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166.帰還への模索

166話目です。

よろしくお願いします。

「さて、どうするか」

 城内に残っていた敵を残らず殺害してしまった一二三は、血で汚れずに済んだ食堂で、椅子に腰を下ろした。

 その隣では、疲労困憊のヴィーネが並べた椅子に横たわって寝息を立てている。

 厨房に多少残っていた水と食料を腹に収めながら、一二三は現在の状況を確認する。


 厨房から城の裏へ出る扉を開いて見たが、その先は黒々とした闇が広がり、何かの気配も魔力も感知できない。

 何もない、ということだけが一二三の感覚を空虚に刺激した。

「世界から切り離された場所、か」

 時間の流れがどうなっているのか、空気などはどうなのか、気になるところは多々あるが、今の時点で身体に不調は無い。


 むしろ、城内にいた精鋭たちはそれなりに強く、傷こそ負わなかったものの服は複数個所が切られており、心地好い疲労感もあった。

「ここから出る方法、か」

 考えてみれば、次元を超えて世界を移動したのはこれで何度目だろうか?

 一二三は自分の運命の激しさに思わず笑みがこぼれた。


「誰も経験したことのない人生か」

 思えば、武技を身に着けながらも存分に振るう機会を窺って、悶々としていた最初の世界から随分と周辺は変化した。

 自分が誰かと所帯を持つとは想像もしていなかったし、子までもうけるとは思っていなかった。


「だが、これで終わりというのは味気無い」

 強くなるだろうと踏んで生かした結果、半端な結果のまま逃がしてしまった勇者ミキ、勝利のために非人道的な方法も厭わない旧イメラリア教の勢力。そして妻でありながら最大のライバルでもあるオリガ。

 それらとの決着が―――たとえ一二三の死で終わろうとも―――ついていないまま、静かに生を終える気は毛頭ない。


 一二三は食堂のテーブルを部屋の端に横倒しにして立てかけ、広い場所を確保した。

 床は磨き上げられたフローリングになっており、何度も掃除をしているうちにつやつやと白っぽく輝いている。

 そして、乱暴に手袋を外して真っ黒なパウダーで形作られた左手をあらわにすると、ゆっくりと握りしめ、開く。


 形は以前に自ら切り落とした左手そのままだが、パウダーを固めたさらさらとした表面は、人体のそれとはまるで異なる。

 しかし、一二三は長い間この状態を保っており、たとえ眠っていても元の手と変わらないように形を維持したままでいられた。

 それを今、解除する。


「……たしか、こんな感じだったな」

 魔力を操って零れ落ちそうになるパウダーを押しとどめる。

 細い糸のように伸びた黒い粉。

 それが床に落ちたかと思うと、何かの生き物のように床を這いまわり、細い線で円陣を描き出す。

 それが終わると、縁の中に憶えている限りの幾何学模様を描いていく。


 一二三の頭の中にあるのは、魔人族の城で罠として用意されていた魔法陣。どこへ飛ばすかわからないという代物だったが、あれだけは妙に頭に記憶されていた。

 自分の周囲に魔法陣を描き終えると、一二三は眠ったままのヴィーネを抱えて陣の中央に陣取り、座り込む。

「あとは、待つだけだな」


 魔導陣を描いているパウダーには一二三の魔力がしっかりと流れている。

 不思議とどこか遠い世界との繋がりを感じさせるが、何かの門が開いたり、穴が開いたような感覚は無い。

 これ以上は一二三の知識では不可能だ。

 ヴィーネが起きたら聞いてみることもできるが、そういった勉強をしていたかどうかは疑わしい。


「仕方ない」

 隣にヴィーネの身体をそっと横たえた一二三は、座禅を組み、丹田の前で優しく両手を重ねると、そっと目を閉じた。

「ウィルがどうしていたか思い出してみるとしよう」

 大きく深呼吸をして、一二三は帰還のヒントを探すため、さらに魔法陣を組み替えるために記憶を掘り起こす作業へと没入していく。

短くて申し訳ありません。

次回もよろしくお願いします。

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