28.王女の帰着
お待たせして申し訳ありません。(理由はあとがきにて)
28話目です。
よろしくお願いします。
オーソングランデ王城は、ヨハンナの突然の帰着に一時騒然とし、さらには魔国ラウアールの元王ウェパルが来賓として同行している事がわかると、受け入れの準備で上から下まで蜂の巣をひっくり返したような騒ぎになった。
混乱の最中、ヨハンナたち一行は悠々と城内へ入る事ができ、そのまま賓客を持て成すための談話室へと一行を案内すると、騎士隊長アモンに、王と妹、そしてユウイチロウを呼ぶように命じた。ミキも、それを手伝う。
「勝手に出て、知らせも無く帰って来るなんて、随分と不良のお姫様ね」
「先触れなんて出したら、色々と準備されてしまうもの。こういう事は雷の如く突然かつ衝撃的である方が良いのです」
それは一二三の行動から教わった事だ、とヨハンナは何故か自慢げに胸を張って答えた。
ウェパルはプーセの顔を見たが、プーセは目を逸らした。
「それに今回は恐らく、結果として宣戦布告をする形になるわ。それを考えれば一方的におしかけて、さっさと結論を出して帰るくらいで丁度良い、とわたくしは思うの」
「それには賛成ね。必要な収穫を得たらさっさと撤退する。余計な欲をかけば、失敗するものよ」
「一二三様と共闘されて王位を得られたウェパル様に同意いただけるなら、間違いないわね」
「……あれは共闘というより、彼が一方的に暴れた時に敵に回らなかったってだけよ。王位なんて、押し付けられたようなものだし」
当時を思い出し、ウェパルは目を細めてため息を吐いた。
移動中、ヨハンナは今回の狙いを改めて全員に説明していた。
・王と妹に対する申し入れと、受け入れられない場合の政治的対立の宣言。
・勇者ユウイチロウの回収。
・騎士隊の中でヨハンナに同調する者がいれば連れていく。
この三つだ。
アモンは一二三の私兵を志願したが、あっさりと断られている。その為、少なくとも一二三と敵対はしないであろうヨハンナ側へ着くとしたが、それでも人質として、マリア以下数名の部下はフォカロルのギルドにて監禁されている。
それらの理由もあって、ヨハンナは注意しつつもアモンをある程度信用して使うつもりでいた。少なくとも、味方を増やすのには役に立ってくれるはずだ。
「部下がいなければ、王女もなにもありませんからね……来たようですね」
ノックの音が響き、侍女が「陛下がご入場されます」と告げる。
開かれた扉から入って来たのは、皇王オレステとその娘であるサロメ、そして王の専属護衛であるメンディスだ。
「ちょっと」
メンディスの姿を見た瞬間、ウェパルは眉を顰めてヨハンナへ顔を寄せた。
「あんなのがいるなんて聞いてないわよ?」
ウェパルは、護衛であるメンディスの実力が相当に高い事を瞬時に見抜いたらしい。彼女の見立てでは、この場にいる全員が同時に戦ってもまず勝ち目が無い。
それに対して、ヨハンナは肩を竦めるしかなかった。
「魔国の元王が、何用だ?」
「ずいぶんな言い草だけれど、聞き流してあげるわ。私も追い落とされたけれど、自分の娘じゃないだけマシだもの」
「なんだと?」
「まだそうとは決まっていないわ……お父様。それにサロメ。今日は二人に結論を聞きに来たの」
「話しだけは聞こう」
ヨハンナと向かい合うように座り、短く答えた王。その隣にサロメが座り、護衛のメンディスは、王の後ろに立っている。
「……お父様もサロメも、イメラリア様がどのような方だったのか……獣人族や魔人族に対して、どういう態度で接しておられたのか、本当の事を知っているでしょう?」
今でこそ国教扱いである聖イメラリア教だが、つい先日までは民間や一部の貴族が信仰している程度の弱い宗教に過ぎなかった。当然ながら、それ以前の教育を受ており、直径の孫である王であれば、イメラリアの事を良く知るはずなのだ。
「真実か……そのような物に拘るのは、まだ子供なのだな」
