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199.本当の狙いは

遅くて申し訳ありません。

199話目です。

「……助かった。けど……」

 穴から落とされたウィルは、今のところ宙づりになっていた。

 腰まで溶かされた状態のモンスターが、自分の身体から刃を撃ち出してウィルのスカートを壁に縫い付ける形で救ったのだ。

 今やすっかり溶けてしまっているが、彼は彼なりに召喚主に報いたらしい。


 状況はあまり良くは無いが。

 上階では戦闘が続いており、オリガの声も聞こえてきた。このまま行けば程なく敵は倒されて戦闘は終わるだろう。

 彼女にとっての問題はスカートがすでに役立たずになるほどのダメージを受けていることと、約二メートルの高さから無事に下まで降りることだった。


「オリガさんも下ろしてくれたら良かったのに……うぅ、仕方ないか」

 諦めてスカートのボタンを外し、腰でぶら下がった状態からどうにか滑り抜ける。

 ポーチを押し当てるようにしても短いドロワーズは隠しきれていない。人の目が無いとわかっていても、恥ずかしいものは恥ずかしい。

「ありがとうね」


 溶けてしまったモンスターに礼を言って、一先ずウィルは部屋の隅へと退避した。

 あちこちが溶解液で溶かされてしまった部屋の中で注意しながら移動している間、上からは激しい戦闘の音が続いている。

 オリガを相手に敵も善戦しているらしいが、いずれ勝負はつくだろうし、どちらが勝つかは想像する必要すらないだろう。


 今ウィルがやらねばならないことは、誰にも、特に男性に見られずに上階の部屋へたどり着き、着替えを回収することだ。

 その為に、彼女は待つことを選んだ。

 戦闘中の部屋へ迂闊に踏み込んだところで良い事は無い。ましてオリガの邪魔をすれば問答無用で敵ごと切り裂かれるかも知れないのだ。


 しかし、その願いは叶わなかった。

「誰かいるの?」

 そう尋ねる声は女性のものだったが、他にもがやがやと数名分、男性の声も聞こえる。

「ひえっ……」

 敵か味方かもわからないが、少なくとも会いたくない。


「オリガさん? 声が違うようだけれど……騒動が起きているのは上みたいね」

 オリガを呼ぶ声が続くが、ウィルは息を殺して黙っていた。

 声が諦めて上階へと行こうとする女性を、ウィルが落ちた穴を通じてオリガの声が引き留める。

「ミキ! そこにいるなら受け止めてください!」


「えっ?」

 思わず見上げたウィルは、自分が落ちて来た穴の上でぐらりと落ちかけている木箱を見つけた。

「えっ?」

「木箱を受け止めて!」


 想定外に苦戦しているのか、風魔法でどうにか支えているようだが、木箱は今にも穴から倒れて落ちそうだ。

「ほぅら。集中しないとダンナは落っこちちゃうわよ?」

「やめなさい!」

「やめないわ。あたしの目的は最初からこれだもの」


 女はいくつもの傷を負いながらも、オリガの攻撃に対して溶解液をぶつけることで辛うじて致命傷を逃れている。

「くっ! ちょっと、退いて!」

 呆然としていたウィルは、部屋に飛び込んできたミキに突き飛ばされるようにして道を譲った。


 見知らぬ人物だが、オリガの言葉に反応したあたり、味方なのだろう。

 ウィルはそう判断して邪魔にならないような場所へと移る。彼女はこの攻防に参加する手段を持っていない。

 魔法はオリガに倣っていくつか使えるが、実践的とは言えない。

 腕力も跳躍力も無い。彼女には、魔導陣しか……。

 そう考えているウィルの目の前で、ミキの姿が消えた。


「うわっ!?」

「邪魔はさせないわよ?」

 ミキは小さな悲鳴を上げて、さらに階下へと落とされてしまったらしい。溶解液を飛ばした女が、オリガの攻撃に耐えながらも笑っている。

 ウィルと目が合ったが、すぐに無視された。


「はあっ!」

 気合いと同時に女が木箱を蹴り飛ばす。

 直後、遮二無二飛び掛かったオリガと掴み合いになるが、バランスを崩した木箱はウィルの目の前へと向かって落ちて来た。

 木箱はミキが落ちた穴へと向けて落下していく。ウィルの腕力では止められそうにない。


「一二三……!」

 止められないが、どうにかしなくては。

 ウィルは一か八か、穴を飛び越えるようにして木箱へと飛びついた。思い切り床を蹴った彼女の身体は、重い木箱でもどうにか軌道を変えることには成功した。

「う、痛っ!」


 木箱と共に横倒しにはなったものの、どうにか2フロア分の落下は防げた。

「ちっ!」

 木箱の横で起き上がれずにいるウィルへ向けて、階上から溶解液が降り注ぐが、それは間一髪のところで駆けこんできたプーセの障壁が防いだ。

「間に合いましたか……!」


 ぜえぜえと息をしているプーセも睨みつけて、階上から見下ろしていた女は舌打ちを一つして姿を消してしまった。

「逃げた……?」

「そうみたい……ですね」

 しばらく待っていても攻撃は無く、恐る恐る障壁を解除したプーセたちに、上の穴から一人が顔を覗かせた。


 オリガだと思って見上げたウィルは、それが先ほど穴に落ちた女性、ミキだと気付く。

「あの……」

「ああ、さっきの。オリガさんは?」

「見当たらないわ。いきなり落っことされたから急いで駆け上がって来たのに、敵もオリガさんもいないのよ」


 敵を追って行った、と三人は考えていたが、ミキに同行していたホーラント兵の一人が血相を変えて連絡にやって来た。

「み、ミキ様……!」

「どうしたの?」

「オリガ様が……」


 宿の外で見張りに立っていた彼は、オリガらしき見覚えのある服装の人物を抱えた何者かが、建物から飛び降りて走り去っていくのを目撃したという。

 追おうとしたところ、いきなり目の前の道を溶かされて、溶解液に触れて溶け始めたブーツを慌てて脱いでいるうちに、完全に見失ってしまったらしい。

「本当に? オリガさんが? ()()オリガさんが?」


 信じられない、と声をあげたウィルだったが、その後宿のどこを探してもオリガの姿は見当たらず、ミキやプーセと共に天を仰ぐことになった。

お読みいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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