185.国境での激突
185話目です。
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神聖オーソングランデ皇国の新たな皇王として立ったニルスは、まず国境の閉鎖に動き出した。
これと言った理由は語られなかったが、大きな危機が近づいているという噂は実しやかに城内を駆け巡っており、それが魔王一二三のことであるというのも出どころは不明ながら噂になっていた。
兵士たちは突然の国境封鎖命令に訝しむが、命令とあれば従わざるを得ない。
同時に、首都から派遣されたイメラリア教からの応援部隊という胡散臭い集団もホーラントとの国境に腰を据えることになった。
「一体、あいつらはなんなんだ?」
と、兵士たちはイメラリア教兵たちの存在に眉をひそめている。
イメラリア教応援部隊の者たちは、装備がバラバラで武器も全員がそれぞれ違うものを持っており、集団でやってきたが訓練はそれぞれ個別に行っているようだった。
とても正規兵の部隊には見えないのだが、それだけであれば傭兵や冒険者崩れの寄せ集めという可能性もあった。
応援部隊の兵たちは一様に覆面で顔を隠しており、性別も種族も良くわからない連中がほとんどであることも手伝って、他の警備兵たちは落ち着かない。
とはいえ、上からの命令で共に国境を守っているのだから邪険にするわけにもいかず、交流はしないながらも同じ場所を守る同志として配置はオーソングランデ側から指定した。
あくまで応援部隊である、ということもあり、彼らの配置は国境の内側にある。正規兵たちだけで大方の問題は処理できると考え、万が一、何かの襲撃で手に負えなくなった時だけ応援を依頼するという格好だ。
「まあ、このまま出番もなければ連中も帰るだろう」
兵士たちは一様にそう考えていた。
イメラリア共和国との国境なら衝突の可能性もあるが、ホーラントは内乱終結後は国内の収拾に注力しており、オーソングランデと事を構えるような真似はしないだろう、というのが一般的な認識だったからだ。
しかし、彼らの考えとは無関係に、このホーラント国境が戦場になる時はすぐに訪れた。
「これは……」
「どうやら、オーソングランデは思ったより準備が早いらしい。というより、逆に俺たちを誘っているようにも見えるな」
がっちりと固められた国境の様子に、ミキは絶句し一二三は微笑む。
オリガに至っては、国境など見ておらず一二三が嬉しそうなのを見て顔をほころばせていた。
彼らは列車を使って国境近くまで行き、そこから騎馬で街道沿いに国境へとやって来たのだ。
列車を降りたところで国境の封鎖を知ったのだが、気にも留めずに予定通りのルートを進んできた。
「要するに」
一二三は腰から刀を引き抜いた。
「道を間違えてはいない、ということだろう?」
「当然です。一二三様が間違えているはずがありませんから」
オリガも一二三に呼応するように鉄扇を構え、魔力を自分の周囲に展開し始めている。
「……そうね」
以前のミキであれば、ここで一二三を止めようとしたかも知れない。まずは説得をしよう、と言い出すかも、と一二三は考えていたが、彼女もまた変わっていた。
「時間が惜しいから、最短距離を最速で進みましょう。馬はどうするの?」
「その辺に手綱を引っかけておけば良い。……少し離れた場所の方が良いかもな」
「それって、どういう……っ!?」
一二三の助言に質問を返そうとしたミキは、突然に飛来した何かを察知して大きく地面を転がった。
オリガも同様に襲来した何かを避け、一二三の方は身体を軽く傾けて最小限の動きだけで避けた。
「攻撃!? まだ国境に近づいてもいないのに!」
右手でふた振りのサーベルを抜き、左手に一本を固定したミキが舌打ちと同時に叫ぶ。
「俺たちを待っていた連中がいる、というわけだな」
一二三の周囲、固い地面に深々と突き立っているのは柄の無い刃物たちだ。
大小の両刃の剣やナイフが軽く三十本は突き刺さっており、どれもがきれいに磨き上げられたかのように輝いている。
「どこかで見たような能力だが……まあ、そういうこともあるか」
暢気な言葉を吐いている一二三の近くで、サーベルを両手に掴んでいるミキは額に大粒の汗を浮かべていた。
「あいつら……!」
国境からやってくる異様な覆面集団は、その誰もが返り血を浴びていたのだ。
「どうやら、警備の兵たちは全員あの者たちに殺されたようですね」
魔法による探知を行ったのだろう。オリガが状況を口にする。
「どうやら、イメラリア教は色々と無茶をやっているみたいだな。あるいは、それが可能な状況なり力なりを手に入れたか」
いずれにせよ、戦って知るしかないだろう。そう言って一二三は近づいてくる敵に向かってふらりと軽い足取りで近づいた。
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