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レエンカルナシオンの悪夢  作者: 黒疾くろと
3/20

3.身分証

 街道をさらに歩く。

「ねぇオズー、疲れたよー、街まであとどんくらいー?」

「一番近いアルマフルカまではあと30分くらいかな。あとちょっとだ…」

「30分⁉︎長いよう…」

 日は既に高く昇り、涼しい夜とは違い、太陽が真上から照りつける。正直私も、疲れを感じてきた。

「カレンさん、私、持つ。」

 カレンの持つ食料の入った袋に手を掛けて言った。

「良いの⁉︎わーいありがとう!」

「ルナ、無理すんなよ。」

「大丈夫。」

 袋を受け取り、歩く。

 しばらく歩くと、川の向こうに街が見えてきた。石垣に囲まれた街だ。門の前には建物が建っていて、そこに馬車が停まっていて、少しして街の中へと入っていった。

「カレン、あれだ。」

「やっと着いたぁぁ…」

 橋を渡り、我々も建物の前に差し掛かる。

 窓からシブいおじさんが、こちらに話しかけてきた。

「こんにちは。ようこそアルマフルカへ。身分証のご提示を。」

 門番っぽいその人がそう言うと、オズ達が何やらカードを見せていった。

「冒険者のオスカーだ。」

「冒険者のカレンよ。」

「冒険者のクラウス。」

 どうしよう。これは私も名乗るべきなのだろうか。

「ルナです。」

「お嬢ちゃん。身分証は持ってるかい?」

「持ってない」と答えようとしたら、

「この子は森で保護者とはぐれたようで。ウルフに襲われていたとろを助けたんだ。」

 すかさずオズが答えた。

「そん時に無くしたってか。大変だったなぁ。10ルチルで仮の身分証を発行出来るぜ。」

「それで頼む。」

 オズが鞄の袋から銀貨1枚を取り出して渡した。

「あいよ。いま渡すからちょっと待ってな。………これが仮の身分証だ。」

 窓越しに木の札を受け取った。『アルマフルカ』の文字と木をモチーフにしたと思われる紋章、0131の数字が刻まれている。

「ありがとう。」

「おう。それは、昔のを探し出すか、新しい身分証が出来たら、ここまで返してくれ。それじゃ、行ってらっしゃい。」

 門を通って街に入った。レンガの建物が並んだ、綺麗な街並みだった。

 歩きながら、オズにお礼を言う。

「オズさん、ありがとう。」

 銀貨を払ってくれた事と、私の為に嘘を吐いてくれた事と、二つの意味を込めて呟いた。

「良いって良いって。」

「なあオズ、何で嘘をついたんだ?」

「記憶を無くした子供を拾った、なんて言ったら検問所行き確定だろ。早く休みたいし。今日の門番が顔見知りで助かったぜ。」

 オズは私に気を使ってくれている。

 恐らく、私が男二人を殺して脱出した事を勘づいているのだろう。

「確かにそうだな。」

「ねぇルナちゃん、ここから行くあてとかあるの?」

「…無い。」

「だよねー。それなら私達と一緒に行かない?」

「一緒に行く」とは、これからも共に旅を続けるということだろうか。それでも別に良いが、何も出来ない今の私ではこの人達のお荷物になることは目に見えている。それはごめんだ。

「いやいや、カレン。ルナが困ってるだろ。」

「今後の事はあとで考えよう。とりあえず、ルナの身分証を発行しに行こう。冒険者ギルドに登録すれば、ギルドカードが身分証の代わりになる。」

「一番手っ取り早いしな。」

 そう言われ、『冒険者ギルド』という看板の立てられた建物へと連れられた。

 その建物は古いレンガ作りで、三階建てだろうか。街の中でもひときわ大きい建物だった。

 冒険者ギルドというのだから、荒くれ者共が居そうな酒場をイメージしていたのだが、実際に建物の内部に入ると、正面に広いスペースと、その奥にたくさんカウンターが並んでいた。意外にも落ち着いた雰囲気だった。

