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レエンカルナシオンの悪夢  作者: 黒疾くろと
7/20

7.孤児院

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変わってなかったら、ツイッターでもなんでも良いので、教えてください!


黒疾

@kiroto0131

 さて、これで私の身の回りに頼れる人物がいなくなったわけだが。


 1人の修道女に受け渡され、部屋を出た。廊下を歩く間、その修道女は終始無言だった。

 少し歩いていると、やがて中庭に出た。奥に建物が見える。

 中庭には、青々とした樹木が立ち、その周りに様々な色の花や、低木の果実が実っていた。見とれていると、孤児院と思われる建物の前に差し掛かる。

 優しそうな老婆が笑顔で出迎えてくれた。

「ここが今日からのあなたのお家、聖レプレナ孤児院ですよ。」

「エレンです。これからよろしくお願いします。」

 この教会は、礼拝堂と修道院が繋がっていて、中庭を挟んで孤児院が建てられているようだ。

「アリア先生、お願いします。」

 そこで初めて、私を案内していた修道女が口を開いた。そして足早に去って行った。それを見ていたら、

「ふふふ、あの子もここの出身なのよ。小さい頃から無口でねぇ、大人しいけど、優しい子だったわ。」

「そうなんですか。」

「あら、つい余計な事を話してしまったわ。私がここ、聖レプレナ孤児院の院長のアリアよ。みんなからはアリア先生って呼ばれてるわ。エレン、よろしくね。」

「よろしくお願いします、アリア先生。」

「ここで話すのも何だし、孤児院の中を案内するわ。」

 そう言うと、アリア先生は扉を開けて、建物の中に私を招き入れた。

 建物の中は、大きな窓があって、明るかった。アリア先生に付いて歩く。

「ここには、0歳から15歳までの子供たちが住んでいてね、6歳から、街の学園に通い始めるのよ。もう直ぐ帰ってくると思うわ。」

 廊下を歩きながら、アリア先生は説明してくれた。

「ここが調理室で、その隣が食堂。朝昼晩、みんなここで食事を摂るわ。毎日3時におやつが出るのよ。」

 ふふふ、と笑って言った。

 食堂の中では、学園にまだ行ってないのだろう、5歳以下と思われる子供たちがドーナツを食べていた。

 中にいた別の先生が、こちらに気付いて手を振ると、子供たちの視線が一気に私に釘付けとなった。

「ぅっ………」

 何だか目眩がして、倒れないよう踏ん張っていると、アリア先生が再び歩き出した。

 私は慌ててそれについて行く。階段を上って二階へ。

「ここが、みんなの寝るところよ。」

 そこは、ずっと廊下が続いていて、その両脇に沢山の扉があった。

「ついて来て。あなたの部屋に案内するわ。」

 廊下を進む。廊下の突き当たりにも階段があった。右側の一番端の扉の前で止まった。

「ここよ。108(イチマルハチ)号室。」

 その扉には、金色の文字で、『108』と彫られていた。

 アリア先生が扉を開けた。

 そこには、2段ベッドが2つと、窓際に並んだ2つの長机。椅子は4つあったが、すべての椅子の前の机には荷物や小物が置かれている。

 気になって、そこを見ていると、苦笑しながらアリア先生が言った。

「あぁ、あれね。ユリアが帰ってきたら片付けさせるわ。それまで我慢してちょうだいね。」

「ごめんなさいね」と言いながら、部屋の中に入った。

「これがあなたのベッド。今は布団は干してあるわ。」

 左側の下の段が私のベッドだ。やはり、子供には上の段が人気なのだろう。

「ありがとうございます。」

「いいえ。じゃあ次の部屋に案内するわね。」

 部屋から出て、突き当たりにあった階段を降りた。再び廊下を歩き始める。

「ここが職員室。何かあったらいつでもここに来てちょうだい。先生たちが必ず1人はいるわ。」

「で、その隣が院長室。私の部屋よ。ふふふ。」


「ここがお風呂。お風呂は部屋ごとに時間が決まってるわ。トイレはその隣よ。」


「こっちが野外運動場。渡り廊下を通った建物は、屋内運動場。」

 そこからは外になっていて、野外運動には遊具があり、屋内運動場を少し覗くと、ステージもあった。

