180.一斉捜査
180話目です。
よろしくお願いします。
「なるほどな。可燃物としての魔力と酸素を供給してオージュの火球を無理やり炎上させたわけだ」
「はい。全てはあなたに教わったことの応用です」
よく覚えていたもんだ、と一二三は感心しながらオリガと共に歩く。
その行先を先導しているのは、ホーラントの兵士たちだ。
彼らは五人組のグループが三チーム。計十五人の部隊で一二三に接触し、情報を与えた。
「全ては女王陛下のお考えによるものです」
「ふぅん」
部隊長らしき兵士の一人がそう言うと、一二三は短く答えた。
「そういうことならありがたく頼るとしよう」
「はっ」
彼らから一二三に伝えられたのは、ホーラント国内にあるイメラリア教の支部や隠れ家に関する情報だった。
イメラリア教そのものはまだ信者数も多く、大々的に弾圧するわけにもいかず放置していたというのが現状だったが、その情報についてはホーラントのみならず各国は調査を続けていた。
「この町での拠点は一か所です。そこで目的が上げられない場合、近くにある次の目的地までご案内します」
「サウジーネは何を考えている?」
「私にはわかりません」
一二三が尋ねたことを兵士は想定していたのだろう。即答する。
「私が聞いているのは、王都の周囲にあるイメラリア教の支部も別動隊が踏み込んで調査をしているということだけです」
兵士がそこまで言ったところで、目的の場所へ到着した。
そこは単なる教会であり、今も信徒たちが礼拝に訪れている。
過去のオーソングランデ王国女王イメラリアを模した像が屋根の上に飾られ、暖かな陽光を前進に浴びている。
「今の状況を、イメラリア様が見たらどう思われるでしょうか?」
「さぁな」
ただ、一つだけ一二三にはオリガに応えられることがあった。
「アイツが自分でやるなら、もう少しうまくやるだろうさ」
兵士たちが調査だと叫びながら教会へ入っていくのに、一二三は無表情でついていった。
中にいたイメラリア教の者たちから得られた情報はわずかだったが、オージュや赤子を連れた男たちが訪れたら何も聞かず宿泊させるように伝えられていることはわかった。
だが、この教会には立ち寄っていないらしい。
「次へ向かいましょう。他の村などは我が国の兵士が調査しており、逐次情報が届くようになっています。何か見つけたら最優先で一二三様にお伝えすることになっております」
話している兵士を、一二三はじっと見ていた。
「……何か?」
「いや、続けてくれ」
「はっ。では、次の町へ向かいますので、駅へどうぞ」
一二三のために列車を止めているという。サウジーネが一二三をどれだけ刺激したくないのかがわかり、オリガはにっこりと笑った。
☆★☆
王都のイメラリア教本拠地で最も大きな拠点はホーラント王国本部教会だ。
そこへはミキが十名ほどの兵士を引き連れて訪問した。
というより、襲撃した。
「責任者は?」
突然の兵士乱入に騒然とする教会内。ミキは壇上にいた一人の人物を引き倒して踏みつけ、見下ろしながら問う。
「い、一体、これは……」
「答えなさい」
ミキは長かった髪をバッサリと切り、ショートヘアにして全身の要所にプレートアーマーを付けた格好で両手に細い剣を握っていた。
そのうちの一振りを喉元へと押しあてたまま、再び問う。
「あ、あなたは……?」
「ゆ……女王陛下の直属部隊よ」
ミキは勇者という肩書を捨てた。誰一人救えない自分が名乗るには重すぎる名前だったからだ。
「責任者は、私です……」
ミキを見上げている男は怯えている。
「では、これからの質問に素直に応えなさい」
懐から一枚の似顔絵を取り出したミキは、男性の眼前へと押し付けるように近づけた。
「この子を連れた、もしくは別の赤子を連れた者たちを見ていないかどうか。それと、イメラリア教本部からの指示を全て吐きなさい」
こうして、王都周辺から魔国国境へ向けてミキは調査を進め、一二三たちは魔国国境側から王都方面へ向けて調査を進める。
その他にも、列車を使って一気に広がった命令に従い、各地に配属されている兵士たちは一斉にイメラリア教の施設へと捜査を始めた。
その中で一か所、完全な空振りに終わった場所があった。
正確に言えば、誰一人生き残っていない施設があった。
「……王都に連絡を。可能な限り急げ!」
応援も同時に要請しろ、と叫んでいる部隊長の視界には、十数名の死体が無残に転がっていた。
場所はとある農村にある教会であり、死体は全て村の信徒たちのものだと判明した。
そして、怪しい二人組が出入りしていたという目撃情報と赤子の声を聞いたという証言が入り、村を担当する地方部隊はさらに慌ただしく動き回ることになる。
目撃された者たちを見つけ、連絡することが至上命令であると通達が回ってきたからだ。
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