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148.独裁のカタチ

148話目です。

よろしくお願いします。

 目を覚ましたフォワは、水を飲まされて落ち着いたところで、一二三に問われるままに語った。

 彼が語るところによれば、やはり羊族の集落はソードランテ主流派に属する者たちの村であり、周囲から集まってきた他種族の者たちも同様だという。

 一二三が警戒網に引っかかったら、大勢で夜襲する。これが罠の一つらしい。


「随分と手際は悪かったがな」

「羊族が先走ったんだ。本当なら、もっと大勢が集まってから、それも寝入りが深い明け方前に襲うはずだった」

「功を焦った、か」

 戦闘においてはままあることであり、個人や小集団が目立つことを目的にしたスタンドプレーを行い、結果として全体のバランスを崩すことは珍しくない。


 今回も、完全な包囲ができなかったのは羊族が早く動き過ぎたことが原因だろう。一二三はさておいても、カイテンやプーセが逃げ遂せたのはこの点が大きい。

「狙いは、俺か?」

「そうです。ただ、オーソングランデの人間であれば積極的に狙われます。……ソードランテ主流派……オルラ様の支持者たちは功績を上げて町で彼女の近くで生活することをめざしていますから」


「ふぅん。獣人族も随分と変わったもんだな」

 一二三の記憶では、町に住み、人間と同じように生活環境の向上を目指そうとしていたのは、当時一二三がそそのかしてリーダーにしたレニとヘレンの二人、そしてその協力者たちという少数派だったはずだ。

 それが今や、森の獣人族たちがソードランテへ移住したがっているという。


「しかし、わからんな。住みたければ町に行けば良いだけだろう」

「そうはいきません。町で食料を手に入れるには、主流派に所属しているか、反対派に加担して闇市場を利用するしかありません」

 町の中へ入るだけでも一苦労であり、中に入れば主流派の庇護下にでもない限りは、食料もなかなか手に入らない苦しい生活か、主流派との戦いを強いられる。


 そうか、と一二三はニヤリと笑った。

「ある意味、獣人族も独自の社会を形成して、葛藤をしているんだな。結構、結構」

 何を言っているんだ、といぶかしむフォワに、一二三はさらに問いかけた。

「しかし、どうしてそんな婆さんに唯々諾々と従う? お前たち獣人はシンプルに実力主義だっただろうに」


「……エルフです」

 元々、人間や魔人族と共に、エルフも少数ではあるがソードランテで獣人族たちが運営するコミュニティに参加していたらしい。

「荒野を出る時にザンガーたちと別れた連中だな」

「そういう話を聞いたことはあります。……彼らは魔法が得意で、頭も良かった。いつの間にかスラムを中心としたコミュニティを牛耳って、今のリーダーを祭り上げたそうです」


 それはフォワがまだ生まれる前の話らしい。

 表向きには“人間に父を殺された薄幸の女性”としてオルラをリーダーとして祭り上げ、裏では魔法による暗殺や謀略によって人間たちの町も攻略してしまったらしい。

「魔人族はどうした?」

「数が少なすぎてどうしようもなかった、と父から聞いたことがあります」


 そしていつしかソードランテ全体を牛耳ったオルラ派は、協力者以外には食料や日用品を売ることを禁じるまでの権力を持ち、反対派は密かに殺害していった。

「結果、地下に潜った連中以外は主流派に協力せざるを得ない国の出来上がり、ということか」

「森で暮らすのは苦労の連続です。一度町の生活を知ってしまうと、それを求めずにはいられません。でも、全部の獣人族を抱えるにはソードランテは狭すぎる」


 オルラとその周囲を固めるエルフたちは、彼らの苦労は人間たちの国が荒野とソードランテを荒らしたことにあり、その中心人物は一二三であると宣伝している、とフォワはかたった。

「信じている者も多いです。……昔、一二三という人物が荒野の集落をいくつも壊滅させたことを知っている者は多いんです。言うことを聞かない子供に“一二三が来る”と言って脅したり……」


