160.腹ごしらえ
160話目です。
よろしくお願いします。
ハジメを連れ去ったのは三名の獣人族。
獣人族ではあるが、イメラリア教が作った“混ぜもの”の中でも数少ない成功例であり、それぞれに異なる獣人族の因子を持っている。
彼らのうち二名は今、地面を這っているハジメを遠巻きに見ながら協議していた。
残りの一人は、ハジメの近くで墜死している。
「……一体、何がおきたんだ?」
「わからん。魔王の息子だからな。何かをやったんだろうが……」
「まだ立つこともできない赤子がか!?」
墜落した鳥獣人は、複数の鳥族の獣人を掛け合わせて作られた人物で、静かな飛行と二人を抱えて飛べるだけの力を兼ね備えていた。
彼らは鳥獣人に捕まって高空から城の上部にとりつき、兵士や侍女を殺害してハジメを誘拐することには成功した。
その帰途で、彼らがぶら下がり、かつハジメを抱えていた鳥獣人が突然失速したかと思うと墜落したのだ。
ハジメは奇跡的に無傷だったが、無防備に転落した鳥獣人は死んでしまった。
「なんて危ねぇガキだ。ここで始末した方が良いんじゃないか?」
「おい、殺すのはまずいぞ。どうにかして連れ帰らねぇと」
彼らの任務はハジメを誘拐してイメラリア教本部へ連れていくことだった。鳥獣人さえ無事であれば然程苦労も無い任務のはずだったが、予定はこの時点で完全にくるっていた。
少なくとも、ハジメの特性についてはイメラリア教も詳しくは掴んでいなかったらしい。
この作戦はオージュの指揮によるもので、真正面から攻め入ったウワンには伏せられていた。何か問題があっても、ウワンたちに助けを求めることも許されていない。
「でもよ、早くしないと魔国の連中に見つかっちまうぞ」
場所は城から百キロほど離れた場所ではあるが、国境はまだ遠い。
列車を使うことも可能だが、ハジメの攻撃について内容が不明な以上、人目が付く場所は避けたかった。
「冷静に考えよう。さっきは、直接触れていたあいつだけがやられたんだ」
虎と熊の特性を合わせた筋肉質な男が鳥獣人の死体を指差した。
「だったら、直接触らなければ大丈夫じゃないか?」
ハジメがじわじわと興味が向く方向へと這っていくのを徒歩で追いかけながら、二人の獣人族は相談を続けた。
結局、通りがかった馬車を調達して板か何かでハジメを挟んで荷台に放り込み、そのまま非正規の道を通って国境を越えるという選択になった。
「国境警備兵に当たったら面倒だな」
「仕方ないだろう。その時は全員殺せば良い」
その前に、と鳥獣人の死体を掴んだ獣人が死体を遠くに放り投げた。
川の中に落ちた音が聞こえ、これで良い、と獣人たちは頷く。
「じゃあ、行くか。……ほーら、ほら。こっちへおいで~」
「なんだそれ」
「街道から逸れたら、馬車も見つからねぇだろうが。どうにかして街道上で誘導しねぇと」
こうして、武器を持った屈強な男二人が、ハイハイする赤子を気持ちの悪い笑みと上ずった言葉遣いで誘導すること三時間。ようやく通りかかった馬車を奪い取り、彼らはようやく国境へと向かい始めた。
☆★☆
「はぁ、はぁ……」
ヴィーネの体力が限界に近付きつつあるころ、ようやく一二三たちは目的の場所へと到達した。
謁見の間の正面は兵士が詰めておらず、その周囲には殺気立った者たちが一二三たちを睨みつけつつも、手を出さずにいる。
「罠らしい罠は、ここまで出てこなかったな」
「ということは、ここに罠があるのでしょうか?」
一二三の言葉にヴィーネが問うと、おそらくな、という言葉が返ってきた。
「さて。どうやら周りの連中はここに誘導することが目的だったらしいな。そして、たどり着いたら中に通せ、とでも言われているのか」
一二三の疑問にソードランテの兵士たちは答えることは無かった。ただただ、一二三たちの様子を睨みつけている。
「さて、そういうことなら」
大きく息を吐いた一二三は、その場に座り込んだ。
「少し休憩するか。腹も減ったし」
「あ、はい。わかりました」
ヴィーネも素直に従って、謁見の間通じるらしい重厚な扉の前で一二三同様腰を下ろす。
「お前も食っておけ」
闇魔法の収納からどさりと食料を出した一二三は、手近にあった分厚い肉を挟んだパンを掴み取ると、ヴィーネにも好きなものを食べろ、と勧めた。
「わあ、ありがとうございます」
戦い詰めで空腹だったヴィーネは、串が刺さった焼き魚を掴んで食べ始めた。
敵中で突然食事を始めた二人に、周囲にいるソードランテ兵たちは戸惑いと同時に怒りを覚えたらしい。
「ふざけているのか!」
と、一人が叫んで剣を掴んで飛び出したが、直後にはその兵士の額に手裏剣が突き立っていた。
「馬鹿なことを言うな。ちゃんと準備をして全力でやってやるというだけだろうが。そんなに気になるなら、お前らも飯を食って来い。戦いに参加する気があるなら、全力で戦えるように用意をして来るのが礼儀だろうが」
そう言いながらも最初の三度を食べ終えた一二三は、水筒から水を飲み、次にどこかの町で手に入れた野菜大盛りのサラダを食べ始めた。
「良いのかなぁ……」
周りから見られながらの食事もそうだが、扉の向こうで待っているだろう敵のことを想うと、今一つ落ち着かないヴィーネだった。
「あ、ご主人様、これ食べても良いですか?」
「好きにしろ」
「やった。ありがとうございます」
出された食料の中に甘そうなお菓子を見つけて、一二三の許可もとれたヴィーネは、とりかえず敵のことを考えるのはやめた。
お読みいただきましてありがとうございます。
次回もよろしくお願いします。
※最近多忙のため、短くなって申し訳ありません。
今月後半は更新お休みが増えるかと思いますが、ちゃんと最後まで書きますので、よろしくお願いも吸い上げます。




