第7話 日常←過程
7話目。
遥さん、イジワルです。
ーーーー????/??/?? ??:??:?? イリューシカ平原
検問所での相談から数時間、日も落ち月明かりが照らすイリューシカ平原。
検問所より少し離れた所に生えている大木の根元で遥は座っていた。
ここの大木は昔の戦争があった時から生えていた木のようで所々に焼けた跡や傷跡等が残っていて、遥はそれをまじまじと見ながら実感していた。
(ここは、異世界で自分が体験したことのないせかいなんだな……)
ふと、ずっと忘れていたスマートフォンをズボンのポケットから取り出す。
画面をつけるとそこには友人達と撮った写真の壁紙と時間が『2015/07/21 02:43』と表示されていた。
(……みんな、元気かな)
異世界に転移して既に八時間以上経っている。
その八時間は遥の中で色濃く残っていた。
(それにしても、結局わからないことだらけだな)
魔法、王国、通貨……。
これら全て聞いたことのないものばかり。
それと、何故か言葉が通じているということ。
様々な疑問が遥の頭の中でぐるぐると堂々巡りしている時、近づいてくる明かりが目に入り立ち上がって確認をした。
(お、来たか)
その明かりの主はシャル。
遥は、シャルに一つのお願いをしていたのだ。
それは、シャルの国の男性の服。
先ほどの検問所で様々な人達がいたが、少なくとも皆が着ていたのは遥のような洋服ではなく一部が鎧のようになっている服だったのだ。
そして遥はその時の様子を確認して、ここはあくまでも検問所であり、検問自体はさほど厳しいものではない事に気付いていた。
それならと、遥は変装と説明でうまくいけるのではないかと踏んだのだ。
「ハァ……ハァ……、言われたもの持ってきたよ……」
走ってきたシャルは、肩で息をしながら手に持っていた袋を手渡す。
そこには、成人男性の服のセットと靴、短剣が入っていた。
「ありがとう。ごめんな、無理を言って」
「ううん、大丈夫。でも……ひとつ謝らなきゃ……」
シャルは落ち着いたと同時に、もじもじし始めた。
遥は理由も何も全くわからないため、シャルの謝る理由を訊く。
「え、何を?」
「そ……それは……その……」
持っていた照明具をゆらゆら揺らしながら下を向くシャルは、遥の目を真っ直ぐに見れていない。
それもそのはず。
理由は至極簡単で、年頃の女の子には難しい事ほかならない。
「し……下着とか……鎧下とか……男性物は……」
「あ、そりゃそうか」
鈍感な遥も流石にそこには気付く。
年頃の女の子に頼むことじゃなかったとそこで初めて気が付いた。
「ごめん、そこまで気が回らなかった」
「だ、大丈夫だから!それより……どこで着替えるの?」
「え?ここ」
「っ……!?」
遥は大木の裏に指をさす。
シャルは下を向きながらもじもじしていたため、それが見えていない。
つまりシャルは遥が『シャルの目の前でも着替える』と言ってると勘違いしてしまっている。
そして、その勘違いは加速する。
「そ……その……誰かに見られるかも……」
「……?いや、ここまで暗いし、流石にここなら他の人からは見えないよね?」
「いや……でも、それでもここでなんて……」
(……ん?なにか勘違いしてないか?)
「別に、見られても減るものじゃないし……俺は男だから問題ないかと」
「み、見られてもっ!?」
シャルはどんどん顔が熱くなってきて、真っ直ぐに見れていないことに気付く。
遥はシャルが勘違いしている事に気付くも、何を勘違いしているのか気付かない。
二人の噛み合わない会話はそのまま続いた。
「……シャル?ここら辺って誰か通るの?」
「こ……この時間なら大丈夫だけど……わ……私は……そのぅ……」
「それなら、大丈夫か。なら着替えよっと」
「っ!!」
(目を閉じとかないと!!遥の裸をみちゃう!!)
