眼前には。
店内はいつも以上に盛況で、景色は慌ただしく変化していた。
とある商業施設の中に存在する定食屋で、博士と私は食事を摂っていた。いや、正確には『食事』と見えるものを摂っていたのは博士だけで、私の目の前にはプラスチックコップに入った水が置かれていた。私はコップを小さく呷り、机に置いてはまた呷った。その際、博士は頼んだ定食のご飯を大きく口へかき込む。
「博士、そろそろ研究会の時間ですよ、急がなくては」
「まあ、そういうな。おかわり自由と書いていては元を取らねばとついつい食べたくなってしまうんだ。あと、一杯だけな」
わかりましたよ、と半分あきれ気味で返す。この定食屋に来れば、毎回しているやりとりだ。
「すみませーん」
手を挙げて博士は言う。その声に遠くのテーブルを拭いていた店員さんが反応し、元気よく振り向きこう返してくれた。
「少々お待ちくださーーい」
――それから、三十年が経った。
前面に見えるのは、いつもと変わらぬ荒廃した複合施設。定食屋だったそこは、ミイラ化したヒトや腐って変色した机や椅子、私の手には黒い水が溜まったプラスチック製のコップが握り締められている。
少量の水を活動資源としている私、レプリロイド29型はアレを生き抜くことができた。そう、博士がご飯のお代わりを頼んだ瞬間に起きた、大爆発だ。
何が原因かは分からない。某国が戦争をふっかけるつもりで打ったミサイルなのか、それともこの複合施設で起きた何かなのか。唯一、分かっていることはこの三十年間誰も助けに来ず、人の声すらも聞いていないということである。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
2〜3話で完結予定です。意見・指摘等くださると幸いです。