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179.女王の判断

179話目です。

よろしくお願いします。

 復旧が始まった列車が使えたことで、一二三の使者となったアルダートは近くの町から数日でホーラント王都へ到着した。途中、冒険者ギルドへイルフカたちへのメッセージを残し、とにかく先を急いだ結果でもある。

 列車が開通していないエリアは馬を使い潰す勢いで乗り継いできた。

 それだけ、一二三が渡した資金は潤沢だった。


 そうして訪問したホーラント王城にて、事情を聞いた番兵からの連絡を受けたサウジー根は、まず腹心であるサカトと、ホーラントへ転向した貴族ランスロット・ビロンに話を聞かせることにした。

 彼らは事情を聞き、一二三からの手紙も精査したうえでサウジーネへと報告する。

「選ぶべきは一択です。協力しましょう」


 それが、ランスロットの意見だった。

「報告も手紙も、内容は一致しています。“子供を探すから邪魔するな”です。触らないというのも選択肢の一つですが、このままホーラント国内で彼が……いえ、かの夫婦が自由に動き回ることで受ける影響は無視できません」

「では、協力と言ってもどのような方法がありますか?」


 サウジーネは女王としての落ち着きが出始めていた。

 今では部下たちを信頼して仕事を任せるという態度が板についてきて、同時に部下から広く意見を聞くということも意識して行っていた。

 これも相談役であり護衛として雇っている勇者ミキから得た知識によるものだ。

 そのミキは現在、とある件で城を出る準備を行っている。


「彼の子、ハジメを捜索するのにホーラントから兵を出すのです。全ての町や村に通達を出し、それらしい人物や怪しい者を探すのです……」

「しかし、それでは国民に混乱を招くのではありませんか?」

 慎重論を口にしたのはサカトだった。

 彼は王の側近として昇進したが、立場上常に慎重であろうと構えており、ともすれば過激な策を献ずるランスロットとのバランスをとる役割を担っていた。


 一二三さえ来なければ、そのまま五年後に起こりうる混乱に対してじっくりと対応を協議することができたはず、とも考えられた。

 だが、実際はホーラント国内、正確には城内ごく一部で大きな問題が発生していた。

 ミキの娘であるリオが、何者かに誘拐されてしまったのだ。

 今朝方発生した事件であり、ごく一部の者だけが知らされている。


 捜索のためにミキが密かに出立することになっており、僅かな供を連れて旅に出る彼女と、別に捜索隊を組織して王都内から調査を進めることになっていた。

 その準備中に、一二三が入国したという知らせが来たのだ。

「だからこそ、です」

 ランスロットはサカトの意見に頷きながら答えた。


「一二三という人物を口実にして、被害を最小限に食い止めるために大々的な捜査網を敷きましょう。そうすることで、リオも発見できる可能性が高まります」

 ハジメの捜索を隠れ蓑にして、城内のスキャンダルでもあるリオ誘拐の件を密かに片づけてしまおう、というのがランスロットの意見だった。

 これには、サカトも閉口する。


「勇者ミキ様と魔王一二三の間には、遺恨があられますが……」

 文字通りの殺し合いを行った二人であり、ミキにとって一二三は仇でもある。

「あえて無視するべきでしょう。今重要なのはそこではなく、二人の赤子の無事です」

 サカトとランスロットの言葉を聞きながら、サウジーネはじっと考えていた。

 ハジメとリオは同じ勢力に誘拐されたのではないか。ランスロットはまだ口にしていないが、サカトもわかっているだろう。


「……ハジメちゃんを誘拐したのがイメラリア教の勢力であるとわかったことは、重要なヒントだと考えます。恐らく、リオちゃんも同じくイメラリア教に誘拐されたのでしょう。目的はわかりませんが……」

「推測は可能です、陛下」

 ランスロットはそう言いながらも、あまりすぐれない顔色を見せている。良い内容の推察ではないのだろう。


「教えてください」

「はっ。……先の内戦時にも散見されたように、イメラリア教は人間の種族因子を混ぜ合わせることで強力な兵士を作り出す技術を持っているようです」

 サカトが眉をひそめた。前置きだけで内容がわかったからだ。

「恐らくは、ハジメもリオ殿も強力な人物の血を継ぐ者として、教会が狙ったのではないか、と」


「人道とは何かを考えさせられる話ですね」

 吐き気すら覚えそうな内容だったが、サウジーネは否定しなかった。

「……私がミキさんと話をします。サカトさんは、すぐに全国へ伝令を送れるように準備を。それと、報告を持ってきてくれた冒険者はどうしていますか?」

「城内で待たせております」


 返答を送る必要があろうかと思いまして、とランスロットは応じた。

「よろしい。では、ミキさんと話してから彼らに直接依頼をしますから、待たせておくようにしてください」

「かしこまりました」

 サウジーネがミキの下へ向かうと同時に、サカトとランスロットも動き始めた。


 約一時間後、ホーラント城から多くの兵士が伝令として駆けていった。

 そして、その中にはアルダートとミンテティに先導される形で、ミキの姿もあった。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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