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118.一二三を追って

118話目です。

PCトラブルでちょっと短いですがよろしくお願いします。

 魔国のイメラリア共和国国境方面の終点にたどり着き、接続させていた線路の分岐を通過した魔王列車は、すでに国境を越えている。

 あと一日で列車はフォカロルに到着する予定になっているが、ウィルがはぐれたときの襲撃以降は何もなかったために、一二三は不満だった。

「やはり狙いはウィルだったということでしょうか?」


 専用車両の中央で正座し、目を閉じている一二三にハジメを抱えているオリガが声をかけた。

「そうだな。襲撃の時も俺を狙っているように見せて、実際はウィルが乗っている車両を最初に襲撃した」

「まっすぐ向かったのですか?」


 オリガとウェパルは先頭車両で線路を破壊しようとする敵を排除することに集中しており、それ以外については大まかにしか把握していない。

「集団は四つ。線路上で妨害に出た連中。俺と戦った連中。そして車両の左右からウィルの車両を襲った二つの集団だ」

 一二三は目を開いて立ち上がり、刀を掴んでオリガの隣に座る。


 ふと見ると、オリガの指先が軽くハジメの頬に触れていた。

「少しずつ調整しながら魔力を送ると喜ぶんです。この子はとても才能が有ります。魔力を体内に取り込んで、少しも漏らすことがありませんし、まだまだ限界が見えません」

「魔法使いの才能が有る、か」

「ええ。そしてきっと、あなたのように武の才能も有ります」


 断言するオリガに、一二三は首をかしげた。

「才能か。そんなものより、こいつ自身の意思だがな」

 一二三は左手の手袋を外し、黒く染まった指先でハジメの頬に触れた。

 頬はわずかに黒く染まったが、砂地に水がしみ込むようにしてあっという間に元の肌の色に戻った。


「これは……」

「俺の魔力も問題なく吸収するとはな」

 驚くオリガの隣で、一二三は笑いながら手袋を付けた。

「この魔力吸収がこいつ自身の意思で、生き残る意思や強くなりたい意思がそうさせるのなら、見込みはあるかもな」


 一二三は自分が才能あって強いとは少しも考えていなかった。問題はかみ合わせと鍛錬に励む努力。そして強くなりたいという意思が必要なのだと信じている。

「だからこそ、あの時お前が強くなりたいと言ったのに俺は協力するつもりになったんだ」

「一二三様……」

 一二三はハジメ本人が戦いたいというならそのための技術を教え込むつもりだったが、そうでなければ好きにさせるつもりだった。


 意思の力こそが強さの根源だと一二三は断言する。

「話の内容そのものは素晴らしいと思うけれど……意思の方向も問題じゃないかしら?」

 二人が話している車両にウェパルが訪れ、軽く拍手をしながら一二三の前になった。

 指先で一二三の胸を指し示し、軽くつつく。

「強い意思は魔法の威力も上げるわ。オリガさんのように貴方と肩を並べたい、子供を守りたいという意思の強さは良いけれど、貴方はどうなのよ」


 人を殺したいという意思。

 強力かつ一二三の根源から湧き上がるその思いは、この世界を大きく変えた。変わった結果が良かったか否かは別として。

「だから、俺は誰かに“武術”は教えても“武道”を教えるつもりはない。俺に賛同するも距離を取るのも自由だ。味方になるのも敵になるのも好きにすれば良い」


 選択の結果は全て当人の責任でしかない。

 一二三はそこまで話すと、ウェパルに要件を尋ねた。

「後ろの車両に放り込んでいた襲撃者の死体だけれど、全て確認したけれど、イメラリア教所属を示すようなものは無かったわ。」

「そうか。そんなら相手の正体は不明ってことだな。また襲ってきたら、生け捕りにして聞いてみるか」


「ウィルを探しに行くの、ヴィーネ一人で良かったの?」

「心配ない」

 ウェパルの不安を一二三は一蹴した。

「あいつ等兎獣人の耳は大したもんだ。片方だけでもどうにかなるだろ」

「また襲撃されるかも知れないのよ?」


「あの程度の連中なら問題ないでしょう」

 今度はオリガが答えた。

「彼女はああ見えて、主人と私から鍛えられたのです。無事にこなして見せるでしょう。そして、そうあらねばなりません」

「そうあらねば、ね」


 こっそりヴィーネに援軍を送っておくべきじゃなかろうか、とウェパルは考えた。ウィルと共に戻ってきたとしても、うっかり怪我でもしていたら失敗とされて特訓を課される可能性が見えたのだ。


