182.拠点捜査
182話目です。
宜しくお願いします。
ホーラント国内に点在するイメラリア教拠点のうち、兵士たちの立ち入りを受けた個所はまだ幸せだったかも知れない。
指揮官以外は地元の人間が兵士として勤務していることも多く、教会に対しても同情的で穏やかな接触を図る者がほとんどだったからだ。
だが、一二三とオリガはそんなことはお構いなしだ。
とはいえ、彼らは拠点に近づくだけでハジメがいるかどうかがわかる。
念のために中には踏み込むし、反撃に出れば殺すが、そうでなければ建物内を廻って終わりだ。
「……ここもいないな」
教会の前に立った一二三が呟くと、オリガも頷いた。
「次へ行きましょう」
一つの死体がオリガの足元に転がっているのだが、二人はまるで見えていないかのように振る舞っていた。
教会を尋ねたときに襲い掛かってきたのだが、一二三の一刀で両断されてしまった。
どうやら教会のスタッフ等ではないようで、兵士が踏み込んできたのに驚いた小悪党が、武器を握っていない一二三に襲い掛かって逃げようとしたらしい。
だが、小悪党は知らなかった。
剣を握っている兵士が剣を振り上げるより、一二三が腰に差した刀を抜いて斬りつける方が数倍速いことを。
「こいつは別件のようだな。イメラリア教の連中にしては弱すぎる」
一二三はそう評価した。
「然様ですね。一二三様の力を知っている連中であれば、こんな雑魚を刺客に送るなんてありえません」
オリガが断言し、一二三と共に建物内をチェックしてすぐに次の場所へと向かう。
教会内の人物が皆殺しになっているのを発見した、という情報が入ったのは、次の目的地に到着した時の事だった。
「いかがいたしましょう?」
と、ホーラント兵から尋ねられた時点で、一二三は次の場所にハジメがいないらしいことを察していた。
「ハジメがいるかどうかはわからないが、そっちの方が手掛かりはありそうだな」
一二三が決定すると、オリガは一も二も無く賛同する。
「では、すぐに向かいましょう。列車の手配をお願いいたします」
「はっ! すぐにご用意します!」
ホーラント兵が踵を返して駅へと駆けだすと、一二三たちもその後を追うように歩いていく。
「どう思う?」
一二三が尋ねると、オリガはハッとした表情で隣にいる夫の顔を見上げた。
「……ハジメを攫った者が、証拠を隠滅するために行ったのではないか、と」
切迫した状況であることはわかっているが、オリガは一二三から意見を問われたことで、頼られたという感動で胸が高鳴るのを感じていた。
「そうか。俺も同じだ。……妙な異常者の仕業なら、それはそれで放っておけば良いしな」
さらに一二三が同意したことで、オリガは顔が熱くなるのを感じながら、一二三の隣をしずしずと歩いていく。
☆★☆
死人は出ているものの、多少は穏やかな雰囲気も垣間見せる一二三たちのグループと違い、ミキが率いるグループの操作は手荒というにも生温い。
ミキは左手に抜き身のサーベルを握ったままで移動し、教会への隣県も扉を蹴破らんばかりの勢いで入っていくのだ。
兵士の姿が見えたからこそ国の捜査だとわかるだけで、一般の信徒からすれば強盗と大差がない。
「ひぃっ……わ、私は何も知りません……!」
「本当に?」
ミキが左手に持っているサーベルは、細身で装飾もほとんどないシンプルなものだ。
よく見ればその柄を握る左手はまったく動いていないのだが、切っ先を突き付けられている男にはそこまで観察する余裕など無かった。
左腰にもう一振りのサーベルを揺らしながら、左手のサーベルをじりじりと男へと近づけていく。
「た、助けてくださいっ……!」
「本部から指示されていることを全て吐きなさい。死にたくなければ」
キリキリ、と何かが擦れ合う音がミキの左腕から聞こえる。音と共に、サーベルは男へと近づいてく。
「わかりました! 全てお話します!」
ミキが責任者を脅迫している間に、他の兵士たちは一般の信徒たちへの聞き取りと事務所の調査などを進めている。
どうやらここの男性は何も知らされていないようで、信徒に対する極々常識的な指導のみが定期的に来ているだけのようだった。
「書類の内容も確認いたしましたが、間違いありません」
「そう。それじゃ、次の目的地に行きましょう」
左手のサーベルを右手で抜き取り、鞘に納めたミキは兵士たちに撤収を告げた。
「次の場所は……」
「ミキ様。ご報告が」
教会の外から入ってきた兵士にミキは一瞬警戒した様子を見せたが、それがホーラントの者だと気付くと、すぐに肩の力を抜いた。
「何か?」
「怪しい施設を発見いたしました。中の者は全員が死亡しておりましたので、詳しい状況はまだ調査中ですが……」
右手の親指を立て、皮手袋ごと爪を噛みながら聞いていたミキは、報告が終わってもしばらく黙っていた。
「……場所は?」
「街道から外れた場所にある村です。列車と馬を乗り継ぐ必要がありますが、移動に一日はかからずに済むかと」
「では、そこに向かいます……あの男のグループへは?」
「連絡は行っているかと。ですが、来るかどうかは……」
「来るわ。間違いなく。血の匂いがするところに、あの男が来ないはずがないもの。急ぎましょう。現場をかき回されたらたまらない」
ミキは左腕を押さえて教会を出ると、そのまままっすぐ駅へと走り始めた。
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