152.遭遇
152話目です。
よろしくお願いします。
魔国へ強襲してきた敵は、人間たちが多いように見えて実際は“混ざりもの”がかなり含まれている。
というのも、この軍勢は大半が傭兵であり、残りは旧イメラリア教が研究していた多種族の混合生態兵器ともいえる者たちだった。
その中には、蘇生されたシャトーもいる。
「抵抗が少ない。諦めた? そんはなずは無いけれど……」
この軍勢を率いているのは三騎士の一人であるウワンが率いていた。だが、彼は単独もしくは少人数での作戦行動には慣れていても、軍勢を率いた経験は少ない。
本来であればオージュの仕事だが、彼女はオーソングランデやイメラリア共和国の戦力を糾合するための工作に動いていた。
この戦いは二つの目的がある、とウワンはオージュやイメラリア教司祭長フィデオローから聞かされていた。
一つは、イメラリア共和国に対するイメラリア教が持つ戦力のアピールだ。魔国の軍勢を軽く押さえられることを証明し、魔王である一二三との決戦を支える重要な役割が果たせる、と示すことが目的だった。
さらに重要な任務として、魔王の現状を確認する強行偵察が主目的としてある。
一二三の動きは派手で補足しやすいのだが、それに反して妻であるオリガや周囲にいる者たちなど、魔王城内の状況はほとんど知られていない。
戦力やその分布を確認し、イメラリア教本来の目的である“アクアサファイア”の在処を調査する。それがウワンに課せられた使命だった。
「別の世界、か……」
傭兵たちはそれぞれのグループを作っており、雇い主であるウワンたちを怪しく感じているらしく、ほとんど話しかけては来ない。
戦場が激減したことで食い扶持を探していた彼らは、怪しいと感じつつもイメラリア教からの依頼を受けざるを得なかったのだ。
大勢を率いながらも孤独を感じていたウワンは、馭者として手綱を操る馬車の荷台へと振り返り、何も語ることが無くなった同僚のシャトーを見上げては小さくため息を吐くと、何度目かのつぶやきを零した。
「一二三さんがいた世界、か。あの人ば誰かから戦い方を教わったんだろうか。教え方は割と上手だったと思うし」
ウワンにとっては、一二三は敵だというよりももっと親しい間柄のような感情があった。
もちろん、自分の立場として倒すべき敵だという意識はあるが、それでも一二三に対しては個人的には好意すら感じている。
いや、憧れと言っても良いかも知れない。
「この戦いが終わったら……教会を抜け出そうかな」
再びシャトーへと目を向けると、ウワンは笑った。
「シャトー。その時は一緒に行こうか? やっぱり、ああいう自由な生き方って楽しいと思うんだ」
そんな話をしながら、ウワンは軍勢をさらに進めた。
魔国内に入ってから碌な抵抗も無く、町や村は門を固く閉ざしていたが食料については充分な量を運び込んでいるので問題にはならない。
それよりも、傭兵たちの不満が溜まっていく方が問題だった。
「村や町を襲わねぇでどうするんだ?」
「これじゃ、俺たちの稼ぎが足りねぇぞ!」
道中に「話がある」と言ってきた傭兵団のリーダーたちは、ウワンを前にして不満をあらわにした。
ウワンは最初、彼らが言っていることがわからなかった。
「報酬ならしっかり払ったはずだけど?」
「そういうことじゃあねぇんだよなぁ……」
教団から前金は支払われており、作戦終了後に残りが支払われるという一般的な契約方法がとられており、内容についても納得して契約したはずだ。
しかし、傭兵たちは別の“実入り”について不満があったらしい。
「敵の支配地を占拠して、金や食い物を奪い、女をいただく。それが俺たちのやり方だ。いや、正規の兵士だってやることだぞ?」
そういうことか、とウワンは納得すると同時に目の前の男たちに対する嫌悪を感じた。
「そういうことは作戦の中に入っていない」
ウワンはきっぱりと断った。
「ガキの使いじゃねぇんだ。現場の不満をどうにかするのは指揮官の仕事だろ?」
「なあ坊や。お前にやれと言っているんじゃあないんだ。近くの町にでも立ち寄って、ほんの一日待ってくれたら、多少なり食料も余裕ができるんだぞ?」
口々に保存食は飽きた、新鮮な肉が食いたいと言い出した傭兵たちに対し、ウワンはそれでも態度を変えない。
「俺たちはイメラリア教の使命を帯びて行軍しているんだ。略奪や暴行なんて許せるはずないだろう」
顔をゆがめて睨みつけてくる傭兵団長たちを睨み返しながら再度断ったウワンは、彼らの顔がいかに醜いものかを感じて、唾を吐き捨てたい気持ちを押さえた。
「納得ができないなら、帰ってもらって構わない。もとより貴方たちにお願いしたいのは派手に陽動して俺が潜入調査するための隙を作るのが仕事だけれど、やろうと思えばこっちの兵士だけでもどうにかなる」
「……ちっ」
一人が舌打ちと共に立ち上がり、話は終わったとばかりに去って行く。
「あんた、綺麗ごとばかり言っているが、そんなんじゃあ戦場で勝てないぞ」
「心配はいらない。俺は君たちよりもずっと強いんだ。それに、魔王城までもう一日も無い距離まできた。理屈で言っても今ここで何か行動を起こす必要も無い」
ウワンの言葉を受けて、納得していない顔のままで他の傭兵団長たちも立ち上がり、去って行く。
「……戦いに身を置いていると言っても、一二三さんとは大分違うんだな」
一二三であれば、女を襲ったり何かを奪うことにこだわったりしないだろう。ただ殺し、勝利する。それがウワンの考える一二三だった。
結局、その日はそのまま野営となったが、問題は翌朝に発生した。
傭兵たちの半数が離脱し、近くにある町を襲い始めたのだ。
「なんでここで面倒を起こすんだ……!」
イメラリア教所属の兵士からそのことを聞いたウワンは、彼らの動きを陽動の一部として利用することも考えた。しかし、目的の一部に“イメラリア共和国に対する作戦遂行力の証明”があることもあって、放っておくことはできないと判断した。
そして、一時間ほど進んだ町へと到着したとき、そこで彼はオリガが率いる部隊と鉢合わせることになった。
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