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159/204

159.それぞれの役割

159話目です。

よろしくお願いします。

「ハジメちゃんの件? なのにオリガさんじゃなくてウェパルから呼び出し?」

 研究室に籠っていたウィルは、ウェパルの指示で連絡に来たと言う魔人族兵に向かって首を傾げた。

「私にも詳しいことは聞かされておりません。とにかく、お越し願えますか?」

「わかった」


 そうして案内されたのは、オリガの寝室だった。

「どうなっているの」

 眠っているオリガと彼女を見ていたウェパル。そしてどうにも沈んだ様子の侍女たちを見て、ウィルは眉を顰める。

「ウィル。ちょっとお願いがあるのだけれど」


「……その前に状況を説明して」

「そうね。わたしとしたことが、どうにも動揺しているみたい」

 落ち着きましょう、とオリガが眠っていることを確認して、ウェパルは室内にあるティーテーブルにウィルを促した。

「他の部屋に移った方が良いんじゃない? 勝手に使ったら怒られるわよ?」


「心配ないわ。オリガさんは魔法で眠っているから早々起きないし、状況が状況だから、誰かが見ていた方が良いのよ」

 侍女に紅茶を頼んだウェパルを、ウィルが急かす。

「それで、ハジメちゃんは?」

「……誘拐されたわ」


「なっ……!」

 思わず立ち上がったウィルに落ち着くように伝え、ウェパルは運ばれてきた紅茶に口を付けた。

「はあ……お酒じゃないのね、珍しい」

「酔ってられないわよ。詳しい状況を話すから、落ち着いて聞いて」


 頷いたウィルが紅茶に口を付けると、ウェパルは説明を始めた。

 外で警備をしていた兵士数名の死体が城の屋根から発見されたことから、敵は少数ながら腕の立つ者たちだと思われた。

 恐らくはソードランテの者たちがやったように鳥獣人と共に飛来して兵士や侍女を殺害し、ハジメを連れ去ったのだろう。


「いくら兵の多くが外に出ていたからと言っても、警備が甘いんじゃないの?」

 城にいたウィルも自分が連れ去られる可能性があったのだ、ウェパルは素直に頭を下げて警備の甘さをわびた。

「本当に反省しているわ。……もちろん、オリガさんが今の責任者ではあるけれど、元はわたしの城だもの。もっと気を配るべきだったわ。ごめんなさい」


「ちょ、ちょっと……いつもの調子で堂々としていてよ、やりづらいったらないわよ……」

 自分のことはもう良いから、とウィルは目を逸らす。

 その視線の先には、ベッドで静かに寝息を立てているオリガの姿があった。

「オリガさんは……」

「ちょっと取り乱しちゃったのよ」


 それ以上は言わないウェパルに、ウィルは何かを察してオリガについての話は避けた。

「捜索隊を出しているけれど、多少いる獣人族を混ぜても空を飛ばれたら臭いで追うのは難しいみたい」

 人海戦術を取らざるを得ない、とウェパルはため息交じりに言う。

「申し訳ないのだけれど、貴女にも協力をお願いしたいの」


「何をすれば良いの?」

 拒否など考えられない、という様子で問うウィルにウェパルは微笑み、礼を言う。

「ありがとう。……捜索のために貴女が召喚する魔物を貸して欲しいの」

「待って。一二三には? あいつにすぐ連絡しないと駄目なんじゃない?」

「連絡隊を送る予定よ。荒野を越えるのにそれなりの戦力は必要だから」


 ウェパルの答えを聞いたウィルは「ちょっと待ってて」と言って部屋を後にした。

 それから十五分ほどで戻ってきた彼女は、大きなかごに大量の魔導球を詰め込んで、おぼつかない足取りで侍女に扉を開けさせて入ってきた。

「一二三への連絡役は任せて。あたしなら護衛もいらないし馬車や列車よりも早く移動できる」


 足の速いモンスターに乗って移動することで、襲われるリスクも減る、とウィルは豪語する。

「でも……」

「念のため、ウェパルが用意する連絡役も出発させておけば良いのよ。それに、はい」

 かごの中の魔導球を五つポーチへ放り込んだウィルは、残りをかごごとウェパルへと押し付けた。


「魔力を通せば発動するから。その時に攻撃とか捜索とか目的を念じておけば、それが得意なモンスターが呼べる! ……はず!」

 相手を指定して呼び出す研究の副産物だが、まだ試したことは無いらしいが、ウィル的には自信があるらしい。

「大きさはわからないから、野外でやってね。魔導陣を壊したら強制的に元の世界に戻せるから、目的が終わったらそうやって帰してあげて」


 今ある全ての魔導球を持ってきた、というウィルに、ウェパルは困惑していた。

「良いの?」

「良いのよ。ハジメちゃんが寂しがっていると思うから、すぐに動かなくちゃ! それにね……」

 のしのしと歩いていくウィルは、眠っているオリガを見下ろした。


「なにするつもり……」

「起きて! オリガさん! このままじゃ一二三に怒られるよ!?」

「魔法で眠っているのだから、その程度じゃ……えっ?」

 窘めようとしたウェパルは、引きつった声を出して驚いた。

 一二三の名前が出た途端、オリガの目がカッと見開かれたのだ。


「……ウィルですか。一二三様のお名前を出して何を……」

 話しながら覚醒してきたオリガは、自分が倒れる前に何が起きたのかを思い出したようで、だんだんと蒼白になって行った。

 勢いよく起きたオリガをかろうじて躱したウィル。その肩をオリガが掴む。

「今、どうなっていますか?」


「ウェパルさんが捜索隊を出してる。あたしは今から一二三に会いに行って、状況を伝えに行くところ」

「……では、謝罪として私の首を手土産に……」

「わあ~!? 待って、待って!」

 袖口から隠していたナイフを取り出したオリガを必死で止めたウィルは、少し話を聞け、とオリガに頭突きを入れた。


「痛ぅ~……」

 ウィルの方だけが痛がる結果となったが、その間にウェパルがオリガからナイフを取り上げる。

「落ち着きなさい。貴女の処分を決められるのはこの国で一二三さんだけでしょ? 勝手に死なないで」


「そうですね……では、私は……」

 いつもの決断力がどこかへ行った様子のオリガに、涙目のウィルが叫んだ。

「捜索はオリガさんが一番得意でしょ! 魔導球はウェパルさんに貸したから、モンスターたちと一緒にハジメちゃんを探しに行かなくちゃ!」

 ウィルが言っているのが、自分が得意とする空気の振動を感知する魔法のことだとわかったオリガは、するりとベッドから抜け出して立ち上がり、痛がるウィルの額を撫でた。


「……すぐにフェレスから治癒魔法を受けてください。そして、主人に伝えてください。どのような罰でも覚悟している、と」

 同時に何としてでもハジメを無事に保護する、と宣言したオリガは、失態を見せたことをウェパルに詫びると、すぐに出かけると言ってナイフを袖に収納しなおした。

「すぐに準備するわ。……そうね、オリガさんなら大丈夫でしょうから、高速移動できる魔物でも呼び出そうかしら?」


 魔導球の一つを手に取ったウェパルは、軽く手の中で弄びながら、オリガが元の調子に戻ったことを喜んだ。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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