ギュッと目を閉じるシャルを見て、ここで全てを気付いた遥は微笑ましいなと思いつつもすこし恥ずかしい気持ちになった。
(あー、多分シャルの目の前で着替えると勘違いしてるんだろうな……この様子だと)
遥は笑いを堪える。
(このままだったら遥の裸を見ちゃう……で、でも……遥はここで着替えるって言ってたし……それに……遥の身体って意外とたくましいし……すこし見てみたいけど……触れてみたいし……いや、まってシャル!!)
目を閉じておきながら、色々考えて顔を赤く染めるシャル。
遥は、ここで悪戯心に火がついた。
(……これってさ、多分こうしたら面白い事になるんじゃないか?)
遥はすっと横を向いて、ベルトに手を掛ける。
わざとらしくカチャカチャと音を鳴らしてそっと呟く。
「ん……?ベルトが外せない……ズボンを脱ぎたいのに……」
チラッとシャルを横目で見ると、今の言葉がシャルにクリーンヒットした様で、その場でしゃがみこんでしまった。
(ベルトっ!?ズボンっ!?えっ!?まさか、下を……ここで脱ぐの!?あ……見たい……けどだめ!シャル!わたしはそんな……でも……)
遥はそのままシャルを見ながら次に進める。
「ま、ズボンは後でいいか。まずは上を脱いで……これはどう着ればいいんだ?」
(上の服を着替える……なら……チラッと……いやいやいやいや!!……少し……少し位とか考えちゃ……でも……今は暗いし……見えても……だめ!だめなのシャル!)
わざとらしく呟く遥のひとつひとつの言葉が、シャルに多大なダメージを与え続けた。
遥はと言うと、既に着替えが済んでいた。
「シャル、もう大丈夫なんだけど……」
「はっ!!はいっ!!」
驚いたように、シャルは飛んで立ち上がった。
顔は真っ赤に、頬は熱く、頭は真っ白で。
「……シャル?大丈夫?」
「だ……大丈夫……だと思う……」
(……ちょっと……今日はすぐには眠れなさそうかも……)
シャルは、ずっと頭の中で遥の裸を想像してしまい真っ直ぐに顔をあわせられていない。
遥は軽く動いて着心地を試す。
キジカの服は軽く、動きやすい……言わば体操着のような服の上に薄い皮の鎧と軽い篭手、腰には短剣がかけられてある。
(動く分には申し分無いな、この服は)
サイズも問題ない事に満足した遥は、そのままシャルにお礼を伝える。
「ありがとう、このお金は働いて返すよ」
「あ、うん、大丈夫!」
そう言いつつもシャルは目を合わせない。
月明かりに照らされて顔が真っ赤な事に遥は既に気づいていたが、それも可愛さの一つと受け取って話を進めた。
「さて、それじゃ俺はここら辺で日が出るまで休むかな」
「え、そうなの?検問所は今でも……」
シャルは落ち着いたのか、遥の休むという言葉に疑問を抱く。
「いや、明日の方が都合がいい。この時間の方がかえって怪しまれる。明るくなって、シャルが迎えに来てくれたら問題なく入れるはずだ」
「うーん、まぁ、そうだけど……ここら辺って、この時間だと希に魔物がでるって噂だよ?」
「その時はその時さ」
シャルは心配そうに遥に訊いた。
その事が遥はとても嬉しかったが、同時にくすぐったくもあった。
「でも、心配してくれてありがとな。シャルはそろそろ帰った方がいい。家族も心配するだろうしな」
「う……うん、じゃあ、また後でね!」
「ああ!」
シャルは遥の気遣いに気付き、笑顔で走って街の方に戻っていった。
見えなくなるまで手を振りながら。
(……元気だなー……さて、と)
すっと大木の後ろに目をやる。
普段とは違う、冷静な視線を。
「さて、人払いはすんだぞ、何の用だ?」
大木の裏、指をさした場所に声をかけた。
いかがでしたでしょうか?
遥さん、女の子を手玉にとるの好きですね…(棒読み)
ぜひ、また読んでいただければ嬉しいです。