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169/204

169.脱出へ

169話目です。

よろしくお願いします。

「あーっはっはっは!」

 一二三は思う存分状況を楽しんでいる。

 巨大なモンスターを倒した兵士たちは勢いづいており、瓦解して逃げ出そうという動きは無かった。

 誰もが血走った眼で一二三を目掛けて殺到し、そして死んでいく。


 いや、ただ死ぬのではない。一二三の相手として、彼の心を満たすために死んでいく。

「うぬぅ!」

 勢い込んで身体ごと槍を突き付けてきた兎獣人の男は、一二三の持つ短刀の峰で槍先を救い上げられ、がら空きになった胸に刃を突き立てられた。

「おのれ……」


 憎悪の目が、光を失っていく。

 それを真正面から見ながら、一二三は手首の無い左腕を振るって、後ろから爪で攻撃してきた虎獣人の手のひらに肘を打ち当てた。

「あぐっ!?」

 衝撃で手首を砕かれた虎獣人は、たたらを踏んでいる間に脳天に追撃の肘を受けて昏倒する。


 倒れた虎獣人を数人の兵士が踏みつけ、味方を踏み殺したことにも気づかず次々と一二三へ迫ってきた。

「こいつは魔法を使わない! 全員で押しつぶせ!」

 ずっと観察していたのか、それとも一二三のことを調べていた人物なのか、誰かが一二三の弱点ともいうべきことを口にした。


「使わないわけじゃないけどな」

 と、一二三は足元に闇魔法の収納口を展開した。

「うおっ!?」

 生き物は入れないが、無機物は通す。靴底を吸い込まれ、僅かな段差にバランスを崩し、自分に向かってくる相手を一二三の短刀が斬り裂いた。


「どの程度残すかな」

 最初から、全員を殺そうとは考えていない。

 彼らの憎悪をしっかりと自分へ向けたところで、そして今の一二三の強さを十二分に伝えたところで撤退する。

 そうすることで、五年後の戦いに“目標”を作らせるのだ。


 減らしすぎては敵の力が弱まってしまう。かといって、残しすぎても甘い見積もりで攻めてくるかも知れない。

「とはいえ、そう余裕があるものでもないな」

 ちらり、と一二三がウィルを抱えるヴィーネを見た。

 怪我をしているウィルは言うまでもなく、ヴィーネの方も休息をとったとはいえ疲労は残っているだろう。


 とはいえ、左手が無い状態で武器も短刀や寸鉄などリーチが短い物しか残っていない。

 敵の剣を奪うという手もあるが、と一二三はふと自分の足元にも魔導陣があることを思い出した。

 特殊な塗料からは魔力がすっかり抜けきっているようだが、塗料そのものは溝の中に残っている。


「ひょっとすると」

 一二三は城内で自分の魔力が籠ったパウダーで魔導陣を作ったことや、以前に魔導陣へ魔力を送るのにパウダーで形作られた左手を伸ばして使ったことを思い出した。

 膝を突いた一二三が、どん、と左手首を魔導陣の一部に押し付ける。

「今だ!」


 一二三が疲労で膝を突いたと思ったのか、殺到した兵士が短刀で切り刻まれた直後、さらにその周囲にいた兵士たちもバラバラに切り刻まれた。

「ご、ご主人様?」

「ボチボチ町を出るぞ。ウィルを背負ってついてこい」

 ヴィーネが尋ねたかったのはそういう内容ではなかったが、ウィルを助けるのに異論はもちろん無い。


「わかりました!」

 と、とりあえず一二三の異変には目を瞑り、ヴィーネはウィルの軽い身体をひょい、と抱えあげた。

 背中に背負っていると攻撃を避けることができないので、胸の前に横抱きにする形だ。

「さぁて、これの使い心地を試してみるか」


 一二三は、左手から四方八方に伸びる魔力塗料をぐりぐりと変化させながら、刻まれた死体によって舗装された道を進み始めた。

お読みいただきましてありがとうございます。


申し訳ありませんが、活動報告に書いた通り小さなお店を開業します。

間もなくプレオープンでばたついているため、数日更新をお休みします。

なるべく早く再開しますので、次回もよろしくお願いします。

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