「随分豪華ですね。」

「ふふふ、そうでしょう?教会からお金が出てるからね。これも女神ソフィス様のおかげよ。だから、ここにいる間は、毎日おやつだって食べれるのよ。ふふふ。」

「そうなんですか。すごいですね。」

 アリア先生はまた、「ふふふ」と笑って歩き始めた。


「この扉は何ですか?」

 廊下の途中で、壁の色が違うところがあった。他よりもその周りだけ薄汚れている。

 扉の番号が彫られていただろう場所は、不自然に削り取られていた。

「な、なんでここが?」

 あ、これはこの扉なんかあるな。

「いえ、ここだけ番号が削られてたので、少し気になっただけです。」

「そ、そう。ここは昔使ってた部屋よ。確か倉庫だったんだけど、鍵を無くしてしまってねぇ。入れなくなってしまったんだよ。」

 また、「ふふふ」と笑っていった。

「そうなんですか。」

 それにしても不自然だ。部屋自体が、不自然な(オーラ)を放っているようだ。

「こんなことよりも、ちょっとついて来てちょうだい。」

 そうして、アリア先生は部屋の前から逃げるように去った。慌ててそれについて行く。

 先生が職員室に入った。入り口で私が止まると、中からアリア先生が手招きしたので、「失礼します」とつぶやいて中に入った。

 アリア先生は、棚の前に座り、引き出しの中を何かを探している……何かを取ると、立ち上がり、振り返って、私にそれを手渡した。

「ここの制服よ。制服って言っても、着るのは、毎週日曜日と女神教のお祭りの時だけだけどね。貴女には少し大きいと思うわ。明後日には、貴女用のちゃんとしたのが届くから、それまで持っていてちょうだい。」

「ありがとうございます。」

 それは深い緑色のローブだった。

「あと、こっちは普段着と下着ね。」

 たたまれた服は、白色と桃色のもの。薄い紫色のものもあった。

「ありがとうございます。」


「それとその剣は預かるわ。」

「ダメです」

 アリア先生が私の腰の短剣を見て言った。それに私は、反射的に反抗してしまった。

 この剣は凶器足り得る。子供達の安全を守るのも、ここの人たちの仕事だと言うのに。

 それを、理解していたのに。

「どうして?ここはもう安全よ?それが必要無いくらい。」

 この剣だけは。

「いえ、私にはこれが必要なのです。」

 誰にも渡しなくない。

「どうして?その剣は、人を傷つけるだけよ。」

 この剣は。

「この剣は、森の中で、私を守ってくれたからです。」

 私を守ってくれる。

「ここでは私達が、みんながあなたのことを守ってくれるわ。」

「何があっても、ですか?」

「何があってもよ。」

 嘘つき。

 どうしても、信用できない。

「………………」

「………………」

「……………ふふっ」

「な、何がおかしいの?」



 笑えるなぁ〜。どこまでも楽観的なこいつの思考。脳みそが調味料の味噌でできているのかなぁ?


「いえ、失礼しました。私を守ってくれる人が、こんなにもいたのに、それを知らなかったなんて。」

「あなたを守る人は、いっぱいいるわ。もう、その剣は要らないのよ。」

「わかっています……でも、私は臆病なもので。この剣が側に無いと、夜も眠れないのです。」

「そ、そう。でも「ごめんなさい。……私の大切な、心の拠り所なのです。宝物なのです。私の身を初めて守ってくれたこの剣を、どうか取らないでください。お願いします……!」

 アリア先生をジッと見つめた。すると、ため息をついて言った。

「………わかったわ。ただし、その剣は、この家では絶対に鞘から抜かないことを約束して。あと、他の子にも絶対に見せちゃダメよ。」

「ありがとうございます!約束します!」

「……それと、そんなかしこまった喋り方しないでちょうだい。ここではもう、私達は家族なんだから。」

「わかりました……じゃなくて、わかった…?」

「ふふふ、その調子よ。それとこれは私からのプレゼント。」

 そう言って、アリア先生が手渡したのは、小さな木箱。開けてみると、歯ブラシ、櫛、ハンドタオルなどの小物の他、ペンとノートも入っていて、それでも少しスペースが余っていた。斜めにすれば短剣も入りそうだ。