ため息交じりに口を開いた王は、ヨハンナへ向けて微笑みかけたが、それは親としての愛情あふれるそれでは無く、落胆を露わにしたものだった。
「宗教は便利な物だ。およそ大した理由なく人々を動かすに充分な原動力になるからな。物事が多様化し、平民が力を付け始めた昨今、新たな“力”が無ければ、人を統治する事もままならん」
言い返して来ないヨハンナを見て王は「よく考えろ」と言う。
「これもお婆様が遺してくださった遺産の一つだとも言える。かの御仁は平和の為に、争いを終わらせる為に、魔人族や獣人族を受け入れたが……果たして今も同じだと言えるか?」
「どういう意味ですか?」
ヨハンナの質問は、ミキが戻るまでの時間を稼ぐ目的もあった。
およそ気付いていないらしい王は、鼻を鳴らして頬杖をつく。
「魔法や荒野の情報など、連中からとれる情報は充分に得る事が出来た。その上で、これ以上我々人間が連中の生活の面倒を見てやる必要は無い、という意味だ」
「それはちょと聞き逃せない話ね」
ウェパルが口を挟む。
「まるで魔人族や獣人族に、生活能力が無いみたいじゃない」
「同じことだ」
「魔人族は人間の国を乗っ取ってようやく国家を作り上げた。獣人族に至っては、人間の町を真似て初めて文明的な生活を享受し、しかもまだ多くの者がそれを拒否する未開さだ。救いがたい程遅れている連中ではないか。」
「魔人族は魔人族だけの国が元々あったわよ。変な木が近くに生えてる上に、それから守ってくれる結界も無くなっちゃったから、出て来ざるを得なくなっただけよ。そういう意味では、エルフもおんなじ」
ウェパルが視線を向けると、プーセは苦笑した。
彼女が言う通り、魔人族が閉じ込められていたエリアに残っていた者も少数いたのだが、エルフと同様に身体の一部が樹木化する症状を見せる者が表れ始めたため、ウェパルが指示して森から全員を退去させている。
魔人族がこの樹木の研究を本格的に始めたのもこの頃だ。
「では……お父様は、このまま他種族の排斥路線を変える気は無いということなのね?」
「無論だ。お前ごときにあれこれ指示される謂れも無い」
「それじゃ……サロメは、どう思うの?」
水を向けられ、サロメはクスリと笑った。
「お姉さま。わたしはお姉さまほど夢見がちな性格ではありませんの。わたしはこの国を良くするための事を考えるだけですわ」
「く……」
妹にまであっさりと否定され、覚悟していたはずのヨハンナも、顔を歪ませた。
「サロメの言う通りだ。妙な事を考えて、勝手な真似をするんじゃない。そんなに他種族との交流がしたいなら、オーソングランデにその窓口を作ってやらんでもない。その為に、しっかり勉強するのだ」
親の顔をしてしかりつける王に、ヨハンナは初めて人としての嫌悪感を感じていた。ここで城に戻る選択をすれば、適当な理由を付けて人質なり操り糸としてホーラントの王族に嫁に行かされるのが目に見えている。
ノックの音が響き、侍女の声が聞こえる。
「ユウイチロウ様、ミキ様。並びに騎士隊長アモン様がお見えです」
「入ってもらって」
「畏まりました」
王が何か言う前に、ヨハンナは素早く返事を返した。
「……どういうつもりだ? それに、勇者ミキが戻っていたのか? アモンも?」
どうやら、混乱の中でヨハンナと共にミキやアモンが城へ来ていた事が伝わっていなかったらしい。
驚く王の表情を見てわずかに溜飲を下げたヨハンナは、これからの事を冷静に乗り切る為、心の中でイメラリアに祈っていた。
お読みいただきましてありがとうございました。
土曜日の昼から、急な発熱と前進の痛みと痙攣に襲われ、
月曜の朝までまともに動けませんでした。
ようやく動けるようになって病院に行き、原因が扁桃腺炎だとわかりました。
まだ完治しておりませんで、今回は多少短めになってしまいました。
完治し次第、いつものペースに戻したいと思っておりますので、何卒よろしくお願い申し上げます。