 まだ昼間だからだろうか。人は少ない。

「よし、じゃあ俺とクラウスはあっちで依頼の報告とアイテムの売却をしてくる。カレンはルナの冒険者登録を頼んだ。」

「了解!」

 オズとクラウスが荷物を持って、『依頼の報告』の札の掛かったカウンターへと歩いて行った。

「ルナちゃん、こっちだよ。」

 私もカレンの後についていく。『冒険者登録』と書かれたカウンターの前でカレンが言った。

「この子の冒険者登録をよろしくお願いします。」

 受付嬢は私を見て少し驚きを見せたが、すぐに平静を装って説明を開始した。

「承知しました。冒険者登録ですね。冒険者についての説明は必要ですか?」

 折角だし、聞いておこう。

「お願いします。」

「冒険者ギルドは、国を超えた組織です。

冒険者とは、街の人達の依頼をこなしたり、ダンジョンや遺跡を攻略したりする者の事です。魔物と戦う事も多くあるので、危険な仕事ですが、報酬が多いので、人気のある仕事でもあります。

依頼は、あそこの掲示板の紙をカウンターへ持って行く事で受けられます。

ここの隣のカウンターでは、ステータスの特徴や使う武器、技の適正で職業を決めることが出来ます。職業が決まると、その職業ごとの訓練や、研修を受けることもできます。

冒険者には戦闘力の高さごとにランクが付けられ、それぞれの依頼にも適正ランクがあります。

ランクは全部で9つに分けられていて、下からG、F、E、D、C、B、B+、A、そして最高ランクのSランク。最初はGランクからのスタートとなります。

冒険者のランクは、試験を合格すればあげる事ができます。登録時に試験を受けることも可能です。どういたしますか?」

「身分証が目的なので、登録だけでお願いします。」

「はい。それではこちらへ。」

 カウンターの脇の椅子に案内された。椅子に座ると、受付嬢が紙とペンを持ってきた。

「書けるところだけで良いですよ。」

 紙には、名前、生年月日と年齢、職業、ランクの欄があり、ランクのところにだけ『G』とかかれていた。

 名前…は、本当の名前は分からないけど、名前が無かったらきっと変だし。『ルナ』と書いとこう。

 生年月日。分からないから良いや。

 年齢……

「カレンさん、私、いくつに見えますか?」

「えっ、10歳くらい?」

「そうですか。ありがとうございます…」

 紙に『10』と書き込んだ。自分の姿を鏡で見たくなった。

 なぜか微笑ましく見守る、受付嬢の視線が気になるが。

 職業は、無いから書かない。

「書けました。」

「はい。お疲れ様です。カードを作るので、それまでの間、ここでお待ち下さい。」

 受付嬢が紙を持ってどこかへ行った。

「カレンさん、あんなに空欄があって身分証になるの?」

「なるわよ。冒険者はよくわからない奴とか変な奴もいるから、空欄があっても作れるように、最後に自分の魔力を込めて仕上げられるの。魔力の波長は一人ひとり違うからね。」

「へぇ。……あれは何?」

 カウンターと反対側、入り口の方の壁に並んでいる水晶を指差して言った。

「ああ、あれは魔水晶っていって、あれに触れると自分のステータスが見れるのよ。」

「ステータスって?」

「体力と魔力量、筋力、魔力、抵抗力、持久力、瞬発力を数字で表した物よ。確か大人の人間の平均を200として作られてるわ。他にもスキルっていう、その人のもつ技とか技術もあるわ。」

「見てみたい。」

「そうね。終わったら行ってみよう。」

 そこへ、オズとクラウスが戻って来た。

「どうだ?出来たか?」

「今作ってるっぽいわ。で、いくらになったの?」

「今回の報酬が100ルチル、フォレストウルフの皮と牙で、それぞれ30ルチルが二匹。ジャッカロープが皮と角で10と50。ヒトクイバナが80になったぜ。…オズ、合計いくら?」

