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178/204

178.夫婦そろって

178話目です。

よろしくお願いします。

 アルダートたちと共に山道を急いでいた一二三たちが、オリガを発見するのに大した時間は必要なかった。

 座り込んだまま眠っているオリガに向かい、背後から密かに近づいた一二三。

 しかし、接触直前に覚醒したオリガは握っていた鉄扇を振り向けながらローブを翻して振り向いた。


「何……あなた!?」

「おう。まさか気付かれるとは思っていなかった」

 正確に喉元を狙ってきた鉄扇を指先で摘まんで止めたまま、一二三はオリガの動きの良さを褒めた。

「そんな……私など、まだまだです」


 そう言いながらも、オリガは一二三が突き出していた短刀の刃に対して腕のナイフを当てて止めている。

 二人とも口調は穏やかだが、互いの一撃は確実に敵を葬らんとする必殺の勢いと鋭さを持っていた。

「お帰りなさいませ。ソードランテはいかがでしたか?」


「ああ。それなりに楽しめた。だが、城も無くなったし、軍もかなりの部分を殺してしまった。五年後に向けて少し削り過ぎたかもな」

 どうやらウィルの奴もめちゃくちゃやってくれたらしい、と一二三は楽し気に、しかし不満も漏らしていた。

「ああいう“奥の手”があるとはな。ウィルのモンスターと戦ったことがあるが、まだまだ楽しめそうだ」


 それで、ハジメの件はどうなったか、と一二三が問うと、オリガは顔を伏せた。

「申し訳ありません……首謀者であるオージュを殺害してしまいまして……」

 オリガは言い訳になりそうなことは話さず、ただ状況だけを伝えた。

「そうか」

 と、一二三は短く答える。


「問題はこれからどうするか、だな」

 そう言って一二三はオリガの責任を問う真似はしなかった。同じ状況に置かれた時、一二三でもオージュを殺す判断をしていただろう。

「ですが、ここはすでにホーラント王国領内ですよ」

 ここでようやく口をはさんだのは、一二三についてきていたアルダートだ。


「魔国なら一二三さんは王様だからどうとでもなりますが……」

「じゃあ、直接話をつけに行けば良い。……そうだ、丁度良い」

 一二三はアルダートだけでなく、同行している猫獣人のミンテティも呼び寄せた。

「なぁに?」

「一つ依頼をしよう」


 一二三は闇魔法の収納から紙と筆記具を取り出すと、微妙に下手な字でさらさらと何かを書きつけ、サインをして折りたたんだ。

 通常なら筒状にして封蝋をするところだが、一二三はどうにも紙は畳むものだという認識を捨てきれずにいる。

「こいつをホーラントの女王サウジーネに届けてくれ」


 手紙と合わせて大金が詰まった袋を押し付けた一二三にアルダートは驚いて、思わず素直に荷物を受け取ってしまった。

「……で、一二三さんはどうするのです?」

「決まっている。オリガと一緒にハジメを追う」

「あなた……!」


 一二三の口から出た“一緒に”の言葉に感激したらしく、オリガは足の痛みも忘れて立ち上がり、胸元を押さえたまま瞳に涙をためていた。

「て、手紙の内容は?」

 断ることは不可能だと判断したアルダートは、聞かずとも良いはずのことを聞いた。自分の危険度を確認したかったのだ。


「簡単なことだ。俺も一国の王として礼儀をわきまえておくべきかと思ってな」

 一二三は開いた収納の中へと筆記具を乱暴に放り込みながら笑っている。

「今からホーラント内をあちこち回って、実力を持って息子探しをするから、協力するか敵対するかを選べ、と書いてある」

 最初に選択肢を与えるあたり、丁寧だろう、と一二三はアルダートへとほほ笑む。


「王として素晴らしい振る舞いです」

 と言って褒めたのはオリガだけであり、アルダートとミンテティは絶句していた。

 手紙を受け取った女王サウジーネは狼狽するだろうか、それとも達観してなすがままにするだろうか。

 いずれにせよ、気が重い仕事だとアルダートは背負った荷物の中へと手紙を丁寧に仕舞った。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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