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123.帰還報告

一二三話目です。

よろしくお願いします。


※多忙のため、少し短いです。申し訳ありません。

「うるさい」

 部屋に飛び込むなり、一二三からの叱責とオリガから張り手で強制的に黙らされたヴィーネは脳が揺らされた衝撃でふらつきながらも、かろうじて一二三のところまでたどり着いて座り込む。

「こういう時に頑丈さを発揮してどうするのです……」


 呆れたようなオリガの声を聞き流し、ヴィーネはベッドに座る一二三の足元から見上げた。

「体調を崩されたと伺いましたが……」

「もう治った」

 それが本当だと示すように、しっかり袴を着けた一二三は、するりと音もなく立ち上がった。


 そのまま、用意されたティーテーブルに向かい、冷めた紅茶に口をつける。

「それで、どうなった?」

「色々ありました」

 ヴィーネはウィルが盗賊に襲われているところで音が聞こえたおかげで間に合ったところから始まり、アルダートらを助けてここまで同行したことも報告する。


「アルダート……? ああ、あのサブナクの孫だかひ孫だかのランスロットが雇っていた冒険者か」

 どうにか例の四人組を思い出した一二三は、別にランスロットと話すのは問題ないと答えた。

 それから、サブナクという男を思い出す。


 サブナク・トワストという男がいた。

 オーソングランデがイメラリア体制へ移行する際に表舞台に出て来た人物で、彼の名前が歴史に登場するのは一二三の存在に付随してのことである。

 勇者として呼び出された一二三が立ち寄った町で、騎士として平民に変装して内偵を行っていたサブナクは、調査のために一二三に近づいた。


 以降、何かと一二三と縁ができ、戦闘力は大したことがないものの事務処理能力に優れた部分があり、組織の整理について才を発揮したこともあり、イメラリアが女王として即位する際に創設された近衛騎士隊の初代隊長となった。

 一二三という人物に詳しい一人であったが、一二三封印後は近衛騎士隊長をそつなくこなし、別組織の騎士隊と連携する仕組みを作り上げて勇退した。


「あいつはサブナクと似ていて、妙に回りくどい方法をとる癖がある。どうせ大したことは考えていないだろう。話を聞いて面白い提案でもあるなら乗る。そうじゃないなら聞き流す」

 それだけだ、と一二三は言ってカップをテーブルに戻した。

「今日でも構わない。そう伝えておいてくれ」

「はいっ!」


 素早く立ち上がったヴィーネと入れ替わるようにウィルが入ってきた。

「うっ……」

 室内にオリガがいるのを見つけた途端にひるんだが、咳ばらいをしてしっかりと歩いていく。

「病気だって?」


「もう治った。それより、お前の研究の進捗を聞きたい」

「順調……と言いたいけれど、なんとも。基本的に“できている”とは思うのだけれど、移動の間にどうにか一つだけ魔導陣を作れた程度よ」

 ポーチから一つの魔導球を取り出して見せたウィルは、口をへの字に曲げてむふーっと鼻息を吹いた。


「指定召喚魔導陣。理論上は完璧なはずよ」

 ただ、魔力を送って魔導陣を発動させる人物のイメージがよほど明確でないといけないこともあり、ウィルでは発動できないという。

「お前が前の世界の誰かを呼べば良いだろう」

「そんなしっかり覚えている相手なんていないもん」


 きっぱりとウィルが答えると、オリガはそっと目元を押さえた。

「寂しい人生を……」

「いや、そういうんじゃないから。違うから。単に魔導陣にしか興味が無くて、研究を狙ってくる連中もいたから、住処もちょいちょい移動していたし」

 ウィルは手を振って否定したが、オリガは優しい目を向けて頷いていた。


「誤解している……」

「呼ぶ方はわかった。いくつある?」

「今あるのは二つ。渡しておく?」

 ウィルはポーチからもう一つの魔導球を取り出し、あっさりと一二三に手渡した。彼女にしてみれば研究の環境を作ったのは一二三であり、ある種のスポンサーでもあったので、それは当然のことだという認識らしい。


