181.思い出語り
181話目です。
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ホーラント兵たちが一二三と合流するのを手伝う、という依頼をこなしたアルダートとミンテティは、災難から逃れるようにしてホーラントを出国。魔国へと再入国を果たしていた。
正規のルートで入国したわけでは無かったので、国境まで列車というわけにもいかず、山道を越えてどうにか魔国への入国を果たした。
そうしてクレやイルフカとも合流し、再び四人全員が揃ったところで彼らが向かったのはイメラリア共和国だ。
「ややこしいね」
「何が?」
ミンテティの呟きをクレが拾った。
「だって、なんでもかんでも“イメラリア“なんだもん。ややこしいったら」
「それだけ、女王イメラリアの影響が大きいということだろう」
名前そのものに力があるというわけではないが、その名前が示すものには力があることがある、とアルダートは説明する。
彼らは今、潤沢な資金を使って馭者付きの馬車を雇い、のんびりと移動中だ。列車よりも乗り心地は落ちるが、慌ただしい日々を忘れるには丁度良い、とイルフカが提案した。
そのイルフカは腕組して眠っていたかのようだったが、目を閉じたまま口を開いた。
「女王イメラリアの治政は、それは素晴らしいものだった、と父から聞いたことがある」
アルダートとイルフカは魔人族であり、その寿命は長い。彼らの父親世代はイメラリア本人が治政を行っている時代を生きていたし、彼ら自身もイメラリアの死去の時代はもう物心がついていた。
「葬儀の時のことは、オレもまだガキだったが憶えている」
イメラリアの死去が伝えられると、オーソングランデ王国を中心に暗い雰囲気が全国を駆け巡った。
ホーラント王国は高官を弔問に送り、当時魔国を治めていたウェパルは自ら葬儀へと姿を現した。
長い期間喪に服す者が多く、城で働いていた者の中にはイメラリアの治政が終わると同時に職を辞した例も多かった。
同時期には一二三の文官として彼の封印後もフォカロルで」活躍していたカイムも死亡し、多くの人々に一つの時代の終わりが訪れたことを感じさせていた。
「暗い時代だった。誰もがシケた面して歩いていたな。オレの親父もそうだったが、なんとなくみんなが元気を失っていた」
そこに登場したのが『聖イメラリア教』だった。
「あれはあっという間に浸透したな。オレも親父も懐疑的だったし、イメラリア様本人を知っている人たちはみんな、胡散臭いと思っていたんだが」
イメラリアの死後、最上位の家臣として仕えていたサブナクも下野し、数年後に死去したことでさらにイメラリア教の力は伸びた。
ただ一人、イメラリアに請われて出仕していたプーセのみが残り、イメラリア教が握った主流派に対して抵抗を続けていた。
その結果が、ヨハンナの出奔なのだが、これについてはアルダートも他の全員も「仕方がない」と意見は一致していた。
そうしなければ謀殺の可能性もあったのだから。
「しかし、実際にイメラリア様と共に激動の時代を生きたという一二三さんに会って、そのやり方に触れ、改めて思ったことがある」
水筒の水をぐい、と一口呷ったアルダートは、全員を見回して言った。
「オレはその時代に生きていなくて良かった。もし立ち会っていたら、おそらくオーソングランデ城前での戦闘で一二三さんかオリガ様に殺されていただろうからな」
全員が苦笑して「違いない」と頷く。
彼らはそのまま魔国を通過してイメラリア共和国へと入って行った。ホーラント王女サウジーネからの依頼として、現状をヨハンナへと伝えるためだ。
「本格的に戦いが始まる前に、金を溜めてどこかの田舎でのんびりするか」
アルダートの意見は、満場一致で承認された。
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