175.舞台へ
175話目です。
よろしくお願いします。
「血の匂いがする。少し時間が経っているな」
「どんな鼻しているの……」
山道を抜けている途中、犬獣人のクレより先に血の臭いを嗅ぎつけた一二三に、猫獣人ミンテティが驚きを通り越して呆れていた。
「何人か、死んでいるな」
冒険者たちは無視してずんずんと前へ進む。
そうして、草むらをかき分けて死体を見つけた一二三はほくそ笑んだ。
「冒険者だな」
携帯食料と予備の武器をしっかりと装備し、野宿のための道具も揃えている。しかし商品などは持っていないあたりが、冒険者だとわかる目印だ。
「こいつら……」
アルダートが死体を検分し、交代予定だった者たちだと確認する。
「間違いありません。俺たちは彼らと交代する予定でした」
「ということは、この道で間違いないわけだな」
追われているオージュが始末したことは間違いない、と焼け焦げた傷口を見ていた一二三は結論付けた。
「オリガも追っているのだろうが、先行している可能性が高いな」
「ま、待ってください」
先を急ごうとする一二三を、アルダートが慌てて止めた。
「この状況を魔国の依頼主に伝えないと……」
「なら、好きにしろ。俺は知らん」
依頼をかけたのはウェパルであって一二三ではない。彼らの都合など関係ないのだ。
そして、アルダートも迷っていた。実質、一二三やオリガが敵を見失わないために雇われているので、報告は不要かとも思える。
しかし、依頼としてはギルドを通して魔王城へと報告を入れることになっているので、それがなされなければ仕事としては失敗となるかも知れない。
「……クレ、イルフカ。町へ戻ってギルドへ報告を。ミンテティ、俺たちは一二三さんについていくぞ」
迷った末にチームを分けることを選択する。
魔物がいる可能性もあるが、二人いればそこそこの魔物が出ても問題なく倒せるし、勝てない相手ならば逃げるくらいはできる。
そして同時に、一組の冒険者チームがやられたことをギルドに伝えて遺体の回収も依頼しなければならない。
布をかけておくにしても、急がねば死体は魔物に食い荒らされてしまうだろう。
「一二三さん。俺たちも同行させてください。ギルドからの終了指示があるまで、まだ追跡の依頼は続きます」
「好きにすれば良い」
するりと歩き始めた一二三に、アルダートとミンテティが続く。
同時に、クレとイルフカが来た道を引き返していく。
「……なんか、不安だよねぇ」
一二三の背中に不穏な者を感じたミンテティが呟いたが、アルダートは何も言わなかった。
☆★☆
追われているオージュの方は、ホーラント国内で人気の少ない道を選んで進み続けている。
すでに三日間歩き続けているのだが、その足取りに衰えは見えない。怪我が癒えたとはいえ、女性としては驚異的な脚力だ。
そして、追っているオリガもそれは同じだった。
休息もろくに取れていないが、それでもオリガの執念は尽きることを知らない。
「……止まった?」
あぜ道のような狭い道が分かれている場所でオージュが立ち止まり、周囲を見回している。
見つかったか、とオリガは思ったが違ったらしい。
どうやら、目的の方角を確認していたらしい。
オージュは通りを逸れて路地の方へと踏み込んでいく。その足取りはしっかりしているものであり、また先ほどよりも落ち着いていた。
それを見て、オリガは目的地が近い、と知る。
腕に仕込んだ魔法媒体のナイフを固定しなおして、鉄扇もしっかりと握った。
「……いよいよ、ですか」
ハジメの無事を確認し次第、オージュとその一党を全て殺す。オリガは確定事項を再度頭に思い浮かべた。
それが終わり次第、オリガは一二三に相談するつもりでいた。
見せしめとしてイメラリア教を壊滅させることを。
路地を進んだ先に、小さな小屋が見えて来た。
本来は炭焼き小屋なのだろうが、表に置かれた道具は古く木製部分は朽ちてしまっている。だが、壁や屋根は修理されているようだ。
エコーロケーションでオージュが小屋の中に入ったことを確認する。同時に、小屋の中に大人が数人と赤ん坊が一人いることが感知できた。
「見つけました」
小屋へと慎重に近づきながら、オリガはじりじりとした焦燥感を覚えつつも、呼吸を整える。
「敵は殺す」
いつからか心に刻まれた“大原則”を声に出す。
それだけ、オリガは一二三の存在を感じることができた。
そうすることで、存分に戦うことができる気がするのだ。
見張りは立てていないらしい。
そっと、オリガは小屋に貼り付いて中の様子に耳をそばだてた。
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