美少女なんて言われているし、姉とほとんどパーツは似通ってるから私も頑張ればいけるのだろうか?
ボサボサの髪の毛をふたつくくりにし、重たそうな前髪を横にしてピンで留める。
うん、まあまあ可愛いかもなんてナルシストの気持ちになりながら学校の準備をしていたのだ。
〈**〉
学校に着くと友達が可愛いねと言ってくれた。
嬉しいような気もするが私は見返すぐらいの美人になりたいのだ。
そんなことを言えば無駄に口の軽い友人に昨日の話を根掘り葉掘り聞かれ学校中にバラされる。
そうすれば見返す計画もバラされ挙げ句の果てみんなから可哀想な子として見られるだろう。
そんなことがあれば私は精神的に追い詰められ多分自殺しそう。
無駄に唇がテカテカとしている友人は私の気持ちなど知らず、いつもの通り人の悪口を言っている。
いつかこの唇がテカテカしている友人…長いから略してテカテカ友人は私以上の破滅の道へと噂話大好き友人に落とされるだろう。
そんなことを考えながら不気味にニコニコしている友人と悪口を言いまくっている友人を見る。
それが毎日だ。
変わったのは高校三年生の夏だっただろうか。
テカテカ友人がやっと破滅の道へと歩き出したのだ。
それからは私は噂話大好き友人とも縁を切り1人受験勉強をしたのだ。
モテ男(笑)は可愛い隣の学校の子と付き合ったとかそんな噂が流れていたのだ。
それから時は経ち、大学を卒業しある程度有名な会社に勤めて2年ほど経ったある日だった。
どうやら高校の同窓会というものがあるらしい。
高校とは打って変わって違う私の顔を見て驚く人々の顔を見て見たいななんていたずら心?が湧き同窓会に行くことにした。
その日はいつもよりも可愛くメイクを決め、最近買ったばかりの上品で綺麗なワンピースを着る。
胸の下まである黒い髪は綺麗に上の方でまとめる。
鏡の前でニタァと笑うと昔は絶対使わなかったような綺麗で小さなバッグを持つ。
みんなの顔はどうなってるのかななんて思いながら家を出た。
〈**〉
会場は結構広く私が壁の花になってもバレなさそうだった。
ラッキーと思いながら、ウロウロする。
「ん?もしかして亜樹ぃ?」
どこかで聞いたことのある声だと思い振り向くとそこには噂話大好き友人がいた。黒髪をミルクティー色に染めふわふわにしている。
天然系に見えて結構腹黒い子だ。
「えーと、凛子?」
「そうだよぉ」
間抜けそうに伸ばしているところが頭の悪さを際立たせる。
昔から変な喋り方だな疲れないのかななんて思っていたがこの噂話大好き友人話を決して変えることはしないのだろう。
噂話大好き友人と少し会話していると、前から唇が真っ赤な女の人が現れた。
多分クラスメイトだったと思われる地味そうな男子と腕を組んでこちらに歩いてくる。
「お久しぶり亜樹、凛子」
凛子の名前を呼び時に少し声が低くなってたのは気のせいだと思いたい。
「お久しぶりぃ友恵ちゃん〜」
噂話大好き友人はいつもと変わらずタレ目をニコニコさせながらテカテカ友人と喋っている。
あの破滅の道を歩いていた友人はどうやら地味なこの男子と付き合っているようだ。
テカテカ友人は真っ赤なドレスを着て耳に大きなピアスをつけている。
派手派手さは変わらないし、トゲのある美人だと思う。
2人とも微笑みながら会話しているが空気はピリピリしている。
なんだか怖いので壁の方による。
どうせ、あの友人たち以外に友人は居なかったし喋る人間もいないからな…食事を食べて壁でみんなを見るくらいしかやることが無い。
ため息を吐いた。
「大丈夫ですか?」
急に聞こえてきた声にビビり横を勢いよく向く。
隣には世間一般でイケメンと呼ばれる人がいた。
背が高く、メガネをしている。
涼しげな目元には涙ボクロがある。
うん。何だか爽やかなのに色気があって近寄りがたい…
隣にいるイケメンからは何だかいい匂いがする。
クンクンとするのは恥ずかしいので少し俯向く。
そして考える。
え?この人誰?こんなイケメン学校にいたっけ?え?え?
「あ、あの誰ですか?」
隣のイケメンはクスッと笑い
「俺のこと知らない人初めて見ました」
なんて言う。
これはあれですね。恋愛小説ものである系の…
でも、知らないから仕方ない。
イケメンでも地球中の人が知ってるなんてありえないし。
「篠原徹です」
ニッコリと綺麗に笑うイケメンは何だか爽やかすぎて目がやられそう。
こういうタイプのイケメンは漫画とか小説とかで鬼畜やドSですよ。
私、ノーマルなんで。
「あ、さいですか、私は北中亜樹です」
可愛らしくニコッと笑う。
腹の探り合…ゴホン、会話をしていると前に茶髪の青年が通った。
そいつの顔を見てハッとする。
こいつモテ男(笑)だ!!
茶髪の青年は私の顔を見て不思議そうにしている。
篠原さんに失礼しますと言いそいつの方に歩いていく。
「もしかして悠人君?」
びっくりしたような顔でこちらを向く。
一言も喋らせない気持ちで久しぶりなんて言ってみる。
モテ男(笑)は私をジロジロと見た後ニコリと笑い可愛いねなんて言ってくる。
そりゃ可愛くしましたからね。
そんなこと口に出せばすぐに私が誰かとわかるのでは?と思いありがとうなんて言う。
ネットで見た男の落とし方の通りにやってみる。
まるでモテ男(笑)に好意があるように。
〈**〉
「ねぇ、付き合ってくれない」
そう上から目線で言われたのは同窓会から約一カ月後。
私はニタリと笑い。
「ねぇ、私のこと覚えてる?」
そう言うとモテ男(笑)はえ?と言い綺麗な二重の目を丸くする。
「覚えてないよねぇ…北中亜樹の名前すらも覚えてないもんね…私はあんたに1日でフラれた北中亜樹だよ」
ニコッと可愛く微笑む。
モテ男は嘘だろと言いながら謝ってくる。
「ごめん…じゃあ、今度はちゃんと付き合うから!」
イラっとしたので私はニコッと笑い
「1日だけなら付き合ってあげる」