「銀貨36枚。360ルチルだ。」

「お、結構儲かったね。」

 すると、さっきの受付嬢が小さく薄い金属のプレートを持ってきた。

「お待たせしました。では、これを握ってください。良いと言うまで握っていてくださいね。」

 言われるままにカードとを導線で繋がれた玉を握った。

 すると、身体の中で巡る何かが、握っている腕に集まるのを感じた。

 その瞬間、カードが火花を散らした。

「うわぁ!」

 カードは更に火花を散らしている。

「もう良いです!放して下さい!」

 手を離すと、火花は収まったが、赤銅(アカガネ)色だったカードは、火花の熱のせいか、くすんだ黒色へと変色してしまっていた。導線も焼き切れてしまっている。

 オズ達と受付嬢は石のように固まったままカードを見つめていた。只ならぬ雰囲気だ。備品を壊してしまったので、謝っておこう。

「あの「おい、まじかよ……あんなの初めて見たぜ。」

「なんだあの光…」

 今まで我々を気にも止めなかった、同じ空間にいた冒険者達の声が耳に入った。

 なんとなく気まずい。

「ルナ、怪我は無いか⁉︎」

「無い。それよりも、導線が……」

「えっと……装置の不具合かしら。」

 こちらの騒動を見て、慌てた様子でギルドの職員らしき人が走って来た。

「吐き気や目眩があれば、すぐに休んで下さい!魔力切れは命に関わります!」

 今のところ気分は悪く無い。私は元気だ。

「問題無い。…あの、これ、すみませんでした…」

 導線を指差して言う。

「これは大丈夫だ。気にしないでくれ。魔力伝導の不具合の可能性があるな。過剰に魔力が込められてしまったようだ。もし気分が悪くなったら、すぐに教会かここに来るように。魔力切れは命に関わるからな。」

 そう言って、ギルド職員は持ち場へ戻っていった。

 どうやら、さっきの握ったのが身分証に「身分証に魔力を込める」という事らしい。

「おい、ルナのカードはどうなった?」

 オズが聞いた。

「えっと…変色しましたが、問題ありません。身分証として十分に機能すると思います。」

「良かった。」

「後日、魔力伝導装置が直ったら作り直しますか?」

「ルナ、どうする?」

「このままで良い。」

「わかりました。こちらがルナ様の冒険者ギルドカードです。無くされませんよう、大切にお持ち下さい。」

 黒色のカードを受け取る。

「ありがとう。」

『G』と大きく彫られているカードは、火花の熱で、まだ少し温かかった。

 カウンターから離れると、まわりにいた冒険者がこちらを見ていた。しかし気にせずオズが話し出す。

「手で持っていて無くすと困るから俺が持ってよう。」

「お願い。」

 そう言って、オズにカードを渡した。

この世界のお金の単位は「ルチル」。

100万ルチルで1ルチルクォーツと言うよ。

銅貨→1ルチル

銀貨→10ルチル

金貨→1000ルチル

白金貨→10000ルチル

太陽貨→100万ルチル、1ルチルクォーツ

太陽水晶貨→1億ルチル、100ルチルクォーツ

太陽貨は、平民なら一生のうちに見れたら凄いレベル。

太陽水晶貨は一般に出回らず、国家予算とか、大量のお金を動かす時に使われます。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


フォレストウルフ

通称「ウルフ」。森に住む狼。

5匹から10匹程の群れで暮らす。ごく稀に1匹狼がいる。


ジャッカロープ

ルナさんの言う「角うさぎ」。

角の生えたうさぎ。


ヒトクイバナ

「パックンフラ(ry」みたいな植物。割とどこにでもいるけど、見つけるのが困難な為と、草の液がポーションの材料になる為、素材が高価で取引される。

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