「ありがとうございます。」

「じゃなくて?」

「あっ、ありがとう。」

「ふふふ、どういたしまして。」


 すると、廊下の方が少し騒がしくなってきた。

「そろそろ子供たちが学園から帰ってくる頃と思うわ。夕食の時に、貴女を紹介するから、ちょっとこっちで待っててちょうだい。ついでに入院手続きを済ませちゃいましょ。」

 そう言われ招かれたのは、先程「院長室」と呼ばれていた部屋。黒くて重厚感のある木の床で、決して豪華ではないが、落ち着いた雰囲気だった。壁には、歴代の院長と思われる肖像画がこちらを見下ろしていた。

 ふかふかのソファーに座らされ、テーブルを挟んで正面にアリア先生が紙とペンを持って座った。用紙に次々と私の事が書き込まれていく。

「名前は、『エレン』ね。出身はわかる?」

「分からない。」

「わかったわ。じゃあ、ここの孤児院が貴女の出身地よ。」

「誕生日と年齢はわかる?」

「どっちも分からない……けどカレンには10歳くらいって言われた…。」

「カレン?一体誰?」

「一緒にここにきた冒険者さん。」

「あぁ、なるほどね。ごめんなさいね、わからなかったのよ。」

 アリア先生が、「誰?」と言われ不快な表情を見せた私に言った。

「誕生日は……今日ここに来たから、今日でいいかしら?」

「良い。」

「じゃあ貴女は10年前の……陽暦5515年5月20日生まれね。年齢は10歳。」

 今日は5525年5月20日らしい。という事は、私がこの世界で目覚めたのは5月19日か。

「食べられないものはある?」

「特に無い。」

「どこか悪いところは?」

「無い。」

「はい、書き終わったわ。何か他に、質問はある?」

「えっと……」

 質問。質問……。

「その、ステータス、とかって、見る機会はあるの?」

「ステータス?15歳の時に、孤児院を巣立つ時に、みんなで見るわ。」

「そうなんだ。とっても楽しみ。」

 5年後か。それまでにここを出る必要があるな。……まぁ、そんな事はその時になったら考えれば良いだろう。

 今は、ここで如何に目立つ事なく生活するか、だ。

 ……さっきの扉と短剣のせいで院長に注目されたのはなかった事にしたい。

「そろそろ食堂に行きましょう。きっとみんなもう揃ってるわ。」

「うん。」


 ________________


 三人称視点。


 食堂には、もう子供達が配膳を終え、椅子に座っていた。

 その中の一つのテーブルに、座っている人数より一つ多く配膳されている事を除けば、いつも通りの夕食だ。

「みんなに新しい家族を紹介するわ。」

 食堂に騒めく。「男の子かな?」「女の子かもよ?」「何歳だろう。」

「静かに!」

 水を打ったように静まり返った……

「さ、エレン、入って?」

 そして、先生が立っている側の出入り口から歩いてきたのは、10歳くらいの、少女だった。

 ここでは珍しい、黒髪に黒目。その濡れた硝子玉のような瞳が、子供たちを見る。

「さぁエレン、みんなに自己紹介よ。」

「私はエレン。年は10歳。これから、よろしく。」

 少女は可愛らしく礼をした。

「うんうん。ありがとね。それじゃあ、あそこの空いてる席に座ってちょうだい。」

 指を差してそう言った。食堂には空席は他にもあるのだが、ただ一つ、食事の用意がされた空席。

 少女はそこに座った。

「美味しくて栄養のある食事を与えてくださる、たくさんの生命いのちに感謝して、今日を元気に生きられた事を感謝して。」

「「「「「いただきます」」」」」

 その合図で、子供達は思い思いに、エレンに話しかけた。


 ________________


 再びエル視点。


 席について、いただきますの号令をした瞬間、子供たちの質問責めにあった。

「好きな食べ物は?」「好きな動物は?」「なんで髪と目が黒いの?」…etc……


 しばらくして、私がおろおろしている様子を見てみんな落ち着いたようだ。

 とは言っても、リーダー格っぽい男の子が喧騒を静めてくれたのだが。

「ちょっとお前ら1人ずつ質問しろよ!」

「……えっと、ありがと」


 そのあと質問を受けたのだが、ほとんどの答えが「分からない」になってしまった。

 ただ、誰一人「どこから来たの?」とは聞いてこなかった。

この孤児院は、「聖レプレナ孤児院」と言います。「レプレナ」とは、子供を守る神様(という設定)です。

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