127.迫られる対応
127話目です。
多忙のため短めな更新ですが、よろしくお願いします。
「……はっ!?」
覚醒と同時に身体を起こしたヨハンナは、自分が自室のベッドにドレスのままで横たわっていることに気付いた。
「……え?」
「陛下! お目覚めになられたのですね!」
「目覚め? え?」
混乱しているヨハンナに、傍にいた侍女は落ち着くようにと伝えて、プーセを呼ぶと言って部屋から速足で出ていった。
ほどなく、プーセが部屋へとやってくる。彼女も忙しない足取りだった。
「お加減はいかがですか?」
「その前に、何がどうなっているのか教えて欲しいのだけれど……」
ヨハンナは自分が式典で建国の宣言を行ったところと、オリガが妙なことを言い出したことまでは覚えていた。
「そのあと、一二三様が降ってきたような気がするのだけれど」
「そうですね。そこからのことをご説明します」
一二三とはヨハンナも会話をしていたはずだが、そのあたりの記憶はすっぽり抜けてしまっているらしい。それほど衝撃的だったのだろう、とプーセは目頭を押さえた。
「さあ、無理をなさらずにベッドへ横になってください」
「そうね……その前に、着替えたいのだけれど。折角のドレスが皺だらけになっちゃった」
「はい。ではこちらに」
寝室のクローゼットからシンプルな夜着を取り出したプーセは、ヨハンナの着替えを手伝ってドレスをクローゼットへ戻す。後で侍女に渡して洗浄と補修をさせねばならない、と心の中でメモをする。
「まず、一二三さんが現れてからのことをご説明します」
説明を聞き始めると、ヨハンナもようやく一二三が話した内容を思い出した。
「五年経てば、一二三様が魔王として世界征服に乗り出す、と。そういうお話だったわね」
「その話が出たところで、陛下は椅子にもたれかかっておられましたので、そこで気を失われたのかと」
直後に気付いたプーセが慌ててヨハンナの身体を支え、騎士たちにこの屋敷へと運ばせたのだ。
「その後も、一二三さんの話は続きました」
一二三がいる魔国で訓練を受けることが可能であるという説明の後で、侵攻に備えるか、逆に一二三を倒すかの二択であるという話になった。
会場にいた者からいくつかの質問が上がったが、一二三はすべてに答えなかった。
「“詳しくは近く公表する。気になるならそれまでこの町にいるように”と言って、一二三さんは会場を出られました」
「そうなると……式典が終わった今も、ほとんどの領主がここに残っているのでしょうね」
「その通りです。全ての貴族たちが今回の宣言に対する対応について協議を求めております」
この時点で式典から一晩が経っているが、閉会後からひっきりなしに問い合わせが来ていた。プーセが全てを遮っているが、長く沈黙を守るのは難しいだろう。
「陛下はこの国の代表として、指針を示さねばなりません。もちろん、合議を行う必要はあるでしょうが……」
「貴族による議会の最初の議題が、世界の運命についての話になるとはね……」
無難な漕ぎ出しにはならないかもしれないと覚悟はしていたが、まさかこれほどの難題が目の前に立ちはだかるとは、とヨハンナは再び目の前が回っているような感覚を覚えた。
「もう一つ、お伝えしておきたいことが」
「まだ、何かあるの?」
「一二三さんがホールの天井を突き破って登場した際、二人の人物を捕まえていたことを憶えておられますか?」
首を傾げたヨハンナは、今一つ記憶にないと答えた。
「荒野の向こうにあるソードランテからの刺客である、と一二三さんは説明していました。その二人以外に四人が会場の外で一二三さんとヴィーネさんに殺害されています。このことは会場の警備に当たっていた騎士たちからも確認がとれています」
一二三によって捕らえられたのは、鷹型の獣人とエルフで、どちらも男性だった。
「二人の身柄を、一二三さんは共和国へ譲られました。……ソードランテの勢力と手を組むか否かの判断材料にしろ、と」
「素直に話してくれるかしら?」
「拷問でもなんでもすれば良い、と……」
プーセの言葉に、ヨハンナは目と口を思い切り開いて、信じられないという顔をして絶句する。
「待ってください、一二三さんがそう言っただけで、私がそうするべきと言っているわけではありません!」
だが、貴族たちの中には、折角捕縛している状況なのだから、可能な限り情報を引き出すべきだろうという意見も多い。
「トオノ伯爵も、謎の多いソードランテという国の情報を得るために多少手荒なことも必要だと考えているようです」
「メグナードが……。わかった。とにかく幾人かと話をしましょう。メグナードを含めて何人かの貴族を集めてもらえる? それと、ソードランテについて多少は知っている人がいれば良いのだけれど……」
「それでしたら、私が」
「えっ?」
プーセは自分の胸に手を当てて頷いた。
「ソードランテという国。少なくともそこにあった獣人たちが作った町に、私は住んでいたことがあります」
プーセは懐かしさに目を細めた。
八十余年前、それはエルフという種族全体の運命が動き出した時でもあった。
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