201.閉ざされた部屋
遅くなりました。
201話目です。
活動報告や『王族転生』の方もご覧の皆様はもうご存じでしょうが、
あとがきにてお知らせがございます。
「う……」
一撃を受けて気絶していたオリガが覚醒したとき、周囲に人の気配は無かった。
薄暗い部屋の中で魔力を使って探索するが、これといって気になるものは存在しない。というより、固く施錠されているらしい金属のドア以外、狭い部屋の中には窓一つ存在しないようだ。
地下牢だろう、とオリガはあたりを付けた。
手枷と足枷を引きずりながら起き上がった彼女が石造りの壁を叩くと、鈍い音だけが響いており、余程分厚い土壁で覆われているわけでも無いかぎり、埋められた部屋だろうと思えたからだ。
「油断しました。これでは一二三様に顔向けできません……」
意気消沈はしているものの、その瞳に宿っている固い意思に曇りは無い。
木箱に収められていた一二三が落下しそうになった瞬間、敵を前にして意識をそちらへ向けてしまったことは痛恨事であった。
だが、一撃を受けて気絶する直前、その木箱が無事であることは確認できていた。木箱が壊れていなければ、中の一二三が壊れていないだろうとオリガは考えていた。
「しかし、問題はそこではありません」
自分をここへ連れて来たのは、戦っていたあの溶解液使いの女であるのは間違いないだろう。衣服もそのままで、武器の鉄扇だけが見当たらない。
魔力は問題なく使用できるようだが、そのために大きな問題があることに気づいた。
「酸素が……あとどれほど残っているでしょうか」
魔力を通して操るための空気はあるが、それらを操っているオリガはこの部屋が完全に密閉されていることに気づいてしまった。
このまま留まっていたら、いずれ酸欠で倒れてしまうだろう。
「ちっ!」
舌打ちと共に鎖を振りながら固い扉へと小さく蹴りを入れるオリガだったが、鈍い音が響いたのみで、びくともしなかった。
蹴りの勢いでスカートの裾が捲れあがっているのを見て、オリガは咳払いと共に丁寧に裾を伸ばした。
「いささか、動揺しているようです。このような様では、一二三様に笑われてしまいます」
ここがどこかは不明だが、おそらくはイメラリア教本部がある町からは出ていないだろう。人を抱えて移動して、しかも気絶から覚める前に手足に枷を付けて閉じ込めるとなると、あまり長い時間は移動できない。
魔法を使って空気の刃を作ってみたものの、壁は多少削れ、扉に至っては傷が少し入っただけだった。
およそ三メートル四方の狭い部屋の中で、これ以上動き回るのは酸素の無駄だと判断した彼女は、ごろりと床に横になった。
「……殺さなかった、ということは私が生きている必要があるということ。それならば……」
そっと目を閉じたオリガは、浅い眠りへと入った。
☆★☆
「これって、どういう状況?」
「色々あったんですよ」
カイテンの馬に同乗させてもらう格好でようやく合流を果たしたウェパルは、そこにいる顔ぶれを見て首を傾げた。
勇者ミキがいることもそうだが、肝心のオリガの姿が無い。
プーセはこれまでの状況を説明し、とりあえず一二三は無事(?)であることを示すために木箱を開いた。
「あらまあ、すっかり木に変わっちゃって」
一二三は全身に樹木化が進んでおり、木の彫刻かのような姿へと変わっていた。
「……服はそのままなのね」
「後が怖いから、いたずらとかしないでくださいよ」
プーセに釘を刺されてウェパルが口をとがらせている後ろで、ウィルはほっと胸をなでおろしていた。
ぽっきりと折れていた一二三の腕を、移った先の宿の主人に頼んで分けてもらった糊でこっそりと繋ぎなおしていたのだが、誰もそれに気づいていないようだ。
本人がそれを覚えていた時にどうするか、まだ決まっていないのが不安だったが。
「そ、それよりも、これからどうするか決めなくちゃ」
ウィルは一二三から話題を逸らす様に上ずった声をあげ、そっと木箱の蓋を閉じた。話題として触れて欲しくないが、それ以上に物理的に触れて欲しくない。
粗悪な糊しか手に入らず、かなり怪しい接着具合なのだ。
「オリガさんが、ねえ……。心配するだけ無駄じゃないかしら?」
一二三が相手じゃないときっと殺しても死なないわよ、とウェパルはオリガ誘拐については悲観的になる必要はないと語った。
「そんなこと……」
「あのね勇者さん、目的を間違えちゃ駄目よ」
反論しようとしたミキに対して、ウェパルは厳しい眼つきで答える。
ミキに比べて身長が高いウェパルは、修理したヒールを鳴らして近づくと、ミキの姿を見下ろしながら言う。
「今回の目的は“一二三とハジメちゃんを引き合わせる”、この一点よ。それが可能なら、別にオリガさんはいなくても良いの」
「でも、オリガさんはハジメちゃんの……」
言いながら周囲のプーセたちに同意を求めるように視線を巡らせたミキだったが、プーセはおろかウィルですら賛同しなかった。
「あれもこれも、と欲をかいたら碌なことにならないわ」
後ろに控えていたカイテンもウェパルの意見に賛同する。
「今はどうやってイメラリア教本部に入って、ハジメちゃんの居場所を探すか、でしょう?」
「……わたしの娘も、そこにいるはずです」
「なら、なおさらね」
ウェパルはカイテンが連れて来ていた部下たちを使って、この町の設備に関して位置関係を正確に描きださせていた。
その用紙のうえに描かれたイメラリア教本部の場所。その周囲には町の警備を行っている兵士達の詰所や町の政務事務所などが集まっている。それだけ見ても、教会本部が町の中心にあることがわかる。
「じゃあ、具体的にどうするの」
大きく首を振ってオリガのことを一旦頭から掻き消したミキの言葉に、ウェパルは教会本部の周囲にある施設を指差した。
「こちらが町に入っている情報は無効に伝わっているわけだし、こういう時は、陽動と潜入がセオリーよ」
お読みいただきましてありがとうございます。
告知ですが、活動報告にも書きました通り、
拙作『王族に転生したから暴力を使ってでも専制政治を守り抜く!』が
書籍化することになりました。
講談社様の新レーベル『Kラノベブックス』から発売予定です。
よろしくお願いいたします。