☆★☆


「ご主人様とお知り合いだったんですか」

「ああ。ビロン伯爵からの依頼で、数日一緒に行動した」

 ウィルとヴィーネに助けられたアルダートたち四人は、町の治療院に運び込まれた。怪我は全身にあったが、二日も休めば動けると治療師は判断している。

 ベッドの上で包帯だらけになったアルダートは、礼を言って聞かれるままに事情を話していた。


「ビロン伯爵……たしか、元オーソングランデ騎士団長のサブナクさんの子孫の方でしたね。誰かに聞きました」

「その通りだ。……そうか、サブナク騎士団長と面識があるということは、やはり君は、いや貴女は“片耳のヴィーネ”だったのか……」

「何よそのクソダサい二つ名」


 ウィルが笑いを交えてつぶやくと、ヴィーネとアルダートが目を見開いて彼女の顔を見ている。

「……何よ」

「えっ、格好良くないですか?」

「俺は魔人族だが、獣人族を始めとしたオーソングランデの冒険者には有名だぞ。あの一二三の従者であり、封印前には魔人族軍を相手に兎族とは思えないほどの活躍を見せたと伝わっている」


「ちょっと待って。本気で言ってる? 格好いい二つ名として伝わってるの?」

 驚愕するウィルに、ヴィーネは胸を張っている。

 他のベッドに寝ていた猫獣人ミンテティが口を開いた。

「冒険者には有名よ。普通は兎獣人がそこまで強くなるなんて信じられないもの」

「“片耳”なんて、悪口にしか聞こえないんだけれど」


 ヴィーネの頭の上で嬉しそうにぴこぴこと揺れる一本の耳をつついて、ウィルは理解できない、とこぼした。

「本来ならば兎獣人は二つの耳で立体的に音を聞いて周囲の状況を知るのが得意なんだ。そこにハンデを持ちながら尚、英雄の従者として活躍したということで有名なんだよ」


 アルダートの言葉に、ヴィーネはさらに仰け反らんばかりに胸を張っている。

「……これが異世界との文化摩擦ってやつなのかしら。そんなつまらないことより、あんたたちはこれからどうするの?」

「つまらないって……」

 あっさりと話題を変えられてうなだれるヴィーネを放って、ウィルは尋ねる。


「俺たちは一二三さんに会うために魔国に来たんだ。イメラリア共和国の開国式典に向かう前に合流して、会談の申し入れをする使者だったんだが……もう出発しているんだろう?」

「そうですよ? 私たちははぐれ……ちょっと別行動をしているだけ、予定通りなら今日明日くらいにはフォカロルに到着しているはずです」

 はぐれたという言葉を使おうとしたらウィルににらまれて、ヴィーネは慌てて言葉を変えた。


「遅かったか……」

「回りくどい方法をとるわね。共和国? に入ってから申し入れすれば良いだけじゃない」

「そこなんだが……」

 アルダートはヴィーネとウィルの二人を見た。


 ウィルの正体は不明だが、一二三の従者であるヴィーネには話してしまって良いだろうと判断する。

「……共和国に不利になる内容らしい。詳しくは知らないが、だからこそ共和国の目が無いうちに、秘密で話ができる状況をビロン伯爵は作りたかったんだ」

 改めて、アルダートはヴィーネに頼み込んだ。


「どうか、同行させてもらえないだろうか。そして、我々だけ先に一二三さんに会わせて欲しい。伯爵から謝礼が出るようにするし、もしなくても俺たちがもらう報酬から手間賃は出す」

 しばらくウィルとヴィーネで相談した結果、彼らを連れて列車で一二三を追いかけることに決まった。


 会談については一二三が決めることであって、ヴィーネでは判断できない。そして一二三の知り合いというのを放っておく気にはならなかったのだ。

「そう決まったら、この町はさっさと出た方が良いわね。また襲われたら面倒よ」

 おちおち寝られないのはもう嫌だ、とウィルは大きなあくびをしていた。

お読みいただきましてありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

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