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183/204

183.釘を刺しておくこと

183話目です。

よろしくお願いします。

 鉢合わせは、目的地の村に入る直前だった。

 互いの随行員であるホーラント兵士たちは自分たちのタイミングの悪さにうんざりしていたが、いきなり殺し合いとはならず、まずはミキから口を開く。

「荒野を越えたとは聞いていたけれど……生きていたのね」

「まだ死ねるか」


 軋むような音を立てるミキの左腕にちらりと視線を向けた一二三だったが、そこに言及はしなかった。

 それよりも、左腰に二本まとめて差されたサーベルの方に興味が向く。

「得物を変えたのか」

「……貴方との戦いで、今まで通りには動けなくなったから」


 キリキリと音を立てて左手を動かす。その指先は握りこぶしのままで動かない。

「今はまだ、貴方には勝てない。でも、いずれ殺す」

 明確な殺気を放つミキに、一二三は思わず頬が緩む。

「そうか、そういうのは大好きだ。楽しみにしている」

 彼の隣では、オリガが複雑な表情で鉄扇を握っていた。一二三が喜んでいるのは大歓迎だが、自分が用意したものではないことが悔しいのだろう。


「で、どうしてお前がここにいる?」

「今は、ホーラント王城に身を寄せているの。……ですが、ホーラント王族が貴方に敵対したいと考えているわけではないことを理解して」

「そうだろうな。あれにそんな勇気はない」

 あれ、と一二三が指したのはホーラント女王サウジーネだ。


「私の子も、ハジメちゃんと同様に誘拐されたの」

 だからここにいる、とミキが言うと、一二三は肩をすくめた。

 オリガの方は同情的な視線に変わり、ミキの前へと進み出る。

「貴女の子供も誘拐されてしまったのですね。きっとここに何かしらの手がかりがあるはずです。きっと見つけましょうね」


「え、ええ。そうね……」

 急に態度が変わったオリガに戸惑うミキだったが、がっしりと握りしめられた右手を振りほどこうとはしなかった。同じ立場だとわかっていたからだ。

 しかし、オリガがいつまでも手を離さず、その圧力が次第に上がってきたことに違和感を覚えた時には、ミキを見るオリガの目は据わっていた。


「ですが、あまり一二三様と親しくお話されるのは妻としてあまり面白いものではありませんので、そこは充分にご注意いただきたいところです」

「えっと……」

「私も主人と貴女が同郷であり、同じ日本という国で生まれ育ったということは承知しておりますし、同じ国の者として郷愁を感じることについては理解しているつもりです。ですが、そこはそれとして節度というものは大切ではないかと思うのです。ああもちろん、一二三様がそれだけ魅力的であり、以前からアリッサやヴィーネなど多くの女性が惹かれてきたのは当然であり、それは一つの“歴史”でもあります。ですがそれ以前に一二三様の妻は私であり、他の何人にも譲る気は毛頭ありません。実力で地位を争うのもやぶさかではありませんが、今の貴女では……」


「そのあたりにしておけ」

 一二三が止めると、オリガはハッとして恥ずかしそうに俯く。

「失礼しました。少し興奮してしまったようです」

「少し……? いえ、気にしないから」

 戸惑っていたミキも深呼吸をして自分を落ち着けた。


 兵士たちを待たせて、建物内へは一二三とオリガ、そしてミキだけが踏み込んだ。

 死体はそのまま残されており、腐敗が始まっているが明らかに他殺体だとわかる状態だった。

「酷い……」

 顔を顰めてはいるが、吐いたりはしないミキに一二三は少々感心を覚えていた。当初の甘さは随分となりをひそめ、強くなっているらしい。


「楽しみだな」

「ええ。逸材かと。……あなた、これを」

 オリガは一つの死体を指差した。

 かなり鋭利な刃物で切断された後があり、骨に当てずに首を刎ねている。その腕前は一二三も感心するレベルだ。


「ふぅん?」

 最初はウワンがやったかと思ったが、ウワンの動きは素早くともまだ粗さが目立つ。殺害と同時に自分の武器を守るほどの動きはできなかったはずだ。

 もしこれが別の誰かの仕業であれば、まだ一二三が知らない強敵がいるのかも知れない。

 そして、建物の奥にある獣人族の死体を見たオリガは歯を食いしばった。


「この二人は、ハジメを誘拐した者たちでしょう。魔国での目撃情報と特徴が一致します」

 彼らも一撃で斬り捨てられたようで、胴を完全に斬り分かたれた形で絶命していた。

 一人は真正面から、一人は逃げようとしたところを背後からやられたらしい。正面から切られた男が笑みを浮かべているのを一二三は指摘する。

「知っている相手にやられたのかも知れないな」


「でも、これで手がかりはなくなった……」

「何を言っているんだ?」

 一二三はミキの言葉に首を傾げた。

「教会に入ってきて、笑顔で迎えられる奴だぞ。教会関係者の可能性が高いだろうが。組織ってのは上が少なくて下が多いのが基本。それなら上の奴に聞けば早いだろう」


 一二三は死臭芬々たる教会を出て、兵士に問う。

「イメラリア教会の本拠地はどこだ?」

「えっ……お、オーソングランデの国内にあったかと思いますが」

「決まりだな」

 一二三はオリガとミキへと振り返った。


「イメラリア教のトップに会いに行くとしよう」

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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