1.旅立ち
『君は少しやり過ぎた』
頭の中に響く『音』
『僕の世界を、散々荒らしてくれたねぇ。』
頭が痛い。
『でも僕さぁ、ちょっと君に興味を持ったんだ。』
『音』は鳴り続ける。
『本来なら許されない事をしたわけだし、普通なら輪廻の輪から外されるところなんだけどさぁ。僕の気まぐれで、ちょっとだけ特別な形で転生をさせてあげるよ。感謝してね。』
眠い…頭も痛い…
意識も朧げになってきた…
『僕を楽しませてくれよ?そいじゃ、がんばってねぇー。』
『音』が聞こえなくなった。
眠いし、もうなんだっていいや…
崩れて散る意識に身を任せた。
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ガタン、という強い揺れで、意識が戻った。
男の話し声が聞こえてきた。
「…ところでダグ、まさか森ん中で女が拾えるとはなぁ。幸運だな。」
「おう相棒。今日はついてるぜ。」
「まだ子供だが、こんな上もんなら、高い値がつくぜ。ちょっとくらい味見したって大して値は落ちないだろ。」
「おう、やるか?」
「お頭に怒られるだろうが、まあいいと思うぜ?その辺に停めるぞ。」
自分は今、硬い床に横になっていて、その床が小刻みに揺れているのが分かる。馬車の中にでもいるのだろうか。
目を少し開けて、周りの様子を確認しようとした。
しかし、体を包むように布がかけられているようだ。手と足が縛られていて、口には布が噛ませられ、取れないよう後ろで縛られている。声をあげ助けを呼べないようにする為だろうか。
とりあえず、今私は身動きを取れない状況にある。
揺れが止まった。今自分は、どこにいるのだろう。
不意に、人が近づいてくる気配がした。すると、布が剥がされ、目の前に二人の男がいた。
「おう、嬢ちゃん、目が覚めたかい?」
「グヘヘへ。何度見ても可愛いねえ。おじさん達が可愛がってあげるよぉ。」
「馬鹿か。怖がらせてどうすんだ、そんな趣味でもあんのか?」
『女』とは、私の事だったのか。
私は起こされて、足の縄が外された。身に纏っていたワンピースのスカートがたくし上げられる。
思わず、目の前に立つ男の股間を蹴り上げた。男は膝を折り倒れ込み、悶絶している。
もう一人の男は唖然として立ち尽くしている。
「ふんっ」
その男の顎に、思いっきり頭突きを食らわす。もう一人の男も倒れこんだ。頭が痛い……頭突きのせいで。
「なんだ、この女ぁ…」
最初に蹴った男は、まだ動けるようだ。
「グァッ」
溝に蹴りを入れる。胃液を吐いて気絶した。どうやら、頭突きされた男も気絶していたようだった。
こいつらはいつ目が覚めるかわからない。
後ろで縛られていた手をねじって縄を緩めて抜いた。こいつらの縛り方が甘かったのが幸運だったな。
自由になった手で口の布も外して、周りの様子を改めて確認する。どうやらここは荷馬車の中のようだ。荷物は少ない。木箱と、縄の束とその他諸々……そして男が倒れている。片方の男の腰に短剣を発見した。
短剣を抜き取り、まずは一人の男の胸に突き刺した。
「エァア”⁉︎」
痛みで目を覚ましたようだが、斜めに剣を引き抜くと、すぐに静かになった。死んだのだろう。同じ様にもう一人も片付けた。
「……」
静まり返った馬車の中で、短剣に付いた血を布で拭い、それから男の腰から短剣の鞘のついたベルトを取って自分の腰に着けた。
死体と一緒に長く居たくなかったので、荷馬車から飛び降り、西に日が傾いていたが、踏み固められた土の街道を歩き始めた。
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