192.共感
192話目です。
よろしくお願いします。
オーソングランデ内に入ったオリガとミキ。
そしてサポート役として同行する兵士達は、国境を突破してからは馬を調達し、田舎の村を密かに渡り歩きながらイメラリア教本部を目指していた。
列車では妨害されやすいという理由だったが、当初オリガは列車を使おうとしていた。
「襲ってくるなら、それはそれで敵の動きが掴み易くなります」
そう言って駅へと向かおうとした彼女を、ミキは必至で止めた。
「貴女は良くても、他の兵士達を巻き込むのよ?」
「巻き込まれに来た、の間違いでしょう。怖いなら帰れば良いのです」
「私の子供も巻き込まれているの! お願いだから協調して!」
一触即発の雰囲気で睨み合っていた二人だったが、オリガの方から折れた。
「……わかりました。貴女の協力を得たいのは私も同じです。焦ってしまって申し訳ありません」
「いえ。わたしも気持ちは同じ……はず、多分、同じだと思うから」
いまいち引っかかった物言いで答えたミキは、兵士達と共に馬に飛び乗った。
乗馬はこちらの世界に来てから覚えた彼女だが、あちこちへ移動するうちに随分と板に付いた動きができるようになった。
オリガは冒険者時代から馬には乗りなれている。彼女は女性二人組のままで若いうちから中堅冒険者となった実力者だ。一二三と出会って薫陶を受けたことでかなりレベルアップしたが、それ以前にもしっかりと技術を身に着けている。
「行きますよ」
先導するのはオリガだ。
八十余年が過ぎているとはいえ、町や村の配置は大きくは変わっていない。教会本部の位置に付いてもすでに把握している。
「待って。少し慎重にいかないと……」
「先ほどは譲りました。なら今度は私に譲って下さい」
言うが早いか、オリガは馬の足を速めた。
「ミキ様。このあたりはまだ人家も少なく、見通しも良い場所です。まずは馬を使って距離を稼ぐのは悪い選択では無いかと」
ホーラント兵からも説得され、ミキは渋々オリガへと付いていく。
「……何なのよ、もう……」
オリガの姿を見ているうちに、ミキの中で彼女に対する妙な親近感が芽生え始めていた。
自分勝手で迷惑な一二三と、それを妄信する妻オリガというコンビに対して全く好意は感じないが、それでも子の親として必死になっている姿には共感する。
「駄目ね。もっと集中しなくちゃ」
一二三も、そしてオリガもミキにとっては敵だ。
一時的に共闘しているに過ぎない状況であり、場合によっては見捨てて自分の子だけでも助け出さなくてはならない。
妙な友情などを感じていてはいざという時に“迷い”が生まれてしまう。
「非情にならなくちゃ……」
勇者としての生き方は捨てた、とミキは意気込みを胸に、オリガを追った。
☆★☆
「通過を許可します」
「と言う割には、随分と物々しい状況に見えるけれど?」
イメラリア共和国と魔国との境界で待ち構えていたプーセは、ヨハンナからの許可を伝える使者として一枚の許可証をウェパルに押しつけた。
そんな彼女の背後には、一千名を越える規模の兵士達が並んでいる。
殺気立っているという様子は無く、どちらかといえば困惑に近い。
急きょ招集されたという様子がありありと浮かんでおり、また集合している場所が仇敵たるオーソングランデ皇国方面ではなく魔国方面であることも、彼らの困惑の原因だった。
「別に、貴方達と一戦交えようというわけではありません」
「では?」
プーセは現国境からオーソングランデ皇国側国境まで、魔国の軍勢を“護衛”するための部隊である、と説明した。
「ああ、そう」
それが建前であり、実際は魔国軍が何かやらかした時に押さえるための軍勢であることはウェパルにもわかっている。
「他にも理由があります。これはヨハンナ様から口頭で伝えるように言われたことですが」
と、プーセはウェパルに一歩近付く。
ウェパルの周囲にいた護衛たちは緊張した様子をみせたが、ウェパルは手で制した。
「彼女は治癒と子守りが専門だから、安心なさい」
子が誰を指してのことか理解したプーセは睨みつけながらウェパルの直前までやってきた。
「長い付き合いですが、やはり貴女とはあまり話が合いそうにありませんね」
「あら、私は結構楽しんでいるけれど?」
プーセは舌打ちをしけた口を閉じ、改めて話を続けた。
「今回の編成は、見かけだけでも我々イメラリア共和国と魔国の間に敵対する雰囲気は無い、と民衆にアピールするのが目的でもあります」
ヨハンナとしては、五年後と指定された日までに、オーソングランデ皇国との対立だけは片付けておきたいところだった。
民衆の視線や意識をオーソングランデ方面との戦いに集中させるためにも、魔国の存在に対して多少なりソフトな印象を演出する必要がある、と考えたらしい。
「体よく利用しようってこと?」
「そういうことです。国内通過の代償としては、安いものではありませんか?」
肩をすくめたウェパルは、ちらりとウィルへと目を向けた。
だが、ウィルの方はずらりとならんだ兵士達を見回して、その装備などを興味深げに見ているだけで、何か意見があるわけでもなさそうだ。
「はぁ。仕方ないわね。この際だから、お願いするわ。宿の手配もお願いできる? ワインもつけてちょうだいね」
「必要ありません」
プーセが指差した先には、国境に最も近い列車の駅がある。
このエリアは元々一二三が統治していた場所であり、国境周辺と言ってもかなり開発が進んでいるのだ。
「全ての列車を止めて、最優先で走らせる準備を整えています。眠いなら、ベンチシートで横になってください。申し訳ありませんが、人数の都合上、特別室や嗜好品などを用意する余裕も有りませんでしたので」
顔を顰めたウェパルに、プーセはしてやったりの顔を向けた。
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拙作『呼び出された殺戮者6』の予約が開始されました。
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