171.追跡行へ
171話目です。
よろしくお願いします。
甚大な被害を受けたソードランテだったが、予め指名されていた後継者による町のとりまとめが行われたことで、早期に落ち着きを見せた。
城に対して攻勢に出た反対派は戦闘の騒動の中で指導者を失ったソードランテ兵士たちの反撃を受けたことでほぼ壊滅状態に陥り、結果として獣人至上主義の政府が残った形となった。
しかし、決して無傷というわけでは無い。
失った将兵はかなりの数にのぼり、一二三に対する憎悪は募るものの独自での対抗は不可能と後継者たちは判断。イメラリア共和国やオーソングランデ皇国との連携も視野にいれた方向へと舵を切ることになった。
最終的に、一二三の望む方向へと移っていた。
ウィルを連れて早々に魔国へと帰った一二三は、途中の町で治癒を受けながらも体力の問題でしばらくは安静となったウィルに護衛としてヴィーネを貼り付けさせたあと、ウェパルから状況の説明を受けていた。
「誘拐?」
「そうよ。ハジメちゃんが連れ去られて、追いかけたのだけれど……」
一二三はハジメのことを案じている部分もあるようだが、それよりもオリガが撃退されたという部分が気になった。
「オリガさんの実力というよりは、相手に痛いところを突かれたというかたちね」
言いながら、ウェパルはふと気になった。
ハジメの命を盾にされた時、母親であるオリガは躊躇したが、もしそれが一二三相手であったらどうなっていただろうか。
「どうした?」
「一つ疑問が……いえ、なんでもないわ」
聞いたところで、躊躇するという答えであれば良し、そうでなければウェパル自身もどのような気持ちになるか想像がつかない。正直に言えば、怖かった。
恐ろしい相手だと思いつつも、どこか人間臭い情を残した部分があるというのがウェパルの一二三評なのだが、それが崩れてしまうかも知れない。
ウェパルはぎこちない笑いでごまかし、改めてオリガとオージュが対峙した状況について説明する。
一二三はじっと目を閉じたままウェパルの話を聞いていたが、オリガがハジメを追って単独行に出たことを聞くと、目を開いた。
「オリガはどうするつもりだ?」
「分からないけれど、彼女がそうすると言ったら、この城の連中じゃ止められないわよ」
「ふぅん」
ウェパルから分けてもらったパウダーで再構成した左手をギシギシと開閉して、一二三は気のないような返答をする。
「敵ははっきりしているわけだ」
「ええ。でも、素直に教会本部に連れていくとは思えないし、ハジメちゃんの能力を考えたら早く助け出すにこしたことはないんじゃないかしら」
そのために、オリガは待ち伏せではなく追跡を選んだのだ。
「まあ、わかった。オリガが向かった方向を教えてくれ」
魔国で調達した刀に似せた片手剣を腰にぶち込み、一二三は立ち上がる。
「追う?」
「当然だ」
「……父親として?」
口を出た質問にウェパルは若干の後悔を覚えたが、聞いてしまったものは仕方がない。
「わからん」
対して、一二三の答えはあいまいだった。
「父親という実感に薄いのかも知れないが、とりあえずハジメがどうなっているかが気になるというのはある」
「そう。でも、それが父親というものじゃないかしら?」
自分には子供がいないのでわからないが、とウェパルは一言はさんで続ける。
「とにかく、間違いないのはハジメちゃんが貴方とオリガさんを待っているのということよ。父親らしいことをほとんどしていないでしょう? 良い機会じゃない」
「そうだな。それにしても……」
部屋を出ようとした一二三が振り向く。
「そんなことを言っていると、余計に老けて見えるぞ」
「失礼ね!」
ぷりぷり怒ったウェパルが一筋の水を一二三の顔へと飛ばした。
「わたしはまだ若いわよ」
一二三には簡単に躱されてしまったが、水流は壁に小さな穴をあけるほどの勢いがあった。
それを見て、一二三が笑う。
「そのようだ。じゃあ、後は任せた」
「ええ」
ウェパルは座りなおして、一二三をまっすぐに見た。
「気を付けていってらっしゃい。ハジメちゃんをちゃんと取り戻すのよ」
「わかっている」
先行したオリガを追いかけて、一二三も魔国の王都を密かに出ていく。
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