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156.強要される防衛戦

156話目です。

よろしくお願いします。

 実に三百強の兵士を消耗したところで、ソードランテの兵たちは町の中へと引いていった。ヴィーネが中に入ったこともあったが、何よりも「逃げた」という形が強い。

 勇気ある者たちが数十名殿しんがりとなって一二三に惨殺されている間に、ソードランテの門は固く閉ざされた。

 金属製の頑丈そうな扉は、一二三が八十余年前に見たものとは違うものだ。


 門が閉ざされたところで、一二三は殿に残った者たちを丁寧に一人ずつ殺害して慌てた様子も無く門を見上げた。

「ははぁ。まあ、こういうところは変わるもんだな」

 以前に来た時よりも塀なども立派になっている。

 門の上からは見張りの者たちが弓を手に恐々とした様子で見降ろしていた。


 のんびりよじ登っていたら狙撃されるだろう、と一二三は収納から十字手裏剣を取り出すと、手元が見えないほどの速度で打ち出した。

「ぎっ!?」

「うぐっ!」

 三人ほどの見張りはあっさりと致命傷を受け、一人は乗り出していた見張り台から落下した。


 ごぎり、と首が折れる音がしたが、すでにこと切れていた見張りはぴくりとも動かない。

「さて……」

 門の向こうにはまだざわざわとした人の声が聞こえ、大量の人間がいる気配があった。

 一二三は笑みを浮かべると、門へ向かって走る。

 軽やかに跳躍したかと思うと、門にあるわずかな段差に足を引っかけ、さらに上へ。


 五メートルは有ろうかという大きな門の上、見張り台のところへ手をかけた瞬間、頭上から数人の鳥獣人が飛び出してきた。

「落とせ、落とせ!」

 口々に自分を指して言う獣人たちの声を、片腕で自分の身体を引き上げながら聞いていた一二三は、背後から迫ってくる風切り音を聞いた。


 瞬間、見張り台に足をかけ、上へと飛ぶ。

「なにっ!?」

「飛べることは有利であるのは間違いない」

 だが、と自分がいた場所に鈎爪状の足を食い込ませている鳥獣人へ向けて、一二三は呟いた。

「だが、だからと言ってそんな単調な攻撃ではな」


 くるりと後ろ向きに回転した一二三の膝蹴りが鳥獣人の頭蓋を叩き割る。

 ぐらり、と体勢を崩して落下を始めた鳥獣人を蹴り飛ばした一二三は、そのまま見張り台の上に立つ。

 さらに数名の鳥獣人たちが迫ると、一人の足を掴み、心臓に拾った剣を突き刺す。

 こと切れた鳥獣人の身体を振り回してさらに二人を文字通り叩き落すと、眼下で見ていた獣人兵たちへ向けて死体を放り捨てた。


 どよめきが広がる。

「良し! 今からゲームを始めよう!」

 バシン、と両手を叩いて視線だけでなく聞き耳も立てろ、と一二三は声を上げた。

「すでに一人が町の中に入った。俺も今から入り込む。さあさあ、頑張って止めて見せろ。城に入ったら……この町の代表者を殺す」


 兵たちが静かになった。

 丁度良いとばかりに一二三は言葉を続ける。

「頭がすげ代わったところで、もう少し“素直に”戦いを求める奴が台頭すれば良し。イメラリア共和国とかいう変な名前の国と協力するも良し。とにもかくにも五年後を楽しく盛り上げてくれる奴なら、それで良い」


 詳しくは城で話そう、と一二三は高い塀の上を走り、町の中へと飛び降りた。

 そして、誰もが一二三を追うことができず、完全に見失ってしまった。


☆★☆


「そして、それからどうしたの?」

「は、まだ発見には至っておりませんで……」

「私はどうしたのか、と聞いたのだけれど?」

 ソードランテの王城は以前と同じ建物だが、そこにいる主は変わっている。

 城を牛耳るリーダーである熊獣人オルラは、長身で大柄ながら引き締まった、老齢とは思えぬ肉体を玉座に預けている。


 壇上から報告に来た人間を見下ろす、その視線は冷ややかだ。

「すぐに増員を……」

「意味は無いわね。宣言が本当ならば、狙っているのはこの城でしょう。まずは城の防備を固めるために人員を集中。そして、城内での罠をすぐに使えるように用意を」

 立ち上がったオルラは、流石に年齢からくる疲れが見えていた。


 焦りもあるかも知れないが、仲間たちがいるこの場ではそのような弱さを見せることはしない。

「あなたを人間の中でも特に高い地位につけている意味を考えなさい。私たち獣人族や魔人族の役に立てないようならば、荒野へ放り出すわよ」

「そ、そればかりはご勘弁を……」


 顔中を冷や汗まみれにして平伏する人間は、悲鳴のような声を上げた。

 獣人族や魔人族のように森で生きる能力があれば別だが、只の人間が荒野に放り出されては数日と持たないのは明らかだ。

 ソードランテに住む人間たちが獣人族たちの支配を受け入れてでも町に残っているのは、彼ら自身の能力が荒野を越えるには不足していることにあった。


 『騎士の国』と呼ばれたころの、強い人間が獣人たちを支配する国はすでにない。名前だけが残り、建物だけが再利用されているソードランテは、完全に獣人と魔人族、そして一部のエルフによって牛耳られている。

 獣人族たちが奴隷として扱われていた頃の面影などは無く、報復かのように人間の地位は低い。


「一二三・トオノ……この機会に始末しなくては」

 ソードランテの城全体が、緊張に包まれた一夜が始まる。


☆★☆


「図太いと言うべきか、暢気と怒るべきか……」

 腕を組み、見下ろしている一二三の視線の先には、干し藁に寝転がって寝息を立てているヴィーネの姿があった。

 戦闘後に町中を走り回って疲れ果てているのか、あるいは一二三の気配が希薄であるせいか、すぐ近くに一二三がいるのに目を覚ます様子も無い。


「まあ、良いか」

 一二三もゴロリと横になる。

「……新しい藁だな」

 睡眠をとり、休息することの重要性は一二三も重々理解している。廃屋の様な場所にわざわざどこからか干し草を運び込んだことに呆れつつ、廃屋の中でも屋根に逃げやすく見つかりにくい屋根裏を選んだ点などは、一二三も評価していた。腹部もしっかり手当てしている。


 体力は有限だ、と一二三は自分がどの程度戦えるかを自分で理解している。

 まだまだ戦えるが、城に乗り込んだあとでどれほど戦いが続くかはわからないし、強者がいれば思う存分戦えるようにしておきたい。

 まずは休息をとり、それから食事をする。

「んぅ……」


 一二三の隣で、ヴィーネが小さくうなった。

 片方だけの耳が、ぴこぴこと動いている。何かの夢を見ているのだろうか。

 武器として寸鉄を握り、ヴィーネの隣に並んだ一二三も目を閉じた。

 鼻から息を吸い込むと、干し草の乾いた香りがする。

 口から息を吐いて、一二三は浅い眠りに落ちた。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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