「それに、あたしが使えない魔導陣を持っていてもね……。使うところを一回見せてもらえたらそれでいいわ」

「わかった。その時には呼ぶとしよう。それで、呼ぶ方は良いが送る方はどうなっている?」

「一か月」

 人差し指を立てて、ウィルは宣言した。


「今から一か月か」

「いいえ。道具が揃ってから一か月よ。例の襲撃で散逸した道具もあるから」

 前の世界から持ち込み、城に残した機材がある。あとは消耗品になるものやこまごまとした特注の道具が用意できれば問題ない、とウィルは言う。

「魔国のお城に戻って、道具の準備に一か月かかるとして、合計二か月ね」


 ウィルの説明を聞いて、一二三は顎を撫でた。

「そうか……。実は、お前を襲った連中もそうかも知れないが、以前少しだけ関わった国の連中がここを襲撃してきた」

「恨まれてるのね」

 恐らくは一二三が言う“少しだけ”はあくまで主観での話だろう、とウィルは疑っている。


「詳しくは、オリガにでも聞いてくれ。それよりも、今後の楽しみのためにやろうと思っていることがあるんだが」

「何を?」

 きょとんとしているウィルは、自分が一二三のやる何かに関係があるとは考えていなかった。研究者として技術的な協力をするのはやぶさかではない。


「襲ってきた連中も含めて、イメラリア共和国やオーソングランデ残党。それにホーラントとも魔国は全部手を切る。というより敵に回す」

「……まだ敵じゃなかったの?」

「お前は俺をなんだと思っているんだ」

「魔王なんだから、そうなんじゃないの?」

「そうなってないから落ち着かないんだろうが」


 ウィルはどうやら、魔王として君臨している一二三は周囲から恐れられていることもあって、世界的なイベントに呼ばれることはあっても友好的な付き合いはしていないと考えていた。

 襲撃を受けたことに不満はあっても不思議と感じなかったのは、性格破綻者である一二三の周囲は敵だらけであり、襲撃程度は“あり得る”と考えていたからだ。


 その説明を聞いて一二三は怒る気すら起きなかった。

 だが、プーセやサウジーネなど、その程度の付き合いで敵対も協力も無いという形を望んでいるものは実際に少なくはない。

 排除できないなら近づかない。ウィルはそれこそ当然の帰着だと考えていた。

「攻撃もされない魔王なんざ、いる意味がないだろうが。それになにより、俺が楽しくない」


「世の中全部があんたのために動いているわけないじゃない」

「ウィル。口を慎みなさい」

 おっと、とウィルは失敗したという顔でオリガをちらりと見た。さすがに一国の王に対して言い過ぎたかと思ったのだ。

 だが、オリガが口をさしはさむ理由はそこにはない。


「世の中の為政者は一二三様を打倒するための知恵を絞る義務があります。強者は武力で挑戦し、魔王たる一二三様を殺すことを目指すべきなのです。その意味では、この世界は一二三様のために動いているのです」

「あ、はい」

 反論は色々不味いことになる、とウィルはただ頷き、肯定するだけにした。


「そもそも、冒険者ではなくなった私が今でも戦いの技術を磨いているのも、偏に夫である一二三様のご希望を……」

「待て、待て。オリガ、その話はきっと長くなる。あとでウィルにたっぷり聞かせてやるのは構わんから、まず俺の話をさせろ」

「これは、失礼いたしました!」


 慌てて頭を下げるオリガは放って、一二三は改めてウィルへと向き直った。

「聞かされるんだ……」

「それで、だ。ウィルに仕事を二つ用意した。やりたい方を選べ」

「仕事?」

「魔国以外のどこかの陣営について、俺の打倒に協力する。もしくは、俺を倒した誰かにお前の技術を本人ごと引き渡す。前者の方がやりがいはあるが……」


「どっちも嫌だぁ!」

 いずれにしても明るい未来が見えないことを瞬時に察したウィルは、一二三の言葉をさえぎって大声で叫んだ。

「敵対したらあたしあんたに殺されるじゃない! それに技術を本人ごとって、あたしが賞品みたいじゃない!」


 断固拒否を表明したウィルとの話し合いは続き、最終的にはウィルの研究成果を発表し、一二三を倒せばその技術を伝達する。また希望する陣営にはウィルが召喚する何者かを協力者として貸し与えるものとした。

「敵に味方を増やすとか……」

「そのくらいのハンデがあって丁度いい」


 式典が終わり次第、このことは大々的に公表されることに決まった。

 およそ一時間の話し合いが終わると一二三は久しぶりにまともな食事を採りたいと言って出かけ、残されたウィルはオリガから一二三という人物の重要性について「わかりやすく簡潔にまとめますが」と三時間ほど聞かされ続けた。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。


※あんまりな誤字をご指摘いただきましたので、取り急ぎ修正いたしました。

 申し訳ございません。

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