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188/204

188.彼だけのための

188話目です。

よろしくお願いします。

 一二三の前には二人の男女が立ちはだかっていた。

 しかし、一二三自身の目線はミキの方を向いており、その表徐は楽しげだ。

「ふふん。仕上がりはまだまだだが、良く知らない相手を殺すことに躊躇がない。貪欲に殺そうとしている」

「よそ見をしている余裕があるのかしら?」

 翼を持った虎という風貌で、獣人族二種族の掛け合わせだと見た目でわかる女が、苛立ちを込めて言う。


 だが、一二三は相手にしていない。

 女の後ろで黙っている男も含めて、一二三はまるで脅威に感じていない。

 油断はしていないが、これといった危険性は無い、と一二三は判断していた。唯一、まだ姿を見せていない相手だけが、一二三の感覚にも曖昧な存在としてしか感じられず、言い様の無い不気味さがある。


「あとは、技術と場数だな。俺もそうだが」

 右手に掴み、だらりと下げていた刀を掲げる。

「殺せば殺すほど、次の相手との戦いが楽しみになる。どう殺すか考える、うまくいく時もあれば、なかなか調子良く進まないこともある」

 困難でも、それはそれで楽しい、と一二三は呟いた。


 一二三が危惧していたのは「殺人が作業になる」ことだった。

 ミキは勇者として転移という恵まれた能力を持っている。一般の兵士程度であれば苦もなく殺害できるだろう。

 そういった相手ばかりを前にしていたら、殺すという行為が単なる作業になってしまい、彼女自身の殺人者としての成長に繋がらない。

 だが、その心配は不要なようで、このままイメラリア教本部を目指す間の戦いで、幾ばくかは成長するだろう。もし死んでしまったとしたら、それだけのことだ。


「で?」

 一二三はようやく正面にいる二人へと視線を向ける。

「お前らはなんのために俺の前にいる?」

 その問いは、一二三からの挑発だった。戦わないなら追う気もない。そこまでする相手ですらない、という態度だ。


「馬鹿にして!」

 だん、と地面を踏みつけた女は、背中の翼を広げて飛び上がる。

「空を飛べない、地面を這いつくばるだけが取り柄の人間が……あ?」

 女は上空十メートル程まで一気に上昇し、勝ち誇った笑みを浮かべて眼科を見下ろした。

 だが、そこに一二三はいない。


「どこに……」

 翼をはためかせながらくるりと向きを変えた見下ろした女の視界に、足元にいたはずの男が両断されているのが見えた。

 男はエルフの特徴があるとがった耳を持つ整った顔立ちだったが、その表情を変える暇もなく事切れたらしい。

「なっ!?」

 なんで、と言おうとした女は、一二三が男を袈裟懸けに振り抜いた刀をピタリと止め、すぐさま手首を返して逆袈裟に振り抜いた。


 四分割された同僚の身体を見ていた女が、喉から押し出すような驚きの声を上げている間に、一二三は彼女を見上げていた。

「お前と同じで、こいつも混ぜ物か。どうせ作るならもっと考えてやるべきだな。まあ、お前らは実験に使われただけだろうが」

「な、なめるな! あたしたちはイメラリア教の騎士様なんだよ!?」


「肩書きで強くなれるなら、いくらでもそうすれば良い。だが……」

 一二三は女を見上げたまま、小さくため息をついた。

「勘違いでどうこうできるレベルなら、戦場に出るべきじゃなかったな」

「えっ……」

 女は自分が気づかないうちに自分が落下し始めていることに気づいた。


 気づいた直後から、羽の付け根に痛みを感じる。

 目を向けると、そこには短い鉄の棒が深々と突き立っていた。女の下を潜り抜けた際に、一二三が投げておいた寸鉄だ。

「う、うわああ! や、やめろお!」

 落下する自分と、その真下で待ち構える一二三。

 自分の運命を悟った女は、攻撃するでもなくただ空中でじたばたと暴れながらおちてくる。


「羽根が動かないくらいで戦えなくなるのか? まだまだ命はあるだろう」

 一二三は刀を自分の足元に控えるように構え、吐き捨てるように言った。

「腕がないなら足で。足が無ければ噛みつけ。命が続く限り戦いが続く。それが戦う者だろうが。それが嫌なら、始めから戦いに首を突っ込むな」

 ザン、と刈り取るような一閃が、女を縦に両断する。


 一二三の動きはそれだけでは終わらない。

 彼の背後から、隠れていた者の気配が近づいてくることに気づいたからだ。

「隙をつくのは上手いが……」

 迎撃が間に合わない速度ではない。飛びかかってくる動きをしている相手を目視した一二三は、大きなマントで男か女かもわからない敵に対して再び刀を振るう。


「……あ?」

 手応えがおかしい、と斬りつけた瞬間に一二三は感じた。

 肉を切り裂くわけでも骨を断つわけでもない、もっとざっくりとした砂のような感触だった。

 そして、その手応えに覚えがある。

「こいつは……!」


 何かを言いかけた一二三へ、包み込むように広がった白い粉が降りかかる。

 それは以前に見たことがある、エルフがいた森にある樹木から採れる粉だった。そして、それは一二三の左手を構成するものの原料でもある。

「ちっ!」

 一二三はその粉の危険性を知っている。魔力に反応し、生物を樹木のように変質させる効果があるのだ。

「軽く浴びたか……」


 そしてもうひとつ、厄介な特性があった。

 理由は不明ながら、エルフであればゆっくりと樹木化させるこの粉は、なぜか一二三にだけはかなりの速度で侵食するのだ。

「一二三様!」

 オリガの悲痛な叫びが響く。

 一二三の身体、その右半身がじわじわと樹木化し始めていた。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願い致します。


※諸事情により、数日更新をお休みさせていただきます。

 ご理解のほど、よろしくお願い申し上げます。

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