「待て、それは納得いかないぞ。俺は妖怪か何かか?」

「ようかい?」

「魔物みたいなもんだ。そっちの方がよっぽど子供には怖いだろうが」

 まさか、とフォワは首を横に振る。

「肉食系の獣人が狩るのもあって、森の中は魔物が少ないくらいです。そして荒野で森から出たら、生き物が生きていける環境じゃない」


「やあ、一人捕まえて尋問か!」

「お前は……」

 一二三の背後から、ナバムが現れて明るい声を出した。

 早暁の森の中で、不必要なまでに声が響く。

「ヴィーネちゃんたちはどうにか逃げたみたいだが、俺ははぐれちまった」


 参った、参ったとぼやきながらナバムが歩いてくる気配を感じながら、一二三はフォワから顔を離して立ち上がった。

「怪我をしていたな」

「ああ、大したことはない」

「ヴィーネたちは逃げた。途中ではぐれたと言ったな」


「そうなんだよ。集落から同じ方向に出たんだが、森の中でな」

「そうか」

 一二三は視線をフォワに向けたままだ。

「お前の名は?」

「フォワ」


「フォワ。お前、なんでソードランテの異常さを知ってまだそこにいる? 空を飛べるなら敵を足ででも引っ掛けて高所から落とせばいい。逃げるのも楽だ。なぜやりたくも無いことをやってまでソードランテにいる?」

「やりたくも無いなんて……」

「嘘は吐くな」


 ぴしゃりと言われ、フォワは口をつぐんだ。

「お前にはもう、用は無い。それに……」

「おう、どうした?」

 振り向いた一二三の視線を受けて、ナバムは引きつった笑みを浮かべた。

「悪いが、俺は一度見知った相手の気配はすぐにわかる。多少は慣れていても、だ」


「そりゃすごい!」

「だから、お前の嘘もすぐにわかった。お前、最初からヴィーネたちとは全く別方向に行っただろう? しかも、他の獣人族どもが来る方向に」

「……何かの勘違いじゃないか?」

「勘違いか。そうかもな」


 だが、と一二三は踏み出す。

「俺はお前の言葉より自分の勧を信じる」

「や、やめ……」

 不穏な空気を感じ取り、踵を返して逃げ出そうとしたナバムはあっという間に一二三につかまった。


 肩を軽く撫でられただけだが、走り出そうとして踏み出した足は宙を蹴り、ナバムの身体は仰向けに倒れる。

「手を抜いたのは反省点だ。やはり自分の目で見ないとな」

「う、うおおお!」

 仰向けのまま、ナバムは自分を見下ろす一二三の顔に鋭い爪を突き出した。


 軽く顔を引いた一二三の目の前で爪は止まるかに思えたが、横からの力が加わってナバムは仰向けからうつ伏せへと変化させられ、突き出した腕は捻りあげられる格好になった。

 一二三の手が、手首と肘をしっかりと押さえているせいで、足をばたつかせる以外にナバムは成す術がない。

「お前は用済みだ」


 ナバムが何かを言う前に、一二三の足がナバムの首を踏みつけ、へし折った。

 空気が漏れるような音を口から流して、ナバムは死んだ。

「……あ、ああ……」

 力も速度も上回るはずの獣人が人間に素手で殺される光景を目にして、フォワはガタガタと震えている。


「さて、ソードランテへ行くか。じゃあな」

 死体に目もくれず、フォワを見ることも無く、一二三は音も無く森の中へと消えていった。

 遠くから聞こえていた獣人族たちが一二三を探し回っていた音に、ほどなく悲鳴が混じり始めた。

「はあ……」


 大きく息をついて、肩を動かしてみたフォワは、どうにか飛べるだろうと判断して、震える膝を何度か叩いてどうにか立ち上がった。

 痛みにこらえながら、朝日に照らされ始めた一部の梢を見たとき、フォワは逃亡する覚悟を